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令嬢と女子高生の強制交換留学  作者: 木白
プロローグ side カトレア
6/20

この世界のほんの少しのこと

入れ替わっている。ということで、一先ずご納得のようです

 川本桜と、私、カトレア ヴィエンヌは、原因はわからないけれども、入れ替わった。


 突拍子もない話だが、先ほどから突拍子もないどころの騒ぎではないくらいに、不可思議なことが身に起きている私には、妙にしっくりときた。


 ただ、しっくりとはきてるからといって、全てを受け入れられたわけではないことは声を大にして言わせていただきたい。


 姿形が別人という、現実を叩きつけられ中の身としては、『どうしてどうして』なんて悲劇のヒロインよろしくやっている場合ではなく、ある程度の現状を理解しないことには、何も進まないですもの……。

 そうね、侯爵令嬢と呼ばれていたこの私が、こんなにも地味な容姿になって、不躾でうるさい母親と、存在感の薄い父親、見た覚えもない弟と今日から家族になりました。はい、そうですか。わかりましたわ。で納得できるほど、私は能天気では断じてないのです。ただ、『どうしどうして』と言ったところで答えを誰かがくれるものでもないということも理解しているだけ。

 何度も言うようだけれども、こんなどぎつい冗談、全く笑えないわ。

 笑えないからこそ、どうするかを真剣に取り組む必要があるのよね。何度めかの重たい溜息を1つつく。


「何がきっかけで、こうなったのかは全くわからないし、戻り方もまるでさっぱりわからないけど、この世界で生きていくお手伝いなら、僕にはできるから少しは安心してね」


 役に立つんだか立たないんだかわからないわね。

 呆れつつも、ホッとしたのは事実だ。

 誰も知らない世界で、私のことは知らなくても理解してくれる人がいる。それだけでも心強いものね。


「……感謝するわ」


 ぶっきらぼうに言い捨てると、コバヤシはふっと目を細めて笑った。


 それからコバヤシから聞いた話によれば、ここは『日本』という国の『千葉』領だそうよ。そして『川本桜』は、16歳。やはり私と同じ歳だったのね。

 彼女は『高校2年生』、おそらく学園の5年生と同じみたいね。

 だいぶ、私のいた世界とは違うよう。 

 何気なく「この部屋は窓が小さいのにずいぶん明るいのね」という発言から、部屋の明るさは『電気』というものによって明るくなっていることを知ったわ。

 『電気』を知らない私に対して、コバヤシは『なかなか先は長いかもなー……』とボソッとつぶやき、私も不安を募らせたが、私の『魔法みたいなものかしら?…』という発言を聞くなり、


「そうだ、そうそう!魔法!魔法だよ!多分、カトレアちゃんがよくわからない仕組みのものが、そこら中にたくさんあるけど、全部魔法だと思ってればいいよ!だいたい、電気とガスと燃料で動いてるものは魔法って思っておけばOK!」


 おそらく説明がめんどくさくなったコバヤシは強引に話をまとめあげた。

 さっき心強く思った私の感謝の心を返してほしいわ。全力で返してほしい。私の感謝の気持ちはコバヤシにはもったいなすぎたわ。

 とりあえず、不思議なものは全て『魔法』で片づけたコバヤシ。

 この男は、本当にこの世界で生きていく手伝いをしてくる気があるのかしら……。


 ちなみに誰も興味がないでしょうけれどもコバヤシは、『医師』で『独身』だそうよ。必要がないと言っているのに、コバヤシは聞いてもいない自らのプロフィールをべらべらしゃべっていたわ。

 ちなみに興味がないのでほぼ覚えていないわ。


「そう、だから僕はね、そのときみた映画のことを思い出して、もしかして君たちが入れ替わってるんじゃないかな?って思ったんだよね。でもあの映画では、男の子と女の子が入れ替わっていたんだけどね」


 コバヤシは楽しそうだ。


「あ、そうだ!ちょっと気になっていたんだけど、文字の読み書きってどうなんだろうね?」


 唐突にコバヤシに聞かれる。そしてコバヤシは、何か紙に書き出した。

 コバヤシと会話しているとペースを乱されて疲れるわね……。

 あんなに煌々と自分語りをしていたと思ったら急に疑問をぶつけてくる。コバヤシだけではなく、この世界の住人がみんなそうなのかしら……。だとしたら、ぞっとするわ。

 そんなわけがないと、あってたまるか首を軽く振って、投げられた疑問に対しての答えを考える。


 確かに会話に関しては問題ないものね。たまに意味がわからない言葉はあるものの、それなりに言葉は理解できているし、会話は成立している。それはそれで不思議よね。文字に関してはどうなのかしら。


「これ、読める?」


 何かを書き込んでいた紙を掲げて見せられた。


「……アシカの赤ちゃん、雨の中?」


 意味はわからないけど、読めることは読めるわね。


「お!正解。カタカナひらがな漢字、読みは問題ないね。そしたら、今度は僕が言うこと書いてくれる?」


 ペンと紙を渡される。

 変わったペン。インクがなくても書けるのかしら?


「『イチゴ畑の1年生』って書いてみて」


 …?

 何それ。何か重要なことなのかしら?

 不安になりつつも、ペンを動かす。自分でも驚くほどにすらすらと文字が書ける。


『苺畑の1年生』


「おぉ!!!漢字も書けてるね!すごいね!これぞご都合主義って感じでよかったね!!!」


 褒められてるのかしら?貶されているのかしら……。

 

 自分で書いた文字の紙を不思議な気持ちで見つめる。書けるし、読める。聞いたことも見たこともない国の言葉や文字を、普通に使いこなせている。紙を見つめながら、なんともいえない不思議な気持ちに包まれていると、


「でも、良かったね!」


 と、コバヤシは嬉しそうに言った。


「そこそこ文字の読み書きもできてるみたいだし、まー、勉強とかになると、どうだかわからないけど、そこそこ困っても暮らせていけそうだね!!!」


 ……。


 私のバックボーンはこの男で本当に大丈夫なのかしら……。

 

 

ちなみに例の映画をコバヤシは2回見たそうです。

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