18、白い肌のレンジャー
俺は家で少しだけあることを確認してから、その依頼場所へと向かった。馬車に乗って一時間ほどの村だった。
今回は検証しておきたいことがあった。
それは俺の寿命と制約について。俺は一日一人、人を殺さなくてはならない。つまりそこから生まれる仮説。もし仮に、一日で大量に人を殺せばその分寿命も延びるのではないか、ということだ。それを検証したかった。
「おぉ、あなたがイルフェースさんですかな。よろしくお願いします」
もしそれが可能ならば、俺は今回だけでも命のストックを得ることが出来る。これから先、容易に生き長らえることにも繋がる。······まぁどれも、敵対して無事であれば、の話だが。
「よろしくお願いします」
木柵で囲まれた村の入り口で、黒のローブを纏った俺を見るなり挨拶をくれた老人。白のワイシャツに緑のベスト。日に焼けた褐色の肌に白い髭。彼が依頼主だった。幌付き馬車の中で事前に確認していたため、こちらもすぐに分かった。
――が、
「おいおい、じいさん。ちょっと話が違うぜ」
俺を「自分はこの村の村長です」と話しながら村の中へ招こうとする老人の奥から、知らぬ男が現れた。その男は黒髪に筋骨隆々、黒のタンクトップに黒の自動小銃を携えていた。強いて別の色を挙げるならば、迷彩柄のズボンに茶色のブーツ。そして肌は村長ほどの焼け具合ではなく、どちらかと言えば白に近い肌色。
「今回は俺一人で充分のはずだぜ? さっきそいつには断るって言ってただろ?」
「そ、そうですが······。やはりあなた一人では――」
「そうなると報酬が半分になっちまうじゃねぇか。俺はさっき全額じゃねぇと引き受けねぇって言ったはずだ。山賊とやらを追い払わなくていいのか?」
「そ、それは······」
まるで恫喝するように、見せびらかすように、男は銃で自分の肩を叩いていた。それに観念したように、
「どうか御勘弁を······。報酬は、あなたにはちゃんとあの額、別で御支払しますので······」
「へっ、ならいいんだよ。ただ心配だから、全額先払いで頼むな」
「は、はい······」
おろおろと小さくなる村長。そして、男は小さくなった彼を通り越して俺のほうへやって来る。
「あんた、ラッキーだったな。何もせず報酬がもらえるんだから。賊は俺に任せとけよ」
すると、ふてぶてしくそう言い放った男は宙で人差し指を立て、その手を上下左右へ何度か動かす。そして、
「あんたは、この名前か」
その言葉と、宙を指先でタッチするような動作の後、薄青のスクリーンが現れる。そして、男はそれをこちらへ向けた。
名前:フリード
Lv:463
職業:【レンジャー】
ランク:SS
信頼:100%
番号:1744
「俺は『フリード』ってんだ、よろしくな。まっ、あんたの出番はないから、俺の名前だけ覚えてればいいんだが」
俺の名前を聞く気はない男は、鼻をふっと鳴らして嘲笑。挑発するような自慢だと分かった。多少苛立ちはしたが、似たようなものは俺が殺した『奴』で何度も見てきた。それに比べればちっさなものだった。
男は身体を翻し、こちらを見ていた後ろの村長のほうへ歩く。そして、
「じゃ、金貰ったら早速行ってくるからよ。準備が出来たら呼んでくれ」
すれ違う際そう言っては肩を叩き、村の何処かへと去っていく。村長は打ちひしがれたように萎れていた。やや気の毒に思えるほどの沈み具合だったが、この時の俺にはどうでもよかった。それより俺は、
出番がないんじゃ困るんだよ。
自分の命をどう優先するかに頭を回していた。幾つかの疑心をあの男に抱きながら。




