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32、無味乾燥

 パンに、豆と野菜の煮込みスープ。鳥の煮付けに、傍らに水。


 食事は村長と二人だった。四脚の椅子とテーブルに向かい合ってのもの。しかしほとんどは無言。俺の様子を見て、気を遣っているようだった。言葉を交わすこともあったが、全ての会話は彼から「飲み物は?」「おかわりはどうです?」など最低限のもの。俺がその度に必要ないことを伝えると「そうですか」と、その度に汁をすする音がよく聞こえた。


 俺の食欲はなかったが、ゆっくりならなんとか食べられた。頭の片隅で、食べねば失礼だろう。と思うのと、逆の片隅で、身体が動かなきゃ何も出来ない。という本能が動き始めていた。『明日』を考える気は、全く起きないにもかかわらず。


 とはいえしかし、俺があまりにゆっくり食べるため、村長からは「お口に合いませんでしたか?」と不安気に言われた。俺は「そんなことない」と首を横へ振って返した。しかし、合う合わない以前に、舌を日中へ置いてきてしまったのか、何一つ、どれも味は分からなかったが。


 そうして、そんな食事だったため、俺より先に食べ終えた村長は席を離れ、隣の部屋へと消えていく。最初、一人にしてくれたのかと思ったが、そうではなかった。彼は五分足らずで戻って来た。再び椅子に座り、やけに落ち着いた、神妙な、何か大きな決断をしたような深い面持ちをしていた。テーブルへ目を落としたままジッとするその様は、違う意味で食べにくいと思えた。


 そして丁度、俺が食事を終えた頃。


「もう一つだけ、お願いを聞いてもらえないでしょうか?」


 目を上げた村長は、腰の辺りから煉瓦レンガサイズの物を取り出しテーブルに置いた。それは、あの賊の一人によって幾らかよごれた、血の乾いた札束だった。

第二章まで読んで頂き、ありがとうございます。次話より第三章になります。


「面白い」

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☆はいくつでも、読んで感じたように押して頂いて構いません。どんなものでも執筆の活力に繋がりますので、是非、応援のつもりでよろしくお願い致します。

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