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10、下衆と哄笑

 なんでこいつがここにいる?

 なんでこいつが笑ってる?


 痛みを忘れるほどの沸き上がる怒りの中で、俺はそう思った。


「お前がそんな笑う奴だと思わなかったな」


 上手く力の入らぬ震える腕で身体を持ち上げながら、俺はガルバスを刺すように睨んだ。だが、揺れから焦点の合わせるのさえ危うく、それは睨みにも見えなかったかったのだろう。奴はまだ笑っていた。


「運が良かったな。頭のおかしい奴だと思ったから一思いにってやろうかどうか迷ったんだ」


 一思いに? ······あぁ、そうか。俺はこいつが持つ剣の面で殴られたのか。


 奴の剣は大剣とも言える大きなものだった。そして、そんな鉄の固まりとも呼べる鈍重そうな剣を、奴は片手で軽々と持っていた。


 だが、一つだけ不可解なことがある。

 奴の肩に乗る剣の先端には、血が付着していた。


 すると、


「けど、そうすると経験値があんま稼げねぇんだよなぁ」


 経験値? ······そうか。


 どうして奴がここいるのか、俺はその理由をようやく悟った。


 こいつは······どこまで腐ってやがる。


「初心者狩り······か」


 焦点は定まった俺はなんとか身体を起こしつつ、数歩下がってはふらつきながら言った。奴はそれを否定しなかった。


「あぁ。俺は少しでもLvを上げて強くなりたくてな」


 故に、この森を訪れる、戦いにも能力にも不馴れな者を自分の肥やしにする。さぞ安全なことだろう。さぞ楽にLvを上げられたことだろう。


 俺がさっき見た死体もこいつの理不尽な肥やしになったに違いない。身体はまだ温かく、思い返せば鎖鎌にも血は付着していなかった。俺は鎖鎌であの男は扱いを誤ったのだと思っていたが、実のところ違った。こいつに殺されたのだ。


「よく······こうしてんのか······?」

「月が出てる夜はな。じゃねぇと見えなくて、ちゃんと斬れねぇだろ?」


 下衆な笑みを見せるガルバス。


「どれだけ殺した······? あいつらは知ってんのか?」

「あいつらは知らねぇ。殺したのはざっと20は越えたとこだろ。数えてもいねぇよ」


 奴はさらに醜い笑みで、顔を歪ませる。


「ともあれ、そろそろ帰ろうと思ってた頃お前が来てな、隠れて見てたんだ。最初はそこに寝転がってるのと知り合いかと思ったぜ。でも違うみたいだな。独り身のお前にもまだツテがあんのかと思って笑ってやろうかと思ったのによ」


 そして哄笑するガルバス。


 こいつは――人をどこまでも馬鹿にしやがる。


 付き合いのある頃、他人にこれを向けるのは何度か見たが、いざ自分に向けられるとなると心の底から憎しみを覚えた。況してやこの状況。俺の両親は通り魔に殺されていた。それをこいつは知っているにもかかわらず。


 流石にその通り魔とこいつは別人だとは思うが、それでも······。


「······俺も殺すか?」


 俺は“ある意志“を決めながらそう言った。


「あぁ。別に、お前一人ここで死んだって誰も困らないだろ? むしろ感謝しろよ。親の元には行けんだから」


 へっ、と奴は笑うと剣を肩から下ろす。


「どうせお前は死ぬんだ。だから土産に教えてやる。あいつらは違うが、俺はお前が嫌いだ。リズが誘ったから付き合ってやったまででな。いつも何考えてるか分かんねぇ表情。なにより、その感情を忘れたような目が気に食わなかった。その冷めきった目が。後ろを歩かれてる時なんざ煙が首に絡み付いてるようで、はっきり言って気味がわりい」


 そうした所で、奴は目を一段と鋭くさせた。


 終わらせにくることが分かった。それは皮肉にも、これまでの付き合いがあったせいで。


 奴は両手持った剣を水平に構えていた。


「だから――」


 すると、奴の手に赤い光体が集まり始める。それを見た俺はすぐさま、直前に決めた意志――戦う意志に従って武器の発現を試みる。――が、


「いい加減目障りだ。消えろ」


 その瞬間、奴の剣が薙ぎ払われた。

 鉄の塊が、刃を向けてこちらに来るのが確かに見えた。


 身体がそのまま真っ二つになる錯覚を覚えた。


 俺は咄嗟に下がりつつ、尻餅を付くように後退。

 鉄塊が、俺の髪をいくらか散らして頭上を通りすぎる。


 致命傷は避けた。が、しかし俺は、そこから来る剣の風圧だけで遠く離れた大木まで吹き飛ばされた。そして、その大木に背中から強く叩きつけられる。


「かはっ······!」


 肺が潰れたような気がした。

 今度こそ気を失ったと思った。


 このまま死んだほうが楽になるのではと思えるほどの痛みだった。だが、生はそれを許してくれなかった。


「っはぁ······はぁ······はぁ······はぁ」


 たった一撃で身体はボロ切れになっていた。草の上とはいえ転がるように俺は飛び、同じように吹き飛んだつぶてによって服は破れ、擦り傷が顔から手足、至るところにまで浮かび上がっていた。


「よく避けれたな。まぁ偶然かも知れねぇけど」


 大剣を持つ、奴が近寄ってくる。

 次の攻撃はもう避けれないと思った。


 だが、その時だった。


「このまま殺しても面白くねぇな。······せっかくだ、一度お前の攻撃を受けてやるよ」


 俺の負傷具合を悟ったからだろう。奴はそんなことを言った。


「それをあいつらの土産話に持っていってやる」


 こいつは、ただの経験値稼ぎなのかもしれない。いや、言葉通り、話のネタにでもするのかもしれない。ただ、


「おら、武器出してみろよ」

「······あぁ」


 俺は、立ち上がりながらそう言っていた。


 なんで奴の言葉に従ったのか分からなかった。

 なんで武器を発現しようとしたのか分からなかった。


「······後悔すんなよ」


 いや、理由はすぐ単純なものだと分かった。


 俺は、こいつを許せない。


 協会でのことも含め、一撃でも苦痛を与えてやりたかった。何もせずこいつの欲を満たす一部になるのはプライドが許さなかった。······たとえ、勝機が見出だせないとはいえ。


 俺はもう一度、武器の発現を試みた。


 あんな鉄塊を振り回すんだからきっと身体の筋力でも強化されているんだろう。と、一矢報いる可能性を探すように、相手を分析しながら。


 だが、


「なんだ? 怖じ気づいてそれさえも出来ねぇか?」


 それ以前の問題が起きた。

 どれだけ試そうと、俺の手には武器が現れなかった。

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