第7話 ~週に一度の安息日~
この世界ではどこの国でも概ねそうなのだが、7日間を一週間という単位でくくり、その末日ごとに安息日を設ける習慣が定着している。ユース達の祖国エレム王国も、ここセプトリア王国もそうである。
安息日は俗に休日とも言い換えられ、大概の大人はその日は仕事も休み、学校に通う子供達も通学しない。週に一度、仕事や義務から解放され、自分の好きなように時間が使える休日というやつだ。
みんなこの日が楽しみで、6日間を一生懸命生き、休日前夜はリラックスし、休日を望むままに満喫した夕頃か夜に、この楽しい時間も終わりでまた明日からは……と、少し憂鬱になったりもする。よくある話。
さて、本日はその安息日。朝食を終え、居間でユースとシリカがのんびりくつろいでいた。ナナリー女王とも暗黙の了解らしきものはあり、この日のユース達は完全に非番である。
朝刊に目を通すシリカと、愛用の盾の磨くユースは、無言ながらも双方持て余した暇を有効に使っている。大事な盾を磨くのに没頭して、手元から目線を一切動かさないユースと、新聞に目を通しつつもちらちらとユースの様子を窺っているシリカで、ちょっと目の使い方が違うのだが。
「…………」
「よし、綺麗になった♪」
シリカさんに買ってもらった、大事に使えば一生使える、丈夫で長持ちする良質な盾。ユースの無二の宝物だ。
それひととおり綺麗にして、つやっつやになった盾を膝の上に置き、見下ろすだけでで満足げな声を発するぐらいには、ユースはこの盾を大切に思っている。
「……なあ、ユース」
「はい?」
盾磨きに夢中だったユースに話しかけるのは憚られていたか、それが終わるや否や、シリカがユースに呼びかける。どことなく、思い切ったような息の吸い方をしていたが、それはユースにはわかりにくい。
「今日、何か予定はあるのか?」
「予定ですか? ん~、別に……昼食前か後にでも、ちょっと剣の素振りしようかなってとこまでは考えていましたけど」
出た鍛錬の虫。こいつはいっつもこんな感じである。休日ないし暇が出来たら、何かと剣術の上達のために時間を使いたがる。
「そうか~……う~ん……」
「シリカさんも暇してます?」
「ん……そ、そうだな、うん。私も、特にやることもないし?」
なんだか急にシリカがそわそわし始めたが、その理由は特にユースにもわかりません。わかったら凄い方。
「え~っとな、その……もし暇だったら……」
「お風呂空きましたよ~。シリカさんも入ります~?」
ユースが今日は暇をしていると聞いて、何か言いかけたシリカだったが、その続きは参入してきたアルミナの言葉に遮られて引っ込んでしまう。間が悪かったとも、シリカが遅かったとも言う。
「え……いや、私は別に……」
「気持ちいいんですけどね~。あ、ユース、今ヒマ?」
「まあ暇だよ。なんで?」
いかにもひと作業終わった後で手の空いているユースを見た途端、アルミナの興味はそちらに移ったようで、シリカの返事に対する反応もすかし気味。
朝食後の朝風呂に浸かって、綺麗さっぱりの顔つきで、まだ濡れの残る髪をタオルで拭きながらのアルミナが、ユースに積極的な語りかけ方をする。ポニーテールに髪を結っていないアルミナの姿は、こうした限られた時にしか見られない、そこそこ珍しい光景だ。
「ちょっと買い物に行こうと思うんだけど、付き合ってくんない?」
「また? 荷物持ち?」
「別にそういうつもりじゃないけどさ。一人で行ってもちょっと何だかなって気分だし、ヒマしてるんだったらユースでもいいやってな感じ?」
「なーんでそんな失礼な物言いがさらっと出るかな」
「しょうがないじゃん、ルザニアちゃん風邪引いてるし。ねね、お願い? 一人で市場回ってもつまんないのよ」
ルザニアというのは、腫れ風邪をこじらせて現在自室で療養中の、アルミナの一つ年下の女騎士。彼女がああでなかったら、誘って一緒にお買い物に行くアルミナなんだろうけど、生憎そちらが外を出歩ける体調ではないため、声をかける相手が同い年のユースになっているということらしい。
「えー、俺正直パスしたい。やりたいことあるし」
「どーせ剣術の鍛錬でしょ。休みが出来たら、ヒマが出来たら剣剣パー、あーやだやだ不健全」
「不健全ってことはないだろ」
「不健全よ。たまにの休みぐらい外出歩いて、年相応の男らしく遊びなさいっつーの。そんなんじゃモテないわよ」
「お節介おかんめ」
「お姉ですよ? あんた顔だけは年下に見えるからたまに弟に見えるし」
「…………あの……」
流暢に話し合うアルミナとユースに、シリカも口を挟めない、入っていけない。やっと出せた、たった二文字の言葉も、小さすぎてユースにもアルミナにも聞き落とされている。
「鍛錬なんか夜でもできるじゃん。ほら、せっかく晴れてんだからさ。明るいうちは外行きましょうよ、遊びましょーよ。私はあなたに健康的な生活を促す女神様よ? さあこの神託を受けろ」
「わかった、わかったよ、近い近い離れろ」
ずいずい詰め寄って、退かなさを表すアルミナに、ややあっさりとユースも折れて、買い物に付き合う約束を取り付ける。もともと付き合いのいい性格をしているユースだから、しょうがないなぁって顔を今はしているが、これは不愉快や不機嫌を表す顔ではない。
「んふふ、ありがと♪ それじゃシリカさん、ユース借りていきますね?」
「あ……うん……」
何やら含みのある言い草で、上機嫌の笑顔でシリカに話しかけるアルミナの姿に、なんだかシリカは
呑まれ気味。
お風呂上がりで髪を結んでいないアルミナは、長い髪を肩の下まで垂らしたロングヘアースタイルだ。短時間限定のイメージチェンジながら、普段の彼女とは異なる別の魅力が見るからに溢れていて、やっぱり稀有なほど元が可愛い女性なんだなぁと、女のシリカですら不意に再認識する。
なんだかこう、これまでの人生を騎士と剣に費やし過ぎてきたシリカをして、アルミナって女性としては色々敵わない気分になる。こっちが年上なのに。
鼻歌を歌いながら自室に戻り、髪を結んで出発の支度を整えてくるであろうアルミナを見送って、ユースは自ずと溜め息が出た。相変わらず元気な奴だなあって。
対するシリカは、どことなく表情が堅い。
「アルミナこそ、たまには風邪でもひいておとなしくしといた方がいいと思いません?」
「え……あ、あぁ、うん……言わんとしてることはわかるよ?」
ちょっと黒めの冗談を発するユースに、シリカは力なく笑いかけるので精一杯だった。ユースがアルミナに引っ張り出されて外出することが確定した今、一人でお留守番を強いられる形となった年長者の彼女は、敗北感に近い何かを感じながら、それを隠すぐらいのことしか出来なかった。
あんまり隠せてもいないけど。
「お前、風呂上がりでそんな格好で外歩いてるけど、ホントに風邪ひいたりしないか?」
「あら、心配してくれてる?」
「するよ普通に。元気な時は忘れがちだけど、風邪ひいたらその時けっこう後悔するもんだろ」
「案外この服、あったかいんだけどね。そりゃ吹き晒しのとこは冷えるけどさ」
晴天の市場を歩くユースとアルミナ。アルミナは相変わらず、二の腕と膝、脇元の肌を晒しっぱなしで、ユースにしてみれば見ているだけで寒い。
ただ、見た目ほどにはアルミナは寒がっていない。アルミナが着ているのは、エレム王国からセプトリア王国に渡ってきて間もなく買ったものだが、こちらは元々温かくない国だから、見た目はこうでも案外温かい作りになっているらしい。
やはり女の子、異国に渡ってきてまず目につけたのは、道行く人々を介して見える、祖国と異なる服飾文化。こちらに来て早々に、今の服に着替えてしまい、祖国以来の愛用の服は洗濯してタンスに眠らせている状態だ。
実は、シリカを含む他の面々もそうである。変わらないのはそういうのに無頓着なユースだけ。
ゆえに、こちらの国での気候や気温にそもそも合わせて作られた、見た目は寒々しくても案外着てみれば温かい服で体を包むアルミナは、ユースが心配するほど体を冷やしていない。南国で気温の温かめの祖国以来の格好で、マント一枚羽織っただけのユースの方が、よっぽど風邪を引きかねないのが本質的なところだったりする。
「にしても賑わってるわ~。さすが安息日」
「どこの国でも、安息日の市場は盛況だな」
「ここは特に王都だもんね。いいわ~この空気、私大好き」
真昼過ぎのセプトリア王都の中央市場は、晴天の下で地面の大半が人の影に黒くされてしまうほど、往来する人々に満ち溢れた活況を呈している。
一般人の休日は、商人は平日の倍忙しいかき入れ時。中年から年配の経験豊富そうな商人はさておき、その付き人か弟子と思しき若い商人が、既にへろへろのご様子が見ていて微笑ましい。
それほどの人に満ち溢れた中央市場だから、子連れの親御さんも我が子の手をはぐれないように握っている。あるいはこの良い眺めを見せるのと、離れないことを兼ねて、愛娘を肩車しているパパさんもいる。
ああ平和、なんて素晴らしい空気。
騎士であるユース、傭兵であるアルミナが最も活躍する時と場所っていうのは、平和じゃない時か、血生臭い場所なのである。魔物がやたらと闊歩する、物騒な時代も経験し、戦場を駆け抜けてきた過去を持つ二人だけあって、一般人にしてみれば当たり前の安穏とした街角風景は、それだけで癒される光景だ。
戦人を本職とする者ほど、平和と大安の貴さは忘れられない。
「これ絶対、お昼ご飯は後回しにした方がいいパターンよね」
「どこのお店も屋台も、この時間帯はいっぱいだろうしな」
「というわけで先に買い物を済ませた方が効率的、と。ただし荷物が増えるジレンマ」
「あんまり買うなよ、俺の荷物が増えるから」
「お、荷物持ちは任せろ宣言頂きました」
「いいけどあんまり増やすなよ」
今がまさに昼食時であって、外食できる場所なんてのは客で混んでいるだろう。1時間か2時間ぐらいはお買い物を楽しんで、それから昼食を取りに行くぐらいが、時間の使い方として恐らく賢い。
一方で、あまり早い時間から買い物しすぎると、帰るまでの長い時間、多い荷物を担いで歩くことになる。なので、あまり買い込み過ぎはしないよう配慮した方がいい。
「こういう時は軽食である。さてユース、アレどっちがいいと思います?」
「ん~? ああ、クレープと饅頭ね」
あるいはこういう道筋もあり。昼食が先送りになったので、ちょっとした軽食を、と。
アルミナが指差す方向には、並んだ出店が二つある。小腹を好かせる来客は飲食店に流れるのか、この時間帯はかえって列が出来ていない。
クレープ売りの出店と饅頭売りの出店。アルミナの問いは、どっちがお好みですかとユースに振ったものだ。
「さ、どっちにする? 直感で、せーのでいきましょ」
「直感でな、わかった」
「ほら行くわよ。ハイせーの」
ぴっ。ユースが自分と同時に出来るよう、大袈裟な腕の動きからクレープの出店を指差したアルミナ。同時にひょいっとユースが指差したのも方向も、同じ出店である。
「んふふ、やっぱ気が合うわね。絶対一緒になると思った」
「饅頭も別に好きだけどな」
「でも今はクレープな口」
「だよな」
特に理由もない、今はたまたま、食べるなら饅頭よりクレープっていう気分なだけ。何故と言われても説明できないけど、二人して意見が一致したので、理由も無く"だよな"である。
なんでもないことでも、相手も同じ事を思ったんだなっていうのがわかりやすく見えると、面白いというか嬉しいというか、とりあえず楽しい。
「すいませーん、二つ下さい」
「おお、今日は可愛らしいお客さんが多いな」
出店に歩いて行った二人、店主に声をかけるのはアルミナ、注文された数のクレープを用意しながらアルミナにリップサービスを利かせる商人。流石この時間帯は忙しいとわかっているのか、店主の手際も非常に良い。
「お似合いのカップルだな。お互い、いい彼氏さんと彼女さんを持ったって誇らしいだろ」
「あっ、また言われた」
「俺らってすぐそういうこと言われるよな」
「ん? 違うのかい?」
「私達、別に付き合ってるとかじゃないですよ~」
「へぇ、そうかい。そいつはすまんかった、そう見えちまったんでな」
売り物を整えながら数秒の間を繋ぐ話術を展開した店主だが、アルミナから返された返事が意外だったのか、ユースとアルミナを二度見してちょっと驚いた顔も見せた。恋人同士でないにしては、横並びの距離感も近いし、見るからに性格も合いそうな雰囲気を纏っているから、わかりやすくカップルだと思ったのに。
長年あらゆる客を見てきた商人の目が、初見でそう判断したのだから、だいたいの人にはユースとアルミナって、そういうふうに見えるということである。
「はいよ、クレープ2つ」
「すいませーん、こっちも――」
「あ、すいません、お代ここに置いていきますね。忙しそうですので」
「ん、釣りは……」
「結構です、お次のお客さんをどうぞ」
「すまねえな、お気遣いどうも。――まいど、3つですね。少々お待ちを……」
アルミナが店主からクレープを受け取るのと、別の客が店主に話しかけるのがほぼ同時になった。用意してあったお金を出店のカウンターに置いて、アルミナはいそいそとその場を離れる。
ちょっとだけお釣りが出るであろう払い方であったのだが、出た損は小額だし、気風のいいアルミナは忙しそうな店主に手間を割かせることを避けたようだ。機嫌がよかったせいもあるだろうけど。
「はい、クレープ代」
「いいわ今は。今度、なんか別の時に奢って返してくれればいいわよ」
「そっか。んじゃ、とりあえずいただきます」
クレープの代金はアルミナが纏めて払った形だったので、自分のぶんはとユースも代金を渡そうとしたが、アルミナは受け取らなかった。今ここでの現金のやり取りは面倒だから、どこか適当な時に帳尻を合わせて欲しいとの主張。極論、忘れてくれてもいいとさえ含んである。
時々奢り合うような友人同士にはよくあるやり方である。
「っていうか俺達って、そんなにカップルに見えるもんなのかな?」
「みたいねぇ。おかげであんたと一緒に歩いてると、既に私は彼氏持ちだと思われて声をかけられないのが定説」
クレープを食べ歩きながらの会話だが、本当アルミナの仰るとおりなのである。ユースとアルミナは、互いを無二級の親友と認め合う間柄ながら、周りにはそれ以上の関係と誤解されやすい。
仲が良すぎるせいなのか、それで日頃からそういうオーラをぷんぷんさせてしまっているのか、ただの親しい男女だとは初見の人にこそ思われず、とっくに付き合ってるものだと思われやすいのだ。
実際、この国を初めて訪れ、ナナリー女王に初謁見した時にも、先の店主と同じようなことを言われたものである。初対面時のハルマからも同様で、最近でも例には事欠かない。
「というわけで、ちょっと離れて歩いてみて? そしたら周りの私を見る目も変わって、ナンパされたりするかもしんない」
「お前人を誘っておいて、今度は離れろとかどんだけだよ」
こんなこと言う割にはユースと近い距離感で並び歩いたままで、自分から離れて歩こうとはしないアルミナなので、冗談なのは普通にわかる。
行動と発言が全く一致していないもの。ユースも笑うがまま。
「いっそ逆に手でも繋いでみる? カップルオーラを敢えて匂わせてみるの巻」
「なんで」
「普通にしててもそう思われるなら、むしろそれを過剰に見せたら、逆にそう見られなくなるかもっていう逆転の発想?」
「よくわかんねー」
「わかんなかったらやってみる。はい実験タイム」
「うわ……こら、急に来るなよ、クレープ落とすだろ」
手を繋ぐどころか、腕を組んでくるアルミナのアプローチに、ユースも思わず動揺の声を発する。見慣れて親しくなり過ぎて、今さら異性として意識することも殆どないアルミナなのだが、いきなりこう来られてはユースもびっくりする。
「んん~?」
「……なんだよ」
「ユースさん、どきどきしていらっしゃいますか~? 心臓の音が聞こえますよ~?」
そりゃあしますよ、アルミナさん普通に可愛い女性ですし。言ってることは適当な出まかせでも、異性に対して免疫の薄いユースであるのはアルミナも知っているし、些細な足取りの変化からして、僅かに平常心を乱されているのはわかるので、看破したアルミナもからかって遊ぶ。
「や~めろ、そういうのはなんかはしたないぞ」
「あはは、そうね。ごめんごめん、流石にちょっとこれはやりすぎたわ」
顔に近いアルミナから目線をはずして、くいくいと組み付かれた腕を押し返すユースに促されるまま、アルミナも離れた。いくらなんでも接し方が尻軽風すぎるとアルミナも思ったようで、悪ふざけが過ぎたなと反省もする。
スキンシップは元々好きなアルミナなので、親しさに甘えてこういうことをするのは好きなのだが、異性が相手となれば自分でなく、相手の気持ちも考えて自重するようだ。
「あー美味しい、楽しい。たまにはユース連れてのお散歩も悪くないわね」
「人の名前を犬に言い換えても通る場所に入れるなっての」
クレープを買ってから、アルミナの機嫌は妙なほど良かった。
いつもこれぐらいには快活なアルミナだし、別にユースも疑問視はしなかったけど。あるいは、よっぽどクレープが美味しくて上機嫌なのかなと、ちょっと仮説を足すのが関の山。
アルミナが上機嫌である理由が、仮にクレープの美味しさ以外にあったとしても、今のユースには気付けまい。真面目一貫に騎士道を貫きすぎて、色事にはさらっさら縁のなかった彼に、細かい乙女心を察して気付くのは難しいことなのである。
この後も、店を見回って、昼食を食べて、また町を練り歩いて、そのまま家に帰るだけ。結局何も買わずに帰ることになったので、買い物に付き合ってよと持ちかけてきた当初の目的は、果たされかけもしていないのである。とどのつまりは、二人でお喋りしながらセプトリア王都を色々見て回っただけという話。
それにしては、アルミナはずっと楽しそうだったし、ユースも楽しかったので、それはたいした問題じゃない。
素敵に楽しい休日を、二人は過ごせたのでありました。めでたしめでたし。
「ただいま帰りました~」
「ん……おかえり。楽しんできたか?」
お留守番していたシリカは、玄関からの声に応じるかのように居間の席を立ち、出迎えに歩む。
夕暮れ前まで休日を満喫してきたアルミナの清々しい表情から、問いかけた言葉に対する答えは見えたようなものか。
「楽しかったですよ~。ユースも楽しかったでしょ?」
「はいはい楽しかった楽しかった、アルミナと一緒にいると楽しいですよ、はいはい」
「感情がこもってない、やり直し」
「めんどくさいな、もう」
お世辞丸出しのユースの態度に、アルミナもユースを振り返って笑みなじるが、口ぶりでは面倒くさそうな態度を表しながらも、ユースの表情は朗らかなもの。
会話は冗談で紛らわせているが、実際のところアルミナと二人での休日を楽しんでいたのは、その表情からも充分に読み取れる。ユースも意図して、やんわりそう顔に出しているわけで、わかるだろっていうその表情で、アルミナだって満足だ。
「とりあえず、風呂沸かす準備だけしてくるよ。シリカさん、夕食の準備ってまだですよね?」
「あ、うん……二人が帰ってきてからでいいかなって……」
「んじゃ私、シリカさんの夕ご飯のお手伝いしよっと。お風呂はユースに任せるわね」
「おう。そんじゃまた後で」
「あっ、行く前にちゃんともっかい言って? 楽しかった?」
「なんだよもう。楽しかったってば、嘘じゃないぞ」
「んふふ、よろしい♪」
変にしつこいアルミナに、ちょっと苦笑いしながらも本音を言うユースだが、それによってアルミナが露骨なほどご機嫌な顔になるのだからまぁ良し。大事な親友が嬉しそうな顔をしてくれるなら、それだけでユースも何だか嬉しくなるから、多少しつこい絡みなんて鬱陶しくも感じない。
ユースは風呂場に去っていき、玄関口にはアルミナとシリカが残る。
アルミナは意図的に残り、シリカは取り残された。そう形容してあながち間違ってないから困る。
「楽しかったですよ?」
「む……」
「ユースも、楽しかったんですって」
むふふと笑う口元を手で隠し、ちょっとイジワルな顔で見上げてくるアルミナに、シリカはたじろがされそうな気分ですらあった。
何この勝ち誇ったかのような顔。実際いろんな意味で今日は先んじられたわけで、何らかの意味でアルミナに軍配が上がったのは確かだが。
「たのしかったですよ~?」
「うぐぐ……」
後輩がずいずい詰め寄ってくる姿に、年上で背も高いシリカが、触れずして押されるように後退する。
あらゆる意味で強敵のアルミナに、今日のシリカは完全敗北であった。二人が何に勝って何に負けたのかは、乙女シリカのプライバシーの問題で、明言されないのが道理である。
前言訂正。約一名、あまりめでたくはありませんでした。




