14、帳(とばり)
「剣は重たい······か」
死後硬直の始まっていた奴の手から剣を剥がした俺は、屈んでその武器を持ち上げていた。折れた剣とはいえ、もしかしたら使うことが出来るんじゃないかとふと思ったからだった。だが――結果はノー。やはり鉄塊だった。
そしてもう一つの確認。
それを持ち上げた状態で武器画面を。
武器【狂戦士の剣】:岩をも砕く大剣
オート発動スキル【屈強】:身体能力を底上げする。レベルによって効果が上昇。※職業【戦士・剣士・狂戦士】でないため使用不可。
やはりあの動きはスキルよるものだった。しかし、剣によるものとは思わなかったが。ともあれ、こいつがLvを上げようとしていた理由が少しだけわかった気がした。
まぁ、どうでもいいが。
俺は念のため鎖鎌のほうも確認。だが、こちらは武器にスキルさえなかった。もしかしたら、俺が寸前に覚えたような職業スキルはあったかもしれないが、どちらにしろ哀れに変わりない。それを思った時、俺はガルバスがスキルを使ってこなかったことを思い出す。
あいつはそれだけ油断してたってことか?
それとも持ってなかった?
流石にそれは確かめようがなかった。とはいえ、もし奴が別のスキルを使ってたのなら、俺はとっくに死んでたかもしれない。その辺はこいつの怠慢に感謝か。
俺はもう一度、離れたガルバスのほうを見た。
発現したままの武器は残る。このまま残していいだろうか? いや、繋がったところでここは街の外。殺しが禁止されてるわけじゃない。何も問題ないだろう。俺の物が落ちてるわけじゃあるまいし。持ってきた時計は右ポケットの中。他には何も持ってない。
俺はこいつらの武器を売り飛ばすことも考えたが、それこそ自分が殺したと言っているようなもののため却下。加えて、折れた剣を運ぶなど面倒だ。
とりあえず······。
血を流しすぎてるせいか、いよいよ、頭がボーッとし始めていた。ここで倒れたら、俺も獣どもの餌になるだけだった。
街へ······戻るか······。
俺は、この仕業が通り魔と獣共の仕業で済むことを、鼻で笑うように祈りながら、森を後にした。
街に戻った俺だが、武器のスキルを確認したこと、自分の痕跡がないか再確認していたことを悔いていた。
間に合うと思っていたが、この辺の経験は浅かった。ガルバスに吹き飛ばされ叩きつけられた時と違い、引くことのない吐き気と目眩が俺を襲っていた。そして、込めようにも入らぬ力によって、ふらふらとした足取りも。
もし酒を飲んでいたのなら酔っ払いに見えたことだろうが、赤いのは俺の服だ。到底そうは見えないだろう。
とはいえ、そんな切れそうな糸の俺を見る者も、この時間帯には誰一人として居なかった。とても静まり返った、誰もが安心してしまいそうな夜だった。自分は実は世界最後の一人で、ようやく皆と同じように終わりを迎えられるんじゃないかと、そう思えるような夜だった。
だがそれでも、俺は生きたいようだった。
足は自然と、医者の元へ向かっていた。
いつもなら三分で行ける道が、地平線の果てにある山を目指しているように思えた。声を出せば誰か来るかもしれないが、そんな力さえなかった。それに、そこまで頭が回らなかった。
そうして、壊れかけの人形の俺は、医者のいる建物へあと数十メートルの所で地に伏せた。もう一度立ち上がろうと地を掴もうとするも、手首より手前は既に動かなかった。その指先も、すぐに動かなくなった。
虚ろな意識の中で、十字架に眼が書かれた、あの協会のシンボルが目に入る。あの『神』は、何もかも見透かしているのだろうか。きっと俺の死も······。そんなことが頭に過ったが、すぐに消え去っていた。
思ったより······寒いんだな······。
震えるはずのない身体が震えているように思えた。しかし恐怖によるものではなかった。先は生きようとしていた身体が、今は死を受け入れようとしていた。ひどく寂しいものの、永遠の安息を得られるような気がしていた。
まぁ、それも悪くないか······。
視界がぼやけ、意識が遠退くのがわかった。瞼が自然に下りた時は、夜の帳に、本当の夜が訪れたように思えた。
けど――、
もし、生き伸びたら············誰を············殺す··················?
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