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23、信条(ルール)

 残り三人。


 ここまでこれば容易いと思えた。いや、実際そうだろう。さっき歩き出した奴の死を見て、あの親玉以外――雑魚の二人は恐怖に堕ちたのだから。


「親分······俺等ここで死ぬんですかね······?」

「俺まだ死にたくねぇっす······」

「泣き言言うんじゃねぇ!」


 親玉は何も出来ぬ苛立ちをぶつけるように手下を叱る。だが、


「俺、もう無理です······」


 目も虚ろで顔面蒼白の手下が一人、武器を捨て、開かぬドアのほうへゆらゆらと歩き出す。


 これで、あと二人か。


 俺は、奴の向かうドアの裏へ回ろうとする。――が、手下の横をすれ違う寸前だった。


「うぇっ」


 その男の首に、一本のナイフが飛んだ。


 小さな呻き声を上げた男は、あの吐瀉物を垂れ流して気を失っている男の右へ倒れ込んだ。そして左腕を下に、自分の身体を横にしては自分の首を絞めるように押さえ、やがて泡を吹いて死んだ。俺は後ろを振り返った。


「情けねぇ。俺の手下ともあろうものが」


 ナイフを投げたのは親玉こいつだった。


 こいつは、俺の心臓を目掛けて投げれる程の腕がある。それを敢えて死なぬ場所――すぐには死ねず苦しむ場所に目掛けて投げ、仲間だった奴を殺した。恐らく、ただのナイフではなく【職業】によって作られた『毒ナイフ』によって。


「おい、てめぇまで逃げ出すなんて言わねぇよなぁ?」


 警戒したまま目を側める親玉に、小さく「へぇ······」と頷く最後の手下。もう逃げ場は何処にないと悟り、それならせめて親玉こちら側につこう、そうしているだけのように見えた。


 二人だけで臨戦態勢の敵。無言のまま、俺が現れるのを待っているようだった。しかし、もう焦る必要もない俺は冷静に、毒で死んだ奴を横目に見下ろしていた。


 同じ、生きようとしただけなのにな。


 悼んでもらえず、憐れむ声も掛けられず、仲間と思ってた奴に殺される。どんな気持ちなんだろうな。


 だが――、


 俺は、寸刻前に刺し殺された手下に少しだけ同情した。状況や立場は違うとはいえ、仲間だと思ってた奴に裏切られ、殺されるのはよく分かることだったから。


 理不尽だよな。不条理だよな。


 そう思うと、急にこいつ等が『奴』と同じ匂いがした。


 もし殺されたこいつがまだ生きてたなら、憎悪の眼差しで奴等を見るだろうか? いや、きっと見るだろうな。こいつは生きたいと思って逃げたんだから。


 俺はこれでも優しくしたと思っていた。知らぬ間に受けた即死に等しい攻撃なら、痛みをほぼ感じることなくそいつの世界も終わると思っていたから。恐怖に支配されるとはいえ、苦痛が続くより幾らかマシだろうと思っていた。


 しかし、そんな苦痛でいたぶるやり方を、こいつは選んだ。


 それは賊を抜けようとした奴への罰かもしれない。自分にとって許せない奴への報復かもしれない。俺にはそんな規則や信条なんてものは分からないが、それは誰の為のルールだ?


 その結論に至った時、俺は奴の殺し方を決めた。


 ······お前は、もっと苦しんだ方がいい。

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