24、秘策
奴等は、箱を挟んで背を向け合いながら立っていた。
「おい、お前。奴は視覚を奪えるのかもしれねぇ。ただ恐らく一人だけだ。複数奪えるなら最初っから使ってるはずだからな。だから、仮に俺の目が奪われても音で合図しろ」
「へ、へい」
「運良く残ってるのはお前だ。あれで合図したらすぐ伏せろ。俺もあいつを使う」
「······分かりやした」
そうして親玉の奴は、テーブル代わりにしていた木箱を蹴飛ばす。箱は一蹴りでバラバラになり、小屋の隅へと散らばった。
何をする気だ?
奴等は、今はほぼ背中合わせの距離。このまま片方に【暗幕】を掛けて、その正面から二人同時に殺せる程だった。
しかし、これは明らかな罠だろう。
そのまま殺るのもいいが、万が一ということもある。あの毒ナイフは仮にも食らえば厄介だ。あの速効性からしてかすめるだけでも危ういかもしれない。
奴等は何を狙ってる? 今さら気配で察するか? それとも時間稼ぎ? いや、待てよ······。
俺は奴等の直前の会話を思い出す。
合図······伏せる······あぁ、そういうことか。
「へっ、やっぱ俺のほうに掛けてきやがった。よっぽど俺が怖ぇと見える」
俺は【暗幕】を親玉に掛けていた。だが、視界が奪われたはずの奴は、変わらずナイフを数本持ったままの姿勢。その焦りを微塵も感じさせぬ大胆不敵さには、もう一人のほうも安堵感を覚え始めていた。
「へへっ、きましたか。親分、遠慮なく頼みますぜ」
「あぁ、当然よ。お前のほうはいいか?」
光の鋭い二本のナイフを持つ手下のほうは、それ擦り合わせては金属音を一度立てると、
「オッケーっす」
舌なめずりをして両ナイフを構えた。その姿勢は、右側は顔の少しだけ前でナイフを立て、左はすぐにでも投げれるよう自分の右頬に触れるほどで構えていた。そして、大男の親玉は手元を隠すように懐に入れ、少し、先よりも態勢を低くとっていた。
相手は緊張の糸を最大限に張った状態。
しかし、そんなものは長く続かないと思えた。
こちらは攻撃を仕掛けぬ限りやられることはないのだから無理に仕掛けず、このまま相手が痺れを切らすのを待っても良かった。――が、俺はあの『今日の分』を終えたとはいえ、やはりこんな所で時間を使うのは惜しいと思えた。
仕方ない、やるか······。
木箱のテーブルが弾かれた際に倒れた、別の木箱に乗る瓶から垂れる、赤い雨粒のような滴が命を刻むように、ポツン、ポツン、と水溜まりで音を立てる。その音は、ここにあるどんな音よりも響いたように感じた。
その命の音が刻まれると同時、俺は姿を現していた。それとほぼ同時に響く金属音。手下のナイフが擦れ合って、親へ合図を送っていた。そして刹那、奴による半円球状に飛ぶ、無数のナイフ。百はありそうなそのナイフだが、それだけ同時に投げたにもかかわらず、俺の【透過】スキルよりも速かった。
ナイフは、ズガガガガガ、とまるでマシンガンのように、木壁で音を立てては刺さった。命を刻んでいたあの瓶も、ナイフの一つによって割られていた。




