20、招かれざる客と酒席
俺は、山賊の潜む木造小屋へと来ていた。
「おう、もっと酒持ってこい酒!」
「へいっ! ただいま!」
窓の無い小屋の中――橙の暖色灯の下で木箱に座り、山賊達は酒を呑み交わしていた。血の気配を一滴たりとも感じさせずに。外に漏れる明かりは木の隙間から漏れる程度のものだったが、山賊達の声はそれを容易に越えるほど大きかった。
「今回も無事に終わりましたねぇ! 親分!」
「当ったりめぇだろ!? 俺を誰だと思ってんだ!」
「ジークの親分っす! さすが山賊の王っす!」
「へっ! 調子いいこと言いやがって!」
ジークと呼ばれた大男は手のひらより幾らか大きい、木樽に入った酒を一気に仰いだ。酒は満杯近くに入っていたが、それは全て男の身体に吸い込まれていた。そして男は木樽を、灯りの真下にあった肉料理が乗る、テーブル代わりのやや大きめの木箱へ叩きつけるように置いた。
「んはぁ! 本当、チョロ過ぎて仕方ねぇぜ! あの国のおかげで、ここもジジイとババアだけになっちまったんだからな! 歯向かう奴が誰も居ねぇから退屈すぎて仕方ねぇ!」
そして、そう口にする間、手下に注がせていた酒をまた一気に呷る。それを一息で飲み干すと、また机に樽を叩きつけ「まぁ、ありがてぇもんだがな!」と哄笑。つられたようにその手下等も笑う。手下は六人いたが、酒を注ぐ一人以外は同じようにテーブル木箱を囲んでいた。
そしてその中に、
「ギャハハハハ! 間違いねぇ! やっぱジジイババアってのはちょっと細工すりゃ騙しやすくてしょうがねぇ!」
色褪せたボロの服を着る手下達と違って、頼りにそうな、逞しい白い腕を覗かせる、黒光りをする自動小銃を傍に置いた、あの黒のタンクトップ男がいた。
「へっへっへっ! ジジイババアってのは耄碌して、信頼が100はあり得ないことを忘れちまってるからなぁ!」
「ホントだぜ! 今回は特にあまりに上手くいきすぎて笑っちまいそうだったぜ!」
「へっへっへっ! やっぱ搾取される人間はいつまで経っても搾取される側だな!」
「ギャハハハハ! 間違いねぇ!」
······こんなとこだろうと思った。
こいつと会ったからその違和感はあった。まず、いつでも発現出来るはずの武器を、何故しまわずにいるのだろうと。自分の手の内を明かすというのは、それだけでハンディでしかない。当然、最初は“相当な自信家だろう“と思った。自己顕示欲の権化と思っていた。
だが、それにはちゃんと理由があった。
これは、ただの、本物の自動小銃なんだ。
恐らくリロードが必要な、神の創造した物とは程遠い、人間の知恵により作り出されたもの。差し詰め、あの夕刻に聞いた破裂音は、こいつらにとっての祝砲のよつなものだったのかもしれない。
「そういえばな、あの村長のジジイ。協会からヒョロヒョロのガキ雇ってやがったぞ?」
「あぁん? ガキだ?」
「協会の刺繍が入った、黒いローブの若造だ」
「ちっ。あいつら、俺等が入手した情報以外に金持ってやがったか」
「ちなみにそのガキ。まだ【職】手にして一年も経ってねぇように見えたな」
「へっ。そんなやつをあのジジイは雇ったのか。馬鹿な奴だ」
「どうする? そのガキ殺して、俺等の内の誰かがその依頼引き受けるか? そうすりゃ、金は全部奪い取れるぜ?」
「へっへっへっ、そりゃあいい! どうせ協会そのものじゃ、直接の殺しの依頼なんてのはねぇんだからな。今回だって追い払ってくれってのが関の山だ。――おいお前、今度協会行って職業登録のついでに引き受けてこい。報酬の三割はくれてやるから」
「マジっすか、親分! 是非やらせていただくっす!」
「ギャハハハ! 現金な奴だ!」
「てめぇがいうか! へっへっへっへっ!」
そうして、また哄笑する男達。
相変わらず、醜い笑いだ······。
ともあれ、あの【職】を名乗った割りに、全く肌に焼けた跡のないこいつ。こいつは俺の名前を知る気もなかったが、もしかしたら知ることが出来なかったのかもしれない。と、ふと思った。二度、目の前で宙を操作すれば、疑念を抱かれ兼ねないだろうから。まぁそうでなくても、こいつは自分で墓穴を掘っているのだが。
『信頼が99%なのは許してくださいね。信頼が100なんて人は、残念ながらこの世には居ませんから』
まさか、あの彼女の言葉が確証になるとはな······。
これも聖女のスキルなんじゃないかと一瞬自失するように思ったが、流石に偶然だと思い、俺は奴等に意識を戻した。
「そういえばな、あの村長、俺のスキルであの信頼見せたら途端に手のひら返して俺の申し出を受け入れやがったんだぜ」
「へっ! なんだそれ! 全然そのガキ信頼されてねぇんじゃねぇのか!?」
「全くだぜ! いくつかこうして村は潰してきたけど、ここまでめでてぇ奴等は初めてでつい救ってやりたくなっちまった!」
「へっへっへっ! お前に慈悲なんて言葉があるわけねぇだろ! ガキさえ平気で撃ち殺すくせに!」
「ギャハハハ! あれは俺の金を盗もうとしたからいけねぇんだ! それに、殺しの数じゃあんたの足元にゃ及ばねぇよ!」
「へっへっ! 確かにな! 俺はもう数えるのも面倒になっちまったからな!」
「ギャハハハ! やっぱ本物はちげぇな!」
「お互い様だろ! へっへっへっへっ!」
そうして、手に持った木樽を付き合わす二人は酒を一気に飲み干すと、揃って木箱へと勢いよく空の木樽を叩きつける。
――と、その時だった。
カランカランカラン。と、木のぶつかり合う、軽い音が夜にけたたましく響いた。
「あ?」
そして、しばらくしてもう一度、小さく、カラン、と。
騒がしかった小屋の中は、すっかり静まり返った。
「誰か罠に引っ掛かったな」
「お前が言ってたガキじゃねぇのか?」
「かもしれねぇな。······ちょうどいい。いま殺しときゃ、明日の手間が省ける」
「へっ、酔ってて照準合うのか?」
「適当に撃ちゃ当たるだろ」
そして、黒いタンクトップの男は座ったまま小銃を手に取る。――と、同時だった。
「すんません! 新しい酒持ってきました! さっきのはオイラが引っ掛かってしまいまして!」
扉の外から、山賊の手下と思わしき者の声。
「いま両手塞がってて、開けていただけると助かるんですが」
「んだよ、てめぇか。ドレイクの罠があるから気を付けろって言ったろ。何やってんだ」
「すんません」
「おら、開けてやれ」
大男の指示に従い、戸に近い、小屋の中に居た手下の一人が木の扉にあった、片目と同じ程度の幅の板を横へ滑らせては外を覗き確認。そして鉄の錠を開けようとする。が、
「ん、あれ?」
手下の男はその錠を見ては、小さく声を上げた。
そろそろ頃合いか······。
「あ? どうした?」
「いえ、鍵がなんか変な風に······」
「あぁ? 変な風にだぁ? 新しく変えたばかりだぞ? 何言ってやがる」
「いえ、それがその······なんか······まるで腐ったように溶けてて、開けられないんで――っ!?」
そして、後ろを振り返った手下は、黒のタンクトップ男の後ろで鎌を振り上げている俺を見て、声を失った。




