第30話 ~ナナリーとハルマ~
静かな夜、空も晴れている。
まだ肌寒さの残る初春の空を見上げれば、形のくっきりした三日月が邪魔者無く見上げられる。
セプトリア城の屋上にて、端から人が落ちぬように備えられた低い柵に体を預け、ただ一人で天を仰ぐ女の子。
その目に憂いと疲れを宿した彼女は、柵の上に止まっていた小さな雀のような夜鳥に指を差し出し、鳥は彼女の指に止まる。
微笑んだ彼女が見送られるようにして空へ飛び立つ小さな鳥を、少女のような風貌のセプトリア女王は、眺めるように見上げていた。
「ナナリー様」
「……ん、ハルマか」
「あまりこのような時間に外へ出るものではありませんよ。冷えては、お体に障ります」
一人、孤独な城上にて物思いに耽っていたナナリーを一人でなくしたのは、何かを察してここへ足を運んだハルマである。
もう、街の子供はベッドにて眠り、大人が少し夜更かししているような時間帯。
本来ならばナナリーも、睡眠不足の日々を補うためにも床に着くような頃合いなのに、眠るどころかこんな場所で空を見上げる主君には、笑顔で近付きながらもハルマの想いは案じる一色だ。
「お悩み事ですか?」
「それは尽きぬ。言い出すときりがない」
「愚問でしたね。特に憂いていることがおありですか、と改めましょう」
やや重たい返事がナナリーから発せられたが、笑いながらの返答だったので、きつく何かを思い詰めているわけではないという含みもある。
ハルマはそうしたニュアンスを受け取って軽い声だが、夜に風に当たって悩ましげな女王様を放っておくことはせず、少しでもその悩みを共有しようとかかる。
「……また、なのじゃ」
「またですか? 最近多い……いや、多すぎますね」
「身内を疑うようなことはしたくないが……意識せねばならぬのかのう」
心労を匂わせぬよう努めていたナナリーの表情も、口にした途端に明確に曇る。
ここしばらく、ナナリーを悩ませている案件の一つはハルマも知るところであり、この件に関しては彼も、ずっと訝しげな顔を貫いている。
「一度、お部屋に戻りましょう。詳しい話はそちらにて。軽く話す程度のことではありませんからな」
「うむ」
体を冷やされぬよう、というのと、大事な話は腰を据えてお話致しましょう、という、二つの意味を含むハルマの提案だ。
ナナリーもそれに同意し、二人は屋上を去り、謁見の間へと向かっていく。
ナナリーの自室に踏み入ることが許されているのは、ニトロと特別限られた女中のみだ。
二人の対談は、概ね謁見の間にて行なわれる。
「すまんのう、書類でも渡せば話は早いのじゃが」
「結構ですよ、口伝えのみで。細かい部分は明日にでも補足しておきます」
謁見の間に来た割には、ナナリーはハルマを見上げる形ででも立ち話。
女王様が玉座にお座りになり、ハルマが跪いてお話を聞く、そんな両者でもよかろうところ、そうしないのはナナリーの性格ゆえ。
誰彼かまわずこうして接するわけではないが、ハルマを親しく置くナナリーは、ハルマと主従の関係を強調する目線を作るのを好まないようだ。ニトロが相手でも同様に。
「租税と関税じゃな、今回は。また足りん、どう考えても計算が合わん」
「どこぞの輩がちょろまかしているということなんでしょうかねぇ。
私達も毎月調査を重ねているのですが、どこに調書を取っても辻褄は合いますよ。
何かの間違い、というのが、調査結果の語るところなのです、が」
「妾だって誤算はしとらん……ニトロにも付き添って貰うて、検算だってちゃんと……」
「存じています。このようなことが初めてあってから、何月経っておりますか。
ナナリー様も、己の算出の誤りでないことは何度も何度もお確かめになっているはずと察していますよ」
王政の最高指導者として、ナナリーはセプトリア王国の経済の動きを総括した書類にも当然目を通している。
特に国営の財務にまつわる書文に関しては慎重で、総じて毎月膨大な量が生じる書類も確認し、問題なしと女王自ら判を押して先に進む使命を、王たる彼女は背負っている。
加えて税金がどうであったとか、王政絡みの流通資金などの流れも同様。
ちゃんと毎月、決算の月末から翌月の決算までに、山積み書類を宿題の如く処理しているのがナナリーだ。
他にも仕事は沢山あるのに、それをきっちりやり遂げるナナリーは、寝不足になることも常々多い。
しかしここ近年、書類に纏められた金銭流通額と、実在する国庫との計算が合わない案件が多いのだ。
早い話が税金やら、あるいは国単位で他国に支払ったお金やら、支出が妙に少なく計算されている。
例えるなら、書面上は100を支払っていることになっているが、実際には国庫からは200失われている、という、明確な差が生じているということ。
実際の損失額は例えで言う数字ほど小さくなく、しかもそれが毎月、断続的に生じている以上、発生しているマイナスは累積してそれなりの大きさになっている。
結論を言うと、何者かが、国庫を扱うにあたって何らかの工作をはたらき、セプトリア王国の国庫から金銭を横領している疑いが、極めて強いということだ。
金の流れは人と人、商人と商会、商会と国家、自国と他国など、あらゆる場所で人づてになるため、それら個々の流れの中では、多少の工作をはたらいても表面化しづらい。
しかし、そうした小細工が隠蔽しきれぬよう、ちゃんと金の流れは全て記録されているのだ。
あらゆる場所の経済的流動を纏め、ぴんからきりまで全部の金の流れを記録したものが、やがて王女ナナリーの元に届くわけで、それを通せば最小単位レベルで誤算は発覚させられる。
怠慢せずに、きっちり書類すべてに目を通すナナリーだから、些細には見落とし得る悪意の気配にもきっちり気付いている。
だが、それをもとに流通を辿っても、真にどこで金の流れがおかしくなったのかが、見事にどこかで断たれて発覚しない。
長く続いている、国庫からの横領案件の真相究明には、ハルマを一員とする捜査班も動いているのだが、これは未だに結果が出ていない。
「……なあ、ハルマ。こうなってくると、調査班であるぬしらにも、疑いをかけねばならなくなってくる」
「でしょうね。勿論、我々がそんなことをしているはずがないとは訴えますが、結果を出せねばそう言われるのも然るべき判断です」
「じゃから、な? 妾は、ぬしらのこと……」
「皆まで仰らないで下さいませ。ナナリー様の信を裏切らぬためにも、我々が結果を出さねばならぬのです。
それが我々のお仕事です。必ず悪の根源まで辿り着き、身の潔白を証明してみせますよ」
絶対に、どこかで金が横抜きされている事実だけが露呈しているのに、それがどこで起こっているのかをハルマ達は見つけられていない。
報告するのは、"どこにも異常は無い"、のみ。
これがいつまでも続くようであれば、その調査班が真相そのものを隠蔽する側であると嫌疑をかけられるのも世の常である。
個人的にハルマを疑ったりしたくないとはナナリーの顔にも書いてあるが、それを女王の立場から快く叶えるためには、ハルマが結果を出すしかないというのも事実なのだ。
「しかし、それは引き続きぬしらに任せるとして……正味の損失額も、これまでを総合すると馬鹿にならぬな」
「それでも赤にならぬよう回っているのは、偏にナナリー様の政治力によるところですよ。
他国の皆様の間でも、賢王ナナリーの名が広く定着し始めている程度には、畏れ多くもナナリー様は実によくこの国をお支え下さっている」
「じゃが、このようなことが続くようでは、いつか不測の自体一つで国政が揺らぐぞ」
「そうですね……」
セプトリア王国は富国ではないが、名君の治める国家としての評価は、近隣諸国の間でも非常に高い。
決して豊かでない資源から金銭を生み、農作物の生産を安定させ、国民の生活を安定させ、小国を回すには充分な資金を生み出す。
その資金と税金との兼ね合いで、やがて高齢になって労働が苦しくなった国民にも、月々に纏まったお金を支給するという福祉も叶えている。
このシステムは、事のほか余所の大国、富国でも上手に実現させられていない政策だ。
最近、ユース達の祖国であるエレム王国も、このシステムを見習って実現させようと下地を組んでいるが、実際にそれを施行させられるのは十数年後か、もう少しかかると言われている。
一国を回すための経済力を維持するだけでもそう簡単なことではないのに、それを叶えるに留まらず、余剰財を民の福祉に回すほどの器と手腕を持つナナリーが、女王として評価が高いのは当然だ。
先代国王から引き継いだノウハウを活かしている部分はあるとは言っても、17歳でそれを形にして、前王存命の時代と変わらず安定した政治を為すナナリーは、百年に一度の才女、あるいは賢王と呼ばれて久しい。
世の中には、見た目は9歳幼女、実年齢は60歳の、世界的にも名高い大魔法使い様がいたりもするのだが、何歳になっても風貌の幼いナナリーもまた、そうした稀有の天才になぞらえて、異質なる才女と呼ばれている。
「妾が危惧しておるのは、そうして持ち出された資金が何に使われておるかじゃ。
もはやそろそろ、一兵団……具体的には旅団か師団ほどは作って維持できるほどの資金は流出しておろう」
「返す言葉もございません」
「いや、個人的にはきつく責める気持ちはないんじゃが……立場上、やはり早うに解決して貰えねばならんのでな」
「存じています。流出した大金を、悪党がどのように用いるか知れぬこの状況は、国家存亡の危機と例えても決して過言ではありません」
纏まった大きな金があれば何だって出来る。
人を雇える、武器を買える。駒を作ってその実用性を高めることも出来る。
組織を作り上げるほどの金があれば、それなりの大きな悪事もはたらけよう。
ほんの少し前に、ナナリー暗殺のために魔物が放たれたかと思しき局面もあったのだ。
ハルマの言うとおり、現状で大金が何者かに横領されている事実には、王国の未来をも左右する凶兆を感じられて当然である。
「……ちなみにハルマ。アルバーシティの例の連中に、その金が流れておったということは無いな?」
「それは私も真っ先に思いましたから、あの解決後にフラックオース組にも、チャハル商会をはじめとする関わりのあった組織にも調査を入れましたよ。結果はシロでしたが」
「そうか……こちらの案件も芋づる式に解決すれば、話は早かったんじゃがな」
つい最近、女の人攫いを繰り返していたアルバーシティの連中に関しても、もしかしたらこういった案件に関わりがあるのでは、という疑念はあった。
残念ながら、無関係だったようだが。あれを解決したついでに、こちらの件も一緒に前進すればという儚い希望はあったのだが、世の中そう都合よくは出来ていないご様子。
「被害者の女性らは、今は王都に?」
「逆恨みしたアルバーシティの連中に闇討ちでもされてはあまりにも哀れですからね。あまり金をかけたくない時勢ではありますが、ここはそうさせて頂きました」
「よいよい、妥当な判断じゃ、妾も肯定する。
場合によってはと、魔法都市ダニームとも話は進めておるのじゃろ?」
「新天地としてね。よろしければ是非、と向こうも仰ってくれています」
あんなことがあった直後だから、人攫いの被害者となった女性らは、これから住むところに困っている。
完全根絶できたかわからない、フラックオース組と関わりのあった連中がいるかもしれない、アルバーシティに帰るのはリスクが高いし、想定するだけするならば、ここセプトリア王都も微妙なところ。
何せフラックオース組の頭目を処刑同然に追い込んだわけだから、逆恨みした連中が暴徒化して王都に襲来する、というのも想定済み。
ゆえに最近は、以前よりも王都の警備がちょっと神経質になったりもしているが。
当面、哀れな被害者の女性らにとって一番安全な場所とは、突き詰めれば他国になる。
魔法都市ダニームという、セプトリア王国とは懇ろの大きな街が、海を隔てた場所にあり、そことの話を進めているハルマの甲斐あって、ことの次第では彼女らをそちらに引き取って貰える道も作っている。
後は被害者の女性らとも要相談、という程度の話である。
「被害者の女性らはどう言うておる?」
「数名はダニームへの移住に前向きですよ。行くとしても、とりあえずは刑の執行のために、まだもう少し滞在して貰うつもりですが。ちなみに彼女らも、これに関しては前向き」
「刑?」
「ああ、彼女らの誘拐に携わった連中は、みんなこっちまで強制連行して"磔車の刑"にしてるんですよ」
「あー、なるほどな。ちと哀れにも感じるが因果応報じゃのう……」
磔車の刑とは、罪人をそういう装置に磔にする、対象は重罪人のみとする終身刑の一つである。
この刑の何が恐ろしいかって、その罪人を身動き取れないようにして、被害者を招くのだ。
後は被害者がこの罪人に、何をしようが勝手ということ。早い話が、復讐してどうぞという形を作るのだ。
攫われ、幽閉され、男どもに連日弄ばれた女性らの、犯人連中に対する恨み憎しみは相当に凄まじい。
自分達を好き勝手にした挙句、同じ被害者も用済みとなれば殺してきた犯人達が、身動き取れない姿で目の前に晒されたら、その憎悪が振り下ろす刃の凄まじさは相当なものである。
国の手で、処刑器具によって死刑にかけられるよりも、何倍もの苦しみと時間をかけて、恨みと憎しみを身動きとれずに受ける罪人らは、壮絶なまでの苦しみの末に死への道を辿る。
余程の罪科にしか適用されぬ刑だが、それだけのことを人攫いどもはやってきたのだ。
未来ある若い女性を攫い、幽閉し、慰み者を強要し、飽きれば捨てる、殺してしまう。万死に値する。
「女性ら、今は穏やかに過ごせているようですが、罪人の元に案内するたび、並々ならぬ憎しみを表にします。ひとまずまだ、好きなようにやらせてあげましょう。ダニームへの移住はその後で」
「そうじゃな」
復讐というものは本来肯定すべきものではないし、見方によっては残酷とも捉えられよう。
しかし生存した者達の中にだって、腕の骨を折られて長く放置されたために、それが一生使い物にならなくなった者だっている。
歯があると不都合だからって、折られて抜かれた者だっているのだ。
生きて救出されたとは言っても、心の傷が深いのは当然、身体的にも取り返しのつかない傷を負った者だっていて、その恨みは傍の者が、復讐なんてと正論を説くのも難しい。
決して国家も磔車を全面肯定するわけではないのだが、この辺りは兼ね合いが難しいところ。
好判断材料ではないが、こうした刑が実在することが、少々の犯罪抑止に一役買っているというのもまた、皮肉かつ人間社会の闇である。
「ところで、スマーティオじゃったか? あれの実子たるフラックオース組の若頭どもはどうしておる? もう身柄は確保できたか?」
「いえ、まだです。当面は、それも急ぐ任務の一つなんですがね」
「一筋縄ではいかんか。まあ、そちらも性急にな」
「はい」
仕事が山積み。ナナリーも大変だが、ハルマも仕事がいっぱいである。
若くして女王様の側近を務めるハルマだが、地位には相応の使命がついて回るものだ。
それだけの仕事を預かれること自体が、いかにハルマが信頼されているかの裏返しでもあり、それを光栄として多忙にも臨めるハルマだから、その噛み合わせは上手くいっている。
信頼される働き者がいると、やはり組織は上手く回るのだ。
名君と称されるナナリーだが、多くの人に支えられて国政を回していられるのだという自覚は彼女にもあり、だからこそナナリーもハルマとの立ち話を好むのかもしれない。
「……ところで、ハルマ」
「はい、何でしょう?」
「前々から少し思っておったが、やはり妾もそろそろ一度は、魔法都市ダニームに赴いておくべきかのう。
ほれ、人を受け入れて貰うわけじゃろう? 挨拶の一度ぐらいは、しておかんといかんのじゃないかな」
先ほど名の出た、人攫いの被害者の女性らの受け入れ先として有力な、魔法都市ダニーム。
移住や引越しは厳格なものではないが、今回はきっかけがきっかけなだけあって、国単位でダニームという街にそれを依頼し、引き受けて貰う形である。
となると、女王たるナナリー辺りが一度はご挨拶に伺うのも、あってもいいのではとナナリーは言っている。
「ふむ……それは確かにそうかもしれませんが」
「が、何じゃ?」
「いや、別に。失敬なことしか申し上げられませんし」
「わーっとるわい。でも、そういう打算は無いぞ」
「ナナリー様はエルアーティ様のことが大好きですからねぇ。
いや、今回はそうではないというのは重々わかっておりますよ」
魔法都市ダニームという場所には、ナナリーと同じで、何歳になっても見た目の幼い賢者様がいる。
エルアーティの名で知られる彼女は、世界的にも有名な魔法学者であり大魔法使いであり、ナナリーは彼女のことをかなり強く尊敬している。
少々性格に難のある賢者様なのだが、向こうもナナリーのことは気に入っていて、友人と称しているだけあり、手厚く、優しくナナリーには接してくれるのである。
余談だが、一国の女王様を、一介の魔法使いでありながら友人と称するほどには、大胆で不敵で大物。
そんなエルアーティ様のことが大好きなナナリーだから、彼女のいる魔法都市ダニームに遊びに行きたいとは常々言っていたりもする。
仕事が忙しいし、なかなか叶わないし、ナナリーも実現は無いと割り切った上で吹いているわけだが、機会があるならエルアーティ様に会いたいと常々思っているのは本当。
そんなわけでこういう時、機会に乗じて遊びに行きたいんでしょとからかうのは、友達レベルの冗談なら普通に言えるレベルである。主君は友達じゃないので、ハルマは控えめに言うのみに留めるが。
「……予定は組めるかの」
「いいと思いますよ。ナナリー様のご希望も叶いますが、政治的にも必要なことでありましょう。
魔法都市ダニームとの関係は良きものとしておきたいですし、悪い手ではありません」
「そうか。うむうむ、仕事じゃから仕方ないのう♪」
普通に嬉しそうなナナリーである。
誤解が無いよう言っておくと、ナナリーも私情で長々と離れることはしないし、今回の提案はあくまで政治的な遠出として提案している。
先々月、お忍びで雪山に行ったのだって、実は私情をちょっと超えて意味のある行動だったのだ。
明け透けに行くと気まずいのでお忍びとしたが、あれも年に一度だけの、ナナリーにとっては特別な意味のある出立だったのである。
それでも、尊敬するお友達に会えるのは嬉しい。今から既に嬉しそう。
隠しきれない辺りはまだまだ幼い。見た目は十歳未満、実年齢はそれ以上とはいえ、まだ17歳である。
それぐらいの垢抜けなさは、女王とて人として、あっても悪い話ではあるまい。
「一応、一週間後に出発と計画を組みましょうか。そのとおりと行くかはわかりませんが。
慎重に、内密に計画したいですしね。フーリオ山地の一件もありますし、用心に越したことはない」
「うむ、その辺りの運びはおぬしに一任しよう。また仕事が増えるが、構わんかの?」
「問題ありません。やり甲斐がありますよ」
雪山で、魔物を差し向けられた可能性があったため、今回も王都を離れたナナリーの安全面を確保することは最重要事項となる。
良からぬことを企てる者達に、ナナリーの旅中を辿られぬよう、極秘裏に進めるべきこともあろう。
魔法都市ダニームはやや遠い。事は、慎重に運ぶべきだ。
「いつも世話になるな、ハルマ。これからも、至らぬ妾を支えてやってくれい」
「勿体ないお言葉です」
良い主従関係である。
双方有能だが、それでいて互いが強く信頼し合うからこそ、その合力がセプトリア王国を力強く支えている。
有能な駒だけがいくらあっても、力を合わせきらねば存外、大きなことは出来ないのだ。
それを真の意味で知っているかどうかも、その人物の器を計る要素である。




