表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/109

29、惨状のアト

 火打ち石は彼の傍らに転がり、小さな壺は腰から提がっていた。


「なんで、ここにいる?」


 俺はもう一度、途切れた彼の言葉を引き出すように尋ねた。彼は生唾を一度ゴクリと飲むと、恐る恐る口を開く。


「やはり、あの後心配になりまして、私もあなたの跡を追い掛けたのです。ただ、途中罠があることに気付かず触れてしまい、身を潜めておりました」


 あぁ、そういえば、二回音がしてたな。


 一回目の大きい音は山賊。そして二回目は村長のものだったと俺は知った。ふと、目だけをドアのほうへ滑らすと、俺が吐いたのとは逆の、少しした所に酒樽は倒れて放られたままだった。


「それから悲鳴が聞こえ、どうしたものかと思ったのですが、とりあえずは収まるまで待とうと思ったのです。そして、それが収まったものですから······」

「様子を見にここへ来た、と」

「はい······」


 辻褄は合っているか······。


 万が一のことも考え、俺は鎌を彼の首横に当てたままだったが、それを下ろしては闇の中へ消滅させた。消滅させる前、辺りに、あの酒を持ってきた残りの山賊が居るのでは、と気配も探ったが、素人目だがそれらしいものはなかった。消してからも念のため探ったが、山の気配は変わらなかった。


 そうしている間に、


「ひぃっ」


 立ち上がって小屋のほうへ向かっていた村長は中を見て、もう一度腰を抜かしていた。


「こ、これは、あなたが······?」


 唖然とする老人に、俺は短く「あぁ」と言った。小屋のほうを向いたままの彼は、身体を祈るような伏せた態勢に変えては「あぁ······」と何度も、手を組んでは頭を下げ、震えていた。祈るように、と述べたのは、やはりそれがとても、歓喜とは思えぬものに見えたからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ