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第31話  ~賢者様に会いに行く旅の始まり~



「あ~……」

「ユース?」

「あ~……」

「おーい、ユースぅ?」


 ある日のセプトリア王都の関所、集いしはユースを中心としたエレム王国騎士団の五名。

 せっかくのお天気なのにがっくりと肩を落とし、うつむいてけだるそうな声を発しまくるユースの姿は、体調でも悪いんですかとルザニアも気がかりになる。

 ちなみに、そういうわけではない。ぺしぺし肩を叩きながらユースの顔を覗き込むアルミナは、それをわかっていてユースを元気付けようとしている。


「あ~……」

「おねーさんに話してごらん? どうしたの?」


「行きたくねぇ……」

「あんたホント、エルアーティ様のことが苦手なのねぇ。よしよし、お姉さんがついてるぞ」


 これからナナリーに同行する形で、魔法都市ダニームへ行くことになったユースは、それを聞かされた時点でテンション激下がりであった。

 慰めるように、かつふざけ気味にアルミナが、ユースの頭をなでなでして茶化すが、ぺしんとはたかれた。

 諦めずにもう一度なでなでしに行くと、またぺしん。まだ行く、ぺしん。

 繰り返し。ぺしぺしぺしん。何をやっているのやら。


「ユースさんって、エルアーティ様のことが苦手なんですか?」

「そーなのよ。こいつほんと、エルアーティ様の名前聞いただけでびくつくぐらいでさ」

「あ゛~……マジで行きたくねぇ……」


 ちなみにユースは、魔法都市ダニームのこと自体が嫌いなわけではない。

 むしろ綺麗で華やかで、休日に機会があれば遊びに行きたい程度には好きな場所である。

 ユースあるいは多くの人の価値観をもってして、あんないい街はそうそう無い。


 問題は、そこにはエルアーティ様と呼ばれる大魔法使い、賢者様がおられること。

 御年60歳、見た目は9歳児あたりの、ナナリーと同じで幼いまま体の成長が止まっておられる魔女様である。

 そしてナナリーは、魔法都市ダニームを訪れる目的の一つに、エルアーティとの対面というのも含んでおり、つまりユースはナナリーと同行する以上、エルアーティと顔を合わせることを避けられない。


「エルアーティ様って、どんなお人なんですか? 私は遠目にお伺いしたことしかないんですけど……」


 ルザニアは、エルアーティと接点を設けたことが無い。姿は知っているが、どんな人かは知らない。


「別に普通に偉大な大魔法使い様だよ。僕にとっては尊敬の対象だな」

「いい人だと私は思ってるけど。話もわかるし、気さくにお話してくれるしさ」

「うーん、ノーコメントで。あんまり滅多なことは言えない立場だしな」


 魔導士のチータにとっては敬う対象で。

 アルミナにとってはいい人で。

 シリカは言葉を濁してはいるが、得意な相手でないことをほぼ明言。


「あの、ユースさん?」

「勘弁してくれ、何も思い出したくない」

「あ、はい……」


 ユースはろくな返答もくれなかった。よほど苦手だそうで。

 誇張抜きに、ユースにとって世界一苦手なものが何かと言われれば、それは間違いなくエルアーティである。

 過去にいろいろあり過ぎたらしい。回想するのも嫌なほどに。


「まあまあユース、諦めて腹くくろ? 人生初の仕事サボリするあんたも見てみたいけど、あんたそれも嫌がるタイプだもんね」

「あーもう、ホント行きたくねぇ……」


「おーう、すまんすまん、待たせたのう」


 そんなやりとりで時間を潰していると、主賓が衛兵と共に登場だ。

 女王ナナリーとその側近、ニトロがこちらに向かってくる姿を目にしたユースは、曲げっぱなしだった背中を正し、両手でぱちんと頬を叩いて表情もはきっとさせる。


「おはようございます、ナナリー様」

「うむ……っと、ユースどの、顔色悪うないか?」

「え、いや、そんなことは。昨日はよく寝ましたし元気ですよ」


「嘘つけ」

「嘘つけ」

「うそつけ~」


 ニトロに、チータに、あと便乗したアルミナにも突っ込まれた。

 顔色が悪いというのは比喩だが、ついさっきまで気が重かったことを、急遽ごまかした直後であるのは見え見えである。


「ナナリー様、隠さず先に言っておきますけど、ユースってエルアーティ様のこと苦手なんですよ。

 これから会うことを考えただけで、こんななっちゃうぐらいに」

「おま、アルミナっ」

「いいじゃんもう、隠し通せてないし」


「あ~、まあ、お姉さまはクセは強いしのう。苦手な人もおろうな、それはわからんでもないぞ」


 ユースはそんな、ナナリーに遠慮させかねないことを明かしたくはなかったようだが、アルミナの言うとおり、自分で隠し通せないぐらいならもう明かしちゃっていいぐらいである。

 ナナリー目線で、何故だか不明だが元気がないユースを見せ続ける、というのも、それはそれで気を遣わせかねないので、アルミナの選択も間違ってはいまい。


 それよりナナリーがエルアーティを、お姉さまと呼んでいることに、一同ちょっとびっくりである。

 決して血縁関係だとか、そういうことではないのは明らかなのだが、そういう呼び方をする程には、ナナリーはエルアーティのことを慕っているご様子。

 過剰なほど懐いていると言い換えてもいいかもしれない。


「皆さん、今さらですけど乗馬はお得意で?」


「問題ありません」

「私は得意じゃないですけど、ルザニアちゃんが得意ですから、後ろに乗せてもらおうかと」

「私もそこまでは……何とかやれると思いますけど」

「少し前に乗せて頂きました。よく調教されておられるようで、乗りやすく感じさせて貰いましたよ」

「…………」


 出発前に、ニトロの問い。

 乗馬に慣れたチータとシリカはノープレブレムの返答で、少し自信なさげなのがルザニア。

 ああは言っても彼女も乗り慣れてはいるし、実はアルミナも一人で乗れと言われたら、そこそこ上手に手綱を操れる方である。

 戦人をやっていると、馬に跨る機会はそう少なくないので、ある程度までは勝手に慣れるらしい。


 露骨にニトロから顔を逸らして無言なのがユースである。

 

「ユース、お前もしかして乗馬ダメなタイプか?」

「……得意じゃない」


 乗れないわけではない。ただ、本当に得意じゃない。

 人間誰でも得手不得手があるものだが、どうにもユースは何度も馬に乗ったことがある割には、乗馬が上手くならないのである。

 なんだか、乗った途端に考えなくてもいいことまで色々考え過ぎてしまい、手綱や体重移動、(あぶみ)越しで馬に伝える命令が色々ちぐはぐになって、走りがぎくしゃくしやすい傾向にある。


「乗れないわけじゃないよな?」

「まあ……うん。乗れるには乗れるよ……うん」


 走らせることは出来るし、欠点と呼べるほどダメなわけではないのだが、どうにもユースが乗った馬の走りは不格好になりがち。命令が上手に出来ないからだ。

 具体的には馬がジグザク走行したり、加速減速も散発的だしで、馬上のユースも格好の良くない体勢にされることが多い。


 隊長職を預かるようになって、立派な騎士様を本格的に目指していこうっていう自分が、乗馬すら満足に格好つけられないというのは、けっこうユースの中ではコンプレックスのようだ。

 そんなに気にするべきことでもないのだが、年下のルザニアや、騎士ですらないアルミナでさえ、乗馬ぐらいそつなくこなすから、余計に気になってしまうのかもしれない。


 王都の関所外には、馬が六頭用意されていた。

 ニトロとナナリーが乗る馬が一頭で、あとはシリカが、チータが、ルザニアとアルミナが、そしてユースが乗る。一頭余ったのでそちらは馬房へお帰りになられた。


「では、参りましょうか。俺達が先頭を行きますので、脇を固めて下さいませ」

「ユース、しんがりよろしくね」

「お気遣いどーも」


 馬上で後ろからナナリーに胴をぎゅっと抱きしめられたニトロが、手綱を操れば馬が走りだす。

 それに従い、シリカもチータもルザニアも、馬に前進を命じてニトロの馬に追走する。

 最後方を走るのがユースとその馬だ。少し前との距離が出来つつも、ユースはややリラックスして手綱を操り、最後尾をゆったりと走っていくのであった。


 普通は隊長職にあるユースあたりが、最重要人物であるナナリーが乗る馬に並走するのが普通なのだが、そのポジションにユースを押し上げると、不得手の問題であまりよろしくない。

 気まぐれに速度を変えることもあるニトロの馬に、ユースは逐一自分の馬の速度を調整するよう、命じなければならなくなるわけだ。

 恐らく長い道のりの中、そのうち馬への指示がわやくちゃになって、格好のつかない姿を見せかねない。


 さりげない言い草でユースにしんがりを頼んだアルミナは、自然とユースが一番やりやすい、簡単な位置取りに行けるよう促してくれたのである。

 これはユースの成長を促さねばならないシリカ、つまり最前列が苦手ならやめておいてもいいよとは言いにくい立場のシリカには出来ないことで、単に友人であるアルミナにしか言えないこと。

 何気ない親友の気遣いに助けられたユースは、胸の内で感謝を想いつつ、そろそろ苦手だった乗馬についても克服しなきゃいけないなぁとか、そんなことを考え始めていた。


「……う、うわ?」


 馬上で考え事なんかしているから、手綱を握る手の力加減が少々狂い、そうした些細な変化にも、よく調教された馬は反応する。

 緩めすぎた手綱により馬が加速して、慌ててユースは減速を命じる手綱を引き絞るが、今度は強すぎ。

 馬は減速してくれたが、くわくわと引かれる力に頭を上げて、少々の苛立ちを露にする。

 こうした馬の態度にもそうだが、加えて今の走りの乱れで、やばい前との差が開きすぎるかも、と、焦りを感じ始めたユースは、さっそく馬の走りがちぐはぐになってきた。


 馬を操るに徹さない、ルザニアの背中にしがみついているアルミナは、ちらちらと後ろを見るにつけ、あぁまたパニクってるなぁと心配していたものである。

 頑張れ~、って言ってあげたいけど、言ったら男の子のプライドを傷つけるかなとも考えて、敢えて何も言わずに見守るのみ。

 自分の馬を操り、ニトロの馬と綺麗に並走しながらでも、後ろを振り向いてユースを確かめる余裕のあるシリカも似たような態度を選択している。


「あいつあんなに強いのに、苦手なことだってあるんですね」

「空回り癖がちょっときつくてですね……もっと自信を持ってやれば、変わると思うんですが」


 並走するシリカがちらちらと後ろを振り向く姿には、ニトロも色々と察せよう。

 シリカもユースの欠点を隠さず、しかし立てて、しみじみじれったい後輩を見守る先輩の表情で、ニトロの世間話に返答を返していた。


 乗馬に必要な技術自体は、ユースにもちゃんと備わっている。

 ただ、考えすぎる、悩みすぎる、そういう性格からふとした時に、現在進行形でつまづき得るのがユースの悪い癖。それが乗馬にもよく現れる。

 逆に例えば凄く急ぐ時、一心不乱に馬を加速させる時なんかは、何も考えずにやるから平然と上手くいくのに、今はあんな有り様なのがいい証拠である。


 自信が持てなくなるような育て方をしちゃったのかな、なんて、今になってから悔いかけるシリカだが、それは過去にユースへのあたりがきつ過ぎた彼女という意味では半分正解、しかし半分は正解ではない。

 どうせユースはどう育てようがああいう子である。向上心を持たなきゃ、っていう意識が過剰に強い人間は、ついつい余計な考え事が多くなって、空回りすることも多いという一例に漏れていない。


 細かいことを気にしない無頓着さは、人によっては、であるものの、多少あってもよかったりするものだ。

 根っから真面目のユースの性格は、彼の魅力ではあるけれど、時々それが彼の足を引っ張るのである。

 案外彼が学ぶべきは、騎士としてのあれこれやらより、その辺りの折り合いのつけ方なのかもしれない。











「――というわけで、シェバの町に先行哨戒していた兵団には、種明かしの急使を遣わしてやってくれ。

 ならびに状況が状況ゆえ、入念な哨戒と頑とした警備力は怠らぬように、との命も添えてな」

「かしこまりました」


 さて、ナナリー達が出発した後のセプトリア城では、王様代理にも近い留守居役のハルマが早速の仕事である。

 とりあえず急ぐ用件だけ、ナナリーらの出発から時間差を設けて解決し、後は普段ナナリーがやっているような仕事を片付けていくのみ。

 さて、謁見の間にでも赴くか、と一息つくハルマだが、その前に気になる気配が一つ。


「イリス様~? どうなされました~?」

「ひゃいっ!?」


 ハルマのことを後方の柱の陰から、覗き込むようにして見つめていた少女に、ハルマは振り向きもせずに呼びかける。

 バレてる、とびっくりしたニトロの妹さんは、おずおず柱の陰から姿を現して、ここでようやく振り向いたハルマに近付いてくる。


「す、すみません、あの……」

「いいんですよ、あなたのようなお美しい方の目に叶う私であるなら、それは誇らしい限りです」

「お美し……っ!? いっ、いえ、そんな、勿体ないお言葉っ……!」


 可愛らしくはにかんでいたイリスの頭をハルマが撫でれば、途端に顔を真っ赤にしたイリスがスカートをぎゅうと握り締め、うつむいて何も言えなくなってしまう。

 城内の者みんな知っていることだが、ここまでわかりやすい乙女心もあるまい。


 まあまあ、こんな所で立ち話もなんですし、とハルマが促して歩き出せば、イリスもその横についてしゃなしゃなと歩くばかり。

 行く方向は謁見の間であり、その辿り着くまでの長くない時間だけでも、ハルマと一緒にいられるからイリスは幸せそう。乙女まっしぐら。


「不思議ですか?」

「あ、はい……なんだか、聞いていた話とは違うようで……」

「先日、城を出られたナナリー様に刺客を差し向けられたかと、そう疑わしい一件がありましてね。

 今はちょっと、神経質にならざるを得ないんですよ」


 少し前、お忍びでフーリオ山地に向かったことの話なのだが、あくまでお忍びだったので詳しい説明は割愛だ。

 今回、ナナリーが魔法都市ダニームに行くということは、前回と違って本当かつ、公式に城内の者にも知らせた案件だが。


「というかイリス様は、どこまでご存知で?」

「ナナリー様はシェバの町を経由して、ネーヴィスの港町に至り、そこから海を越えて魔法都市ダニームへと赴くと聞いていましたが……

 護衛兵団を伴ってゆっくりと野道を進むのでは、襲撃を受ける可能性が高まるとして、護衛兵団はシェバの町へ先行し、ナナリー様は早馬でシェバの町に向かわれる、とも」


「ふむ、成功。イリス様までがそこまで詳しくご存知なら、早めにそう言い広めた甲斐がありましたよ」

「どういうことですか?」

「それは真っ赤な嘘情報です。身内も山ほど騙してまして、ちょっと悪いとは思ってますがね」

「ふぇ?」


 ハルマはどうやら情報工作していたようだ。策謀脳に慣れのないイリスは、目が点になっている。


「少し前、ナナリー様が魔法都市ダニームに赴こうとして中断された際(実際にはフーリオ山地に行っていた時の話)、まるで事前に何者かがその情報を掌握し、ナナリー様に刺客を差し向けたと思しき事案がありました。

 ナナリー様は現在特に、いつどこで命を狙われるかわからない立場である、と警戒を強めるべき時期です。

 ですので私は、ナナリー様の魔法都市ダニームへと向かう嘘の道のりを、敢えて広く公表したわけです」


「ええと、つまり……ナナリー様がシェバの町に向かうというのは全くの嘘で、それは良からぬことを考える輩の目を欺くため、ということですか?」

「ご理解が早くて助かります。

 結構大掛かりですよ、それに信憑性を持たせるため、それなりの頭数の護衛兵団までシェバの町に派兵しているわけですから」


 要するに、その兵団までもが騙されている形である。

 敵を欺くにはまず味方から、という言葉も確かにあるが、女王様の護衛任務を預かるとして緊張していたり、張り切っていた兵にとっては、ちょっと寂しい肩透かしを得る話でもある。

 もっとも、状況が状況なため、そちら兵団も真相と意図を知ればすんなり納得してくれそうだが。セプトリアの兵士様は、けっこう話のわかる人が多い。


「本当のルートは、ハフトの都を経由して、ネーヴィスの港へ向かうというものでしてね」

「あ、全然違う方角」

「エレム王国騎士団の皆様という護衛を添え、早馬でハフトの都へと赴き、一晩過ごして朝になればまた早馬、それでさっさと海越えという迅速旅行ですよ。

 良からぬ連中が画策と準備を積んでからナナリー様を襲撃するのはまず無理な速度ですし、そいつらがあらかじめ得たと思っている、嘘の情報に躍らされて出遅れを踏むなら尚更です。

 まあまあ万全に、ナナリー様はやんごとなく魔法都市ダニームへと赴ける算段ですね」


「周到ですね……」

「最近は、フラックオース組の若頭どもも行方知れずですし、いまいち王都外にては予断を許されない状況が続きそうなんですよ。用心に越したことはありません」


 平和なセプトリア王国とて、やはり唯一無二の女王様の保護には常々神経質。

 完全には表面化していないものの、うっすら黒い影の気配もする昨今、ハルマも特に神経を遣うようだ。


「ただ、ナナリー様が本当にシェバの町に行ったと騙されきった連中が、そちらでいもしないナナリー様の命を狙って、派手に騒ぐことあらば面倒ではありますね。

 ですので、シェバの町に向かった偽装兵団には、そうした騒動が起こった際に鎮圧するという任務がひっそりと与えられてもおります。

 騙して悪かったし、後でちょっとはボーナスでも弾んであげなきゃ駄目でしょうかね」

「あはは、そうですね。騙されっぱなしじゃ皆さん可哀想ですよ」

「やはりそうですな」


 シェバの町に向かった偽装兵団は、元はナナリーを襲撃しようとする輩がいれば、徹底抗戦するという任務を仮に預かっていたわけで、騙された悪党が空回った暴動を起こしたとしても、それを鎮圧するというのは本来預かっていた任務とさほど変わらない。

 騙された身内と言っても、仕事の内容が大きく変化するわけでもないから、変な遺恨は残らない。

 味方を騙す策謀というのはあまり多用すべきものでもないが、ハルマが今回こうした手筈を選んだのは、そうした側面もちゃんと意識してのことである。


 一方で、やっぱり騙してごめんねの慰謝料を配るぐらいのアフターケアはするわけで、それはそれで兵団の皆様には美味しい話でもあろう。

 別に損失を被る騙され方をしたわけでもあるまいし、しかもその上でちょっとした小遣いを頂けるなら、話のわかる大人はむしろまた騙して下さいねって笑うぐらいである。


 女王様の安否を最優先する以上、そのための策謀を練る際には、どこかにしわ寄せが行くこともあるのが本来。

 誰も損をせず、不快にさせず、それでいて回る策を完成させられるなら御の字というやつだ。

 ハルマはそうした点も含めて上手くやっている。


「あとは我々は、ナナリー様が不在の王都を守りつつ、お帰りになるのを待つだけですよ。

 不自由することと言えば、あの可愛らしい女王様を見れない日が続くことぐらいですかねぇ」

「……ハルマ様もやっぱり、ナナリー様みたいな可愛らしい女性がお好みですか?」


 ちょっとイリスの表情が曇った。

 ちっちゃくて可愛いナナリーと同じ姿にはなりようのないイリスは、ハルマの女性の好みがああであったらどうしようと、繊細にもすぐ不安になっている。


「ナナリー様は女王様としても女性としても魅力的ですが……好みの真ん中かと言えばまた別の話ですかね。私はむしろ、イリス様のように垢抜けぬ年頃の女性の方が好みかな」

「そ、そうですか……あ、いえ、そんな、まあ、光栄な……」


 軽いリップサービスでもすぐ顔を赤くして、イリスは表情筋をふにゃふにゃにさせてしまう。

 ハルマに告白する勇気が無くて、秘めた恋心を大事にしまい込んでいるつもりのようだが、悲しいかな当のハルマにすらバレバレなので、あんまり隠している意味がない。

 秘めることこそ恋に大きな意味を持つという言葉も確かにあるけれど。


 謁見の間に向かうハルマに、用もないくせにぴったりついてくるイリスを、ハルマは可愛い妹を見守るような表情で見返していた。

 両親に先立たれたことはニトロの不幸だが、こんな可愛らしい妹に恵まれていることは、あいつにとっては幸せなことだな、なんて思いながらである。

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