38、二日ぶりの旧友
「探したんですよ? 昨日リズ達と貴方の家へ行ったものの、貴方、留守でしたから」
長身にやや細目。ウェーブの掛かった白の長髪。そして整った面にある、感情の薄い目はよく見慣れたものだった。
「何か、俺に用でもあったか?」
浮かぶ可能性と言えば一つしかないが、俺は白々しく、皮肉のようにそう言ってやった。だが、その裏で心臓は、ドクリ、ドクリ、と不吉な足音のように脈を刻んでいる。
「ちょっとした報告を、と思いまして」
「報告?」
右手を軽く上げるノーヴィス。彼が纏う協会のローブ――その白い袖には、目を凝らさねば分からぬほどの僅かな染みがあった。
「えぇ。ガルバスが死にました」
「······へぇ」
可能な限り自然に、小さな動揺と冷淡さを演ぜたことだろう。先の検問で『あの話』を聞いてなければ、この言葉を聞いた瞬間、俺は不自然な動揺をしたはずだ。ノーヴィスとの思わぬ再会には驚かされたが、会ってすぐ袖を確認しておいて正解だった。
検問所に居た男のような目で、ノーヴィスはしばらく俺を見ていたが、やがて目を伏せて、やれやれ、というように首を左右へ振ると、ただ話をする――日常の目を見せた。欺かせることに成功した俺は、足跡が徐々に遠ざかるのを感じた。
「正確には殺された、ですが······まぁそれは置いておきましょう。色々と、立ち話で話すようなものではありませんから」
恐らく、初心者の森で見つかった事、身体が二つに切られていた事だろうが、俺は尋ねるような目だけは向けた。しかしノーヴィスは目を逸らすと「ともあれ」と言って、詳細については話を逸らす。
そして目を戻して、俺の目をジッと見てから、
「まだ、協会の事は恨んでいるようですね」
「別に······あんなのはもう、どうでもいい」
ここ二日間で起こった出来事に比べれば、本当だった。しかしノーヴィスは、まだ俺が怒りを抱いていると思えたよう。
「まぁ、仕方ありません。私も少々、過ぎた事だと思いましたから」
「珍しく笑ってたくせに、よく言うな」
「だから、その事も含め、過ぎた事だと言ったのです」
すると、
「あの時の非礼、ここで詫びておきます」
ノーヴィスは軽く頭を下げた。――が、
「しかし」
程なくして頭を戻すと、顔に被った長い髪を掻き分け、
「ただ、これだけは伝えておきます。あの時、貴方を迎えることに反対だったのは事実です。初期状態の貴方が入れば、あの時のバランスが崩れるのは明白でしたから」
あぁ、こいつはそういう奴だった。――と、警戒が解けつつある俺は、つい鼻で笑ってしまった。
「相変わらず一言多いな。そのまま謝って終わりで十分だろう?」
「余計な誤解は嫌いですから。そうならないよう言ったまでです」
「そのせいで、何度あいつ等と喧嘩したか分からないけどな」
「ふふっ、そうでしたね」
少し柔和な、懐かしい感じになった。そのせいだろう。
「もう少しお話をしませんか? 一緒に食事でも」
ノーヴィスは俺を誘った。そして俺も、迂闊なことだけは口走らなければいいだろう、と誘いに乗った。俺は雨足が強くなった灰空の下、少しだけ気が晴れてしまっていた。




