31、静寂
村へ戻った後「今夜、街へ戻られるのでしょうか?」と、村長は馬車を用意させることも言ったが、俺は今日はここへ泊めてもらうことを選んだ。正直、思いもしない疲労が溜まっていた。それはきっと、今も纏うあの感触のせいだろうとは分かっていた。冷水で洗ったにもかかわらず、ヌルリとした熱はやはり消えなかった。
ともあれ、村長はどこか胸を撫で下ろしたようにホッとしては、自分の家の空き部屋を一つ、俺の床にしてくれた。四部屋ある内の一部屋。俺はその部屋の窓際にあるベッドに座り、脚に肘を付いて、前屈みで虚空を見ていた。数刻前のあの喧騒が嘘のように感じた。
こんな日が、これから続くのだろうか······?
そんな事を思うも、しかし明日のことは考える気にならなかった。あれだけ寿命に固執していたにもかかわらず。そして俺はそんな中、ただ茫然とした。それ以上の思考を拒むように。
それから幾らの時が経ったか分からない。しかし、ふと視線を前に移した時、木目が横に並んだ壁が目に入った。村長の家は壁を丸太で作られた平屋だった。不意に、消えかけていた滑りがまた手に帯びた。死者が、地獄の底から俺の手を握ろうとしているような気がした。
俺は、間違ったのか······?
自問自答するも、答えが見つかるはずもなかった。そうして時間だけを浪費していると、不意にノックの音がする。
「食事が出来ました」
静寂の中、ドアの向こうから聞こえたのは嗄れた、凡夫で弱々しい老人の声だった。




