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第32話  ~女王様の許婚~



「ユースどの、お疲れじゃのう」

「い、いえいえ、そんなことは……」


 夕過ぎでもう日も沈んだこの時間帯になって、ハフトの都に到着したユース達、ナナリー女王様ご一行は、人通りの少なくなった、それでも農村の昼より人の往来のある町を歩いていく。

 総計七名、固まって歩くとやや大所帯なので、前に三名、少し後ろに二名、そのまた後ろに離れて二名と、少々ばらついた一団で行進する。


 セプトリア王国がアルバー帝国を戦争で沈め、その国土を吸収して以降の現在、アルバーシティがセプトリア王国第二の都とされている。

 それ以前の第二の都がここ、ハフトの都であり、土地も広くて大きな建物も多く、有力な商業団体の拠点も数多く有する、金銭のよく動く町だ。

 繁華街や市街地から離れた領地の一角には、畑や果樹園も多数存在しており、経済的な流通の要でありつつも生産力にも秀でるという、都市単体としてのバランスも良い街である。

 王都に次いで最多の人口は、自警力と労働力を支える最大の要素とも言え、かつてセプトリア王国全体が大きな飢饉に陥った時でも、この街の体力が国全体の活力を取り戻す一因となった実績もある。


 ナナリー女王が今日この日、ハフトの都を訪れることは事前に知らされていなかったことであったため、街への到着自体がやや暗くなった時間帯であることも計画のうちだ。

 こんな大物がいきなり王都を離れ、自分達の街にいらっしゃったと目撃すれば、民がびっくりしてしまうから。


 とはいえこの街、暗くなっているこの時間帯でも人の往来は多く、おかげで女王様を目撃し、二度見か三度見した挙句にざわつく人は少なくない。当の計画的配慮も少々空振りだ。

 人通りのもっと多い昼に訪れるよりは、騒ぎになったりしないだけでもましとは言えるだろうが。


「お前本当に乗馬は得意じゃないんだな。来るまでだけで神経使い果たしたの、顔に出まくってるぞ」

「むぅ……疲れてはいるよ、でもナナリー様の護衛はちゃんと出来るぞ」


 ニトロがユースを軽口でからかい、ユースはちょっとむすっとしつつも、怒った類の顔ではない。せいぜい、あんまり言わないでくれよってな程度の顔である。

 出会って間もなくの頃と比べれば、随分二人の距離感も近くなったようで、二人の間で両者を見上げるナナリーも微笑ましい。

 ユースのこともニトロのことも好きなナナリーにとっては、偏に嬉しい姿であろう。


「ナナリー様、注目集めてますねぇ。有名なんですかね」

「セプトリア王国の王族様は、民の前にお顔を出されることも多いそうだからな。

 エレム王国を含む多くの国とは異なり、王族様と庶民の距離が近く、顔も広いんだろう」

「へー、いいなぁそういうの。私も一度でいいから、エレム王国のお姫様とか見てみたいなぁ」


 ユースらの少し後ろの二人、シリカとアルミナは、目撃者を驚かせつつ前を行き、しばしば民衆に手を振るナナリーを話の種にひそひそ声。

 諸国の王様なんていうものは、わざわざ庶民の前に顔を出すこともそこまで多くないし、仮にある日、街の片隅を一人で歩いていたりすれば、顔の認知度の低さから意外と気付かれにくいというのが通説だ。

 その上で、あんなに多くの人に気付かれて、相手のびっくりする顔に、舌をぺろっと出して手を振って見せるナナリーの姿というのは、アルミナの価値観では新鮮なことである。


「今月の頭にも、ナナリー様の公開演説が王都であっただろ?

 ああいうのを、定期的に王都以外でもやっているそうだからな。

 セプトリア王国の王様は、代々庶民との近い距離感を好まれているという話だ」


「シリカさん、すっかりこっち側の国の事情に詳しくなっちゃいましたね。

 お城に遊びに行ってる間に色々勉強してきたカンジですか?」

「興味深い話がいっぱい聞けて楽しいぞ。アルミナも今度、機会が得られれば来てみるか?」

「お城暮らしの大人の人との会話なんて私緊張しますよ~。お話してみたくはありますけどねぇ」

「またとない経験になると思うけどな。アルミナなら、なんだかんだで誰とでも上手くお話しそうだし」


 来国してそう間もないこの時期にもう、すっかりセプトリア王国の事情あれこれに精通するようになったシリカは、アルミナに豆知識を語れるほどになっている。

 在国する時間が長くなればなるだけ知識も増やして、やがてはエレム王国と同盟国のセプトリア王国との縁もより深くし、最終的は使者すらこなせるようになりかねない。

 本人は全くそんなつもりはないのだろうが、勉強家かつ人となりを大事に出来る人間にとってはそれもまた向いた仕事の一つであり、騎士しか生きる道が無いと自分で思っているのに反し、シリカは存外多芸である。


「ハフトの都は玉葱の生産が盛んらしくて、そろそろ収穫の時期にあたるのかな。

 もしかしたら宿での夕食にも、旬のそれが並ぶかもな」

「春タマネギですか? 美味しいですよね、あれ私も大好きですよ」

「ルザニアは玉葱を生でもかじれる口か?」

「タマネギは炒めたりせず、生で頂くのが一番ですよ。流石に春以外のものは辛くてきついですけど、だからこそ春のタマネギは最高なんじゃないですか」

「わかるよ。帝国ルオスでも桜の季節には、塩だれをまぶした生玉葱がつまみとして人気だからな」

「わ、何ですかそれ。食べてみたい」


 知識豊富な奴はもう一人いて、シリカ達よりさらに後ろで、ルザニアを相手に話を弾ませているチータもそう。

 魔導士、つまり知識と精神力が生業の要である彼は、日頃からあらゆる雑学を増やすことに前向きで、その過程でハフトの都における特産物などもしっかり学んでいるご様子。


 この街の名産品の一つをあらかじめ知り、それ例に話を広げ、先輩相手ではお喋りになれないルザニアでも元気に話せる、そんな話の流れを作る。

 無口なことが多い彼だし、今でもずっと無表情のままだが、チータもその気になればなかなか喋れる口だ。

 年下の女の子に退屈はさせまいという甲斐性は地で持っているようで、ルザニアも優しくして貰っているものである。




 女王様の護衛という、非常に重要なお仕事を預かるユース達ではあるが、纏われた空気は全員を通して、小さな旅行のようなものだ。

 それは女王様ナナリーとユースが良い関係であるがゆえ、シリカ達も何やら気を遣う必要がなく、自分達の会話を気軽に楽しめるという部分も大きく、そういう意味ではユースも上手にやっている方である。


 わざわざ特筆すべきことでもないが、隊というのは長がしっかりしていれば、率いられる側も肩の力を抜きやすいというのも事実だから、この日までにユースが重ねてきた成功は価値を持っている。

 特筆すべきことでもないだけに、ユースには実感を得づらいことであり、自信に繋がらないのが残念なところ。

 むしろ乗馬のくだりで頼りないところを見せた気がして、何とかどこかで取り返したいなとすら思っているのがユースという子だから。


 誰のおかげと言うほどではないにせよ、そうした一因もあって、今は一行よい空気。

 気分のいい足取りでナナリーが宿まで足を運べていた時点で、現在のところ護送任務は上々である。











「おー、来てくれたか! さささ、この辺りにでも、どこにでも座ってくれい」


 宿に到着したナナリーご一行は、部屋を三つ借り、お風呂上がりの夜中を迎えていた。

 唐突にご来店された女王様に宿の店主が度肝を抜かれたのは言うまでもなし、夕食がやたら気合の入ったものであったのも言うまでもなし。

 超がつくほど普段以上に気合の入ったお料理をご馳走になることが出来た、エレム王国騎士団の五名様はちょっと役得であった。


「畏れ多くもお邪魔いたします。堅苦しい挨拶はお好みでないかもしれませんが、やはり光栄で身が縮みますよ」

「お招き頂きありがとうございますー、ナナリー様」

「お、お邪魔します……」


「それじゃあ、俺はユース達の部屋に。ナナリー様、ごゆっくり」


 借りた部屋は、ナナリーとニトロ、シリカとアルミナとルザニア、ユースとチータの部屋と、わかりやすく王族女子男子と分けられたのだが、ナナリーがシリカ達とお喋りしたいと望んだのでこの展開。

 シリカ達三名がここに招かれ、男のニトロは女子会の空気を重んじて退室である。


 ニトロはその足でユースとチータが泊まる部屋へ。

 どうせ今夜はナナリーも、せっかくだから一緒に寝ようとシリカ達を引き止めるだろう。

 少し狭いが、ナナリーの部屋は女子四人の泊まり部屋となりそうな流れである。

 それに合わせてニトロもユース達と一緒の部屋に泊まることになりそうだし、元々シリカ達が三人で借りていた方の部屋は、今晩余ることになりそうだ。


「うむ」

「どうしました?」

「いや、みんな良い体つきしとるなー、と」


 まじまじ来客三名を見比べたと思ったら、自分の胸をおわん型の手でぽんぽん押さえて、おっさんみたいなこと仰り始めた。

 女王様を前にして、緊張し得る三人相手に、空気を和ませる第一声を選んでくれたのかもしれないが、女王様がそこまで俗すぎるのは如何なものか。アルミナはふくっと笑ってしまえたようだが。


「あっ、アルミナどの、笑っては失礼なのじゃぞ。妾は体がこんなんのまま止まってしまっとるし、けっこう気にしておるんじゃぞ」

「ご、ごめんなさいごめんなさい……でも、女王様が第一声それだから、緊張の糸いきなり切れちゃって……」


 要約すると、庶民の私達を相手に、小粋なジョークをありがとうございます、に近い。

 指摘されても口元を手の甲で隠して、笑うことをやめずに返答するアルミナの態度はそういうことである。

 ナナリーも笑いながらの指摘であるから、その空気の中での最善解をきっちりアルミナは導いている。


「ナナリー様はお望みではないかもしれませんが、ずっとお若い姿というのも羨ましくは思いますよ。

 私は十年後二十年後、望む自分の姿ではいられませんからね」

「うむ、よく言われる。でもな、妾だってシリカどののような、おっきなそれとかあれとかを羨ましいとは思う。とても思う」


「私も~。シリカさんの体、とっても羨ましいですです」

「わ、私も……シリカさん、二物に恵まれすぎですよねぇ……」

「あれ、なんで集中砲火されて……」


 上から順に、出てくびれて出てのシリカは、武装を脱いで寝る前の部屋着であるとそれがより顕著。

 それに加えて背も高いし、幼児体型のナナリーに留まらず、完璧すぎるそのプロポーションは、身内のアルミナすら、自分がああだったらなぁと思う節がある。

 ルザニアも、思い切って告白してくる始末。この子は、自分だけずっとだんまりではなんだなと思って、口を挟めそうなうちに発言してみた部分も強いが。


「早いうちに聞いておきたいんですけど、やっぱりナナリー様は、ご自分のお体のことは気にされているんですか?」

「んや、別に。昔はちょっと気にしておったけど、今はなんとも思っておらぬよ」


 この機会に地雷潰しをしておきたいアルミナだが、思い切ったこと聞くなぁとルザニアは少し驚かされた。回答次第ではかなりデリケートな所をつつきかねない質問だったからだ。

 もっとも、会って間もなくの頃からもナナリーの言動は、自分の見た目を周りが気遣い得ることを見越し、そうではないと示唆していたものもあったので、アルミナは見込みありとして攻めている。

 妾こう、ちっこいじゃろ? なんてユースに言ったこともあったナナリーだが、あれがその一例である。


「やっぱり、エルアーティのお姉さまに出会えたことが大きかったかもしれぬのう。

 妾と同じで幼少の頃から変わらぬお姿であられたようじゃし、同じ境遇のお方がおられたというのは、コンプレックスを緩和するにあたっては大きかったと思う」


「ナナリー様ってそれ抜きにしてもエルアーティ様のこと大好きそうですよね。お姉さまなんて呼んでるし」

「うむ、好き、ものすんごく。今となっては、世界で最も尊敬するお方の一人じゃ」

「へぇ~、どんなところが好きになりました?」

「山ほどあるぞ、好きな所。まず博識であられる所じゃろ、魔法使いとしても学者としてもとびっきり優秀であらせられる所じゃろ、知恵にも富み聡明であられる所じゃろ。あと何といってもお優しいところじゃろ」


「優しい……?」


 ど、どこが……? みたいなイントネーションで、ぽそっと思わずシリカは呟いてしまったが、幸いにもこれはナナリーの耳には入らず、水を差す結果には至らなかった。

 シリカにしては珍しく危うい失敗だったが、それぐらい、今のナナリーの最後の発言は不思議すぎたのである。

 ユースほどではないが、シリカもエルアーティのことは苦手なのだ。悪人ではないのはわかっているが、黒い部分もかなり濃い人なので。


「言えばきりがない。今からもう妾、お姉さまに会うのが楽しみじゃ♪」

「会ったらまず、どうします? 会えた喜びで抱きついたりします?」

「む、妾もそこまで子供では……」

「私だって、祖国に残してきた妹みたいに可愛い年下の子がいるんですけど、帰国して顔合わせたら絶対に我慢できなくて抱きつきますよ。普通じゃないですか?」


 いや、普通ではない。シリカもルザニアも全く同時に心の中で突っ込んだ。

 今はアルミナが作ろうとしている空気を阻害しないように空気を呼んだが、そこそこ強い声で突っ込んでやりたい衝動はあった。


「それにナナリー様、はずれてたら申し訳ないですけど、前科ありそうな予感がするんですよね」

「えっ、なんでわかったのじゃ?」

「いやなんとなく。っていうかホントに前科あるんですね」


 何かと色々見抜くアルミナだ。人を観察して性格を察し、過去の行動まで言い当てる彼女だが、魔法でも何でもなくそんなことをやってのけるのはもはや才能である。


「後でニトロに怒られたの~。恥ずかしいことしないで下さい、って」

「恥ずかしくなんかないですよ、好きな人とハグしたいって当たり前じゃないです?」

「握手しよ」

「あ、光栄です」


 片手を差し出すナナリーに、へへぇと頭を垂れて両手で握りにいくアルミナという図式なので、女王様と庶民という立場の差は失われていないが、親密度は会話からもわかるとおり既にかなり高い。

 誰とでもすぐ仲良くなりがちなアルミナだが、その末席に一国の女王様すらあっさり含めてしまうその姿には、この先輩超人ですかとルザニアがシリカに目で訴えている。

 今さらこんなアルミナを見ても驚かないシリカは、そうだよ凄い子だよと笑顔を返すだけだが。


「ニトロは厳しすぎるのじゃ。時々優しくしてくれるけど、ずっと優しくしてくれる方がいい」

「でもナナリー様、ちょくちょくニトロさんのこと愚痴りますけど、実際のとこはかなり信頼されてますよね」

「まあのう。いや、全面的に肯定するかと言われたら、ちょっと頭が固くてかなわんの~と思う部分もあるにはあるんじゃが。

 でもまあ、やっぱり一番信頼できるのが誰かと言われたら、ニトロかハルマかウィークの三人にはなるしのう」

「いいですねぇ、そういうの。主従ゆえに男女の関係にはならないんでしょうけど、なんだか王朝を舞台にした恋愛小説も彷彿とするような信頼関係ですよ」


 なんだかシリカもルザニアも、わざわざ何か口を挟まなくてもいい空気だ。

 全部アルミナがやってくれるんだもの。彼女は喋りたいから喋っているだけだろうが。


「ありゃ、言うておらぬかったかの? ニトロは妾の許婚じゃぞ?」

「いいな……ぶっ、ええっ!?」

「ええぇっ!?」


 ぽろっと仰るものだから、アルミナも一瞬何を言われたのか理解できず、噴いて驚くまで時間差が生じた。

 それに遅れてルザニアも、固まった後の大声。

 シリカは元々知っていたのかそれ自体には驚かず、大声を出した二人にちょっと驚いて肩を揺らした。


「い、許婚、って……ニトロさんが? ナナリー様と?」

「あー、言うておらぬかったか。なんかびっくりさせてすまぬのう」

「や、それはいいんですけど……うわー、うわー、何それ何それ、本物の恋愛劇みたい……!」


 両手で口元を隠して目をきらんきらんさせるアルミナだが、何やら個人的な好みのツボに入ったらしい。

 華やかな王族様、それに遣える仕事の出来る衛兵、その二人が恋仲、しかも許婚。

 アルミナが小さい頃から愛読してきた多数の恋愛小説の中に、そういうお話のものもあって、読んだ当時には楽しんだものだが、それが今目の前に現実に。

 単に唐突に許婚という言葉を耳にしただけで、おぼこさゆえに顔を真っ赤にしているルザニアとは全く違うときめき具合である。


「ちょ、ちょっと待って下さいね……聞きたいこといっぱいあるんですけど、言葉選びますから……」

「アルミナ、ちょっとしばらく何も言わない方がいいぞ。お前絶対、何聞いても生臭いことばっかりになるだろ」

「そ、そんな気がします……ひゃーすごい、びっくりしたびっくりした、どきどきする……!」


 あまり一国の女王様相手に、男と女の下世話な話をこまごま聞くものではない。

 わかっているからアルミナも、テンション任せに踏み込み過ぎた質問をし過ぎたりしないよう、間を挟もうとしているわけで、シリカのアシストは極めて適切である。


「ニトロどのは素晴らしい殿方ですよね。あの年で強く、気高く、責任感があられる。少なくとも私は、今の彼の年の程の頃、あんなに立派でいることなんか出来ませんでしたよ」

「嬉しいのう、ニトロにも聞かせてやってくれい。妾の誇らしい衛兵であり許婚なのじゃ」


 シリカのように、ナナリーにとって無二の大切な人であるニトロを、こうして素の想いから立てて褒めてをするぐらいが安全策。

 お世辞で言うだけなら味気ない社交辞令になるが、シリカは素直に思うところを羅列してこうだから、声使いも自然なもので、ナナリーの胸にも真意として届く。

 これは他人の良いところを、適切に評価できる性格のシリカだからこそ、単なる社交辞令に留まらぬものへと昇華できるという寸法だ。


「私はナナリー様から、ニトロどのに対する酸っぱい発言しかあまりお伺いしていませんからね。

 よろしければこの際に、そうでないニトロどのの話も聞かせて貰えませんか?」

「む、いいのか? 惚気話など退屈ではあるまいか?」

「まさか。私も可愛い後輩の自慢話は大好きです。ナナリー様と同じ気持ちで、普段は控えているだけですよ」


 近くにいたアルミナを片腕で抱き寄せ、ぎゅっとして可愛い後輩の一人であると示し、手の届かない位置にいるルザニアに対しては、そう言いながら目線を彼女の方に向け、ルザニアもそうだと言う。

 自粛モードに入ったアルミナの代わりに、ナナリー相手のお話役の主任を代わったシリカの腕に、アルミナもぎゅーっとしがみつくように愛情を返す。

 好きな人にハグしたくなるのは当たり前、の前言はあっさり証明されている模様。


「まあ挙げろと言われるとぽんとは出んのじゃが……ニトロはあ奴の父が、お父様の衛兵をしておった頃からの深い付き合いでなぁ。

 当時から、王女の立場である妾には堅苦しい挨拶をする奴じゃったのう。妾の前で、自分のことを普段どおり"俺"と言うようになったのも、思い返せばつい最近のことじゃ」

「そんな頃からしっかりしていたんですね」

「幼い頃からそうじゃから、いかんせん年に似合わず頭が固いと捉えられがちなのじゃ。特に他国の方にはな。じゃが、実際のところは――」


 さて、本格的に惚気話へ。

 シリカ達は気分よく人の自慢話を聞ける性格をしているから良いのだが、この流れで夜遅くまで語り明かすほど、ナナリーのニトロに対する想いは厚いようで、この日は眠りにつくまでそれなりに夜更かしすることになった。


 結局当初のニトロの想定どおり、やはりシリカ達もナナリーに招かれたまま、こちらの部屋で寝ることに。

 元々ナナリーとニトロの二人で寝る予定だったこの部屋はベッドが三つしかなく、四人で泊まる客を想定した作りではない。

 そんなわけで、一つのベッドに二人が寝る必要があって、その役目はナナリーに添い寝役を頼まれた、シリカが担うことになるのだった。一国の女王様と添い寝なんて、まあ相当にない経験である。


 見た目に似合いすぎなぐらい人懐っこいナナリーは、寝息を立てるまでの安らかな時間を、ずっとシリカの胸元に身を寄せて、抱かれる中で幸せそうにしていたものだ。

 むずむずしつつも、ナナリーが寝付くまでずっとその頭を撫でていたシリカの姿を、隣のベッドから見届けるアルミナは、寝るまでずっと微笑ましい気分だった。


 シリカさんは甘えられると断らない、断れないというか、甘やかしな面がやっぱり目立つなぁと。

 訓練の時のあの人とは真逆で、あっちのシリカさんを身に沁みて知っている立場のアルミナだからこそ、見ていて笑っちゃうのである。

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