40、不在と老人、双子
外は曇りではあるものの、雨が上がっていた。
何か引っ掛かることがあの食堂であったものの、食事を終えた俺は城下町を歩いていた。商人や住人で溢れた町はやはり食堂へ向かった時と同じく、圧政とは程遠く賑わっているように感じた。特別派手という者も居ない、が、特別みすぼらしいという浮浪者も居なかった。
あの村長には悪いが、デマじゃないか?
通り過ぎる人、皆、程々に充実した顔で困っているようには見えなかった。圧政と言えば、仮に口に出来ない事情があったとしても(言えば投獄など)、それでも不満の雰囲気や目は滲み出るものだと思えた。しかし、そんな目は道行く人には見られない。
結局、王の周りを調べるのが一番か?
城への侵入は【透過】を使うとして、あまりそれを城内で解くのは賢明とは言えないか······? 俺は、人の気配を感じれるわけでも、見えない警備や罠にすぐ対処出来るわけでもない。もし仮に、侵入を感知するスキルがあり一瞬で攻撃された場合、場合によっては死ぬ可能性もある。王城の侵略に等しい。普通に考えて銃殺ものだろう。ともあれ、しかしそんなのは本末転倒だ。避けねばならない。先手は取れても、先手を取られるのには弱いんだ。新しく得たスキル【再生】があれば致命傷でももしかしたら無事かもしれないが、試すには不安要素があるしな。
スキル【無痛】:全ての痛みを無くすことができる。※ただし、怪我をしたなどの事実が消えるわけではない。
スキル【再生】:負傷、損傷した部位を完全修復する。
スキルの複数使用は、山賊小屋の扉を腐らせた際に可能だと確認済みだ。もし、この二つが組み合わせられたのなら“最強“だろう。だがしかし、この表記では『死からの復帰』まで可能なのかは果たして怪しい。スキルは念じるだけで瞬時に発動出来るものの、それを念じる箇所――つまり『脳』が停止してしまったのなら発動できない可能性が恐らく高い。先に発動させて、数秒後に効果が出るなら『復帰可』だろうが、これはそうは思えない······。
俺は、それらの事を考えながら城下町を見て回った。十五分ほど歩いた。だが、やはり人の様子は全く変わらないため、このままでは判断のしようがない。と、結果、最終的に訪ねようと思っていた城へと足を運ぶことにした。
しかし、
「ギルディアス様は明日まで帰られない。書状は私が預かっておこう」
「よろしくお願いします。ガルラ様」
肝心の王は不在のようだった。
ここへ向かう途中で【透過】を解かずに調査することに決めた俺は、兵士と家臣らしき者の話を盗み聞きしていた。道中や城内でも耳にしていたが、どうやら『ギルディアス』というのがこの国の王らしい。
ともあれ、肝心の本人が居ないのでは真偽の確かめようはない。一応、この家臣――『ガルラ』という者を付いて回ったものの、この者は自室に籠り、一度も声を発することなく、国税に関する執務をこなしていた。一度だけ、用を足しに部屋の外へ出た際、そこで双子と思わしき兄妹と会い(顔が非常によく似た妹が“兄さま“と言っていた)、その兄の「明日はどうされますか?」という質問に答えていた。「いつも通りでいい」と、低く威厳のある声だった。
その後、二時間ほど城内を見て歩いたが、話し合う兵士や世話係から得られたことは、ほとんどが為にならない情報だった。唯一、分かったことと言えば『ガルラというあの男が、王の一番の側近』ということ。しかし、それを知ってから再び彼の元へ訪れたものの、姿勢に全く変化のない彼は、俺の居ぬ間も黙々と執務をこなしていたようだった。
常に警戒を解かない辺り、何処となく、雰囲気がノーヴィスに似ていると思えた。しかし見た目は、何処にでも居そうな、ただの、白髪の老人ではあったが。




