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11、イルフェースの武器

 動揺を隠せぬ俺は、せめて事前に発現だけでもしておくべきだったと自分を忌ましめるように強く思った。俺はまだ、一度も自分の武器を見たことがない。


「ハッハッハッ! まさか武器無しの能力か!? そんな面白おもしれぇ職業あるとはな!」


 と、奴は軽く反って哄笑する。――が、俺はその時気付いた。奴の後方、あの死体が転がる月の下で、真っ黒な柄が斜めにそびえ立っているのを。


 先程まで、間違いなくあんなのは無かった。

 可能性があるとしたら、アレが俺の武器だ。


 発現した時に、俺は身体だけ吹き飛ばされたのかもしれない。それなら理由がついた。――そう思っていると、奴が、俺のその視線に気付いた。


「ん? ············あぁ。もしかしてあの棒切れか? へっ、拾ってこいよ」


 奴は余裕の嘲笑で、言葉通り、取りに行けよ、というように顎でそれを指した。やや癪だったが、俺は睨め付けながら奴の横だけは通らず、コンパスが円を描くように同じ距離を保ちながら、警戒をしてその場所へと向かう。


 その途中一瞬だけ、身体を森へと翻し逃げることも頭に過ったが、Lv60の奴のポテンシャルのほうが上に思えたため却下。······元より、そのつもりもないのだが。


 そして俺は、その柄の元へと辿り着いた。

 奴を警戒しながらその柄を掴むと、少しだけ持ち上げる。


 ――と、俺はこんな状況でありながら、思わず武器を見て目を見張った。その柄は、身体の一部なんじゃないかと思えるほど、手に吸い付くように感じられた。しかも、見た目ほどの無駄な重さも感じられず、それこそ軽量の鉄パイプでも持ってるんじゃないかと思えるほど。


 しかし、俺の驚きはそこで終わらなかった。

 それは、その柄をさらに持ち上げた時。


 大地から、銀色に輝く三日月の刃が姿を現したからだった。それはまるで、冥界の底から現れるように思えた。


 土の中へあったにもかかわらず、つっかえなど微塵すら感じさせず、途中、鎖鎌の鎖に触れたものの、それさえスルリと断ち切って通り過ぎた。


 ははっ······死神ね······なるほど······。


 黒の柄に三日月の刃。汚れを知らぬ、鏡のように鋭いその銀面は死の恐怖さえも裂いてしまいそうだった。


 俺はそれ――その鎌を、右手だけで持っていた。


 すると、


「それがお前の武器か。また使いにくそうな武器だな」


 と、冷笑するガルバス。奴は、俺が軽々とその武器を持ったのを見てそう悟ったのだろう。大剣を軽々持っていた理由はどうやらそのポテンシャルだけではないらしい。


「おら、来いよ。そんなナマクラ、柄から叩き折ってやるから」


 しかし【職業】によってだろうが、やはり力には自信があるのだろう。元よりあいつは力が強いが、それでも普段ならここまでの大口は叩かない。あの風圧はスキルによるものもあるかもしれないと思ったが、恐らく違う。だとしたら“叩き折る“なんてのは言わないからだ。


「あぁ? 本当に怖じ気づいたのか?」


 奴は切っ先をこちらに向け、剣を両手で構えていた。それに対して俺は、


「うるせぇ······」


 と、怒りを込めた冷めた調子で言った。――だが、内心は夜の底のように落ち着いていた。


 理由は分かっていた。

 絶好の機会が来るのを、ただひたすら待つため。


 やはり皮肉にも、付き合いがあったせいで奴の癖が読めていた。


 あいつはまだ、遊んでやがる。


 それはきっと経験値のためだろう。少しでもいたぶったほうが経験値になるのだろう。最初の一撃は完全に殺す気だったが今は違う。気が変わったってとこだろう。俺が避けたこと、そして木に叩きつけられても気を失わなかったことで、ちょっとした稼ぎにはなると踏んだのだろう。


 奴のその目は時折見てきた、人をコケにする目だった。

 直前に感じた殺意のある目ではなく。


 だから、俺は待たざるを得なかった。

 奴が完全に慢心する、その一瞬を。


 蜘蛛の糸を切るよう鎖が切れた“その意味“を、奴に悟られないようにしながら。

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