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34、不明瞭な暗号

「······どうしてそんな、国を壊すようなことをしたい?」


 一国の王を殺すなんていうのは、よもやマトモな理由ではない。たがしかし、その『マトモさ』とは逆であるが故に、俺は、村長の話に前のめりになりつつあった。


「先日、こんな手紙が私の息子から届いたのです」


 村長のポケットから、四つ折りにされた一枚の便箋と封筒が机に置かれる。彼は、テーブルの上を滑らせるようにこちらへ差し出すと、読んでくださいとでも言うように目顔で知らせた。俺は、それ等と彼を交互に一度見ては便箋を手に取り、中を検める。


 ◇


 親愛なる父様へ


あつい日が続いておりますが、こちらは元気でや

っております。先日送って頂いたお野菜一同に大

盛況でした。また、いつか送って頂けることを小

人のように心待ちにしております。

たしか、夏に送って頂いたのはトマトでしたね。

数え切れぬ程食べたのを覚えています。街のマッ

シュルームとバターで炒めたのがまた絶品なんで

すよ。村へ戻った際には、ご馳走してあげますね

。最高級のおもてなしを楽しみにしていて下さい。


 ロジャー・モーリス より


 ◇


 封筒のほうも手に取るが中は空。消印は彼の言う国『ダグリス』となっていた。


「ダグリスは、私達――村の若い者がよく移住をする地でしてね。それで村の者は皆、家族が心配なんです。それは、何処をほっつき歩いてるか分からぬどら息子からの手紙なんですがね············お気付きになりましたでしょうか?」


 俺は持っていたそれ等をテーブルに置く。便箋は広げたまま。


「たしかに、気になる点は幾つか。ただ、これが偶然じゃなくて必然のものだって確証が俺には分からない。あんたが息子を信じたいって気持ちはあるだろうが」


 すると、それを聞いた村長はやや目を丸くして、自分に疲れたように小さくハハっと笑う。そして「そうでしたね。私も焦りがまだあるようです」と言うと、


「村人のほとんどは知ってますが、私の息子はトマトが大の苦手なのです。それは、人の皿へこっそり移し忍ばせるほどに、ハハッ······いや、失礼。それに、理由はそれだけでなく、先に少し申し上げましたが、私は息子が何処に住んでいるのか一切知らないのです。送り先も分からぬ相手に、野菜なんて送りようがないでしょう?」


 あぁ、なるほどね······。


「しかし、嫌いなものを押し付けるような息子なんだろう? これが悪戯じゃないって根拠はあるのか?」

「そんな息子ですが、こういった時に嘘だけはついたことがないんです。正義感が強く、そもそも村を出ていったのもその正義感が理由なんです」


 そして彼は「まぁ、私どもの知ってる息子は、ですけどね」と付け加える。苦笑いだったが、その顔は嘘には見えぬ、息子を周囲へ自慢したがる父の顔が透けて見えた。あまりにただの父親と見えそうな顔に、俺は若干の苦しさを覚えた。


 しかし、彼の言いたいことは分かった。


 彼は国王を殺して欲しいと言ったが、国そのものを破滅へ追い込んで欲しいわけではないようだ。それなら、俺の理念にも反しそうになかった。


 ······それなら、俺にも出来るだろう。


 俺は、テーブルに置いた便箋の端に、もう一度目を滑らせる。


 圧政、人、多数死す······か。


 向こう側に置かれた金は、この父親のような者が起こす、血の訴えなのだとようやく理解した。

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