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44、王とカリスマ

 その者が現れたことで、広場は瞬く間に歓声の渦に飲まれた。


「ギルディアスーっ!」

「キャーっ! ギルディアスさまーっ!」

「よっ、俺等のヒーローっ!」


 台座の上には、叫ぶ観衆に向け手を振る若い男が居た。花びらのような薄紫のサラリとした髪。女性を虜にするような鼻筋の通った甘い顔。背丈もそれなり。そんな彼の目によほど留まりたいのか、胸をさらけ出している女もいる程(その者はすぐ衛兵に連れていかれてたが)。


 ともあれ、それでも老若男女問わず、誰からも支持を集める彼。そんな、白の剣士のような衣装を着た彼が両手を大仰に広げる。――と、それだけでまた歓声が上がった。


「ギルディアスー! いいぞーっ!」

「ギル様ー! 素敵ー!」


 拍手喝采。そして、最後には一体のコールが沸き上がっていた。


「ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス!」


 大気が割れんかのような歓声。


「ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス!」


 しかしその音は、


「ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス! ギルディアス! ギルディア――」


 パンッ。


 彼の一拍で、嘘のように静まり返った。


「お声頂き感謝する。私がこの国の王『ギルディアス』だ」


 そして彼は胸に手を当て、一礼。


 まばらな拍手と歓声が一瞬起こるが、次の瞬間には先のような渦が戻っていた。それが程なくして、彼は、前に出した両の掌をそっと下に下げる。落ち着くように、とでも言うように。寸刻前の“ピタリ“と止むものではなかったが、それでも静寂にはなった。


「国民である紳士淑女の皆様。今日こんにちも、このような場所へこれだけの方が足を御運んで下さったこと、大変光栄に思っております。さて、私は昨日――」


 俺は視線だけを動かし、周りの観衆を見る。観衆はまるで、何かに取り憑かれたよう台上を見ていた。


 そしてその後、隣のノーヴィスへ。


 彼は、ハァ、ハァ、と冷や汗を掻き、地獄でも見たような顔でしゃがみ込んでいた。

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