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泣き虫

あの冬から二度目の春を迎え、私は8才になった。暮らしぶりに特に変化はなく、日々稽古やお茶会に参加する平穏な毎日を送っている。


「オリヴィア、話聞いてる?」


ああ、そういえば、あれからアル様とちょっと仲良くなった。アル様の見張りという名の文通は現在も継続中で、月に一、二回はこうして王宮に呼び出されている。


「ごめんなさい。聞いてませんでした」


隣を歩いていたアル様がため息を吐く。だって庭園のお花が満開でいつも以上に素敵なんだもの。あら、このいい香りのお花は何?少し摘んで帰っては駄目かしら。またしてもお花に夢中になりそうになるとアル様に腕を引っ張られてその隣を強制的に歩かされる。無理矢理なのにまわりからは優雅にエスコートしているように見えるあたりアル様も外面王子の仮面に年々磨きをかけている。


「だから、バーニーが今日来てるから紹介するって言ったんだ」


「ああ、前にお手紙で言っていた子?」


バーニーと言われて思い当たったのはアル様からのお手紙。なんでもアル様の剣術の先生の息子さんで、最近練習相手として一緒にお稽古をしているらしい。手紙の文面を読んでいる限り、お友達の少ないアル様が珍しく心を開いているようだ。

そして手紙を読みながらまたしても昔の記憶が蘇った。確か、ゲームに出てくる騎士の名前がバーニーだった気がする。そのキャラは若くして英雄だなんて持てはやされている勇敢で優しい騎士様なんだとか。あんまり覚えてないんだけど、アル様と仲良しで将来騎士になる確率が高そうなのでその子がゲームのバーニーに間違いない筈だ。

アル様以来のゲームキャラの登場に、ここがゲームの世界なんだって再認識させられたけど、未だに自分がライバルキャラだという自覚がなくてどうも現実味を感じない。


「バーニーにもオリヴィアのこと話してるから、素で居てくれていいよ」


「素って…」


まるで私が猫を被っているかのような言い方。確かに最近はお母様とカミーラの厳しい教育のおかげで人前では公爵令嬢らしく振舞っているけれど猫を被っているつもりはないぞ。一体私の何を話したんだ。


「見えて来た。あいつがバーニーだよ」


アル様に連れて来られたそこは中庭の一画に設けられた石畳の開けた場所だった。修練場というには綺麗すぎるけど、アル様がいつも剣の練習をしている場所だ。そこに小さな少年が立っていた。赤茶色の短い髪で、うるうるした緑色の瞳からは緊張しているのが見て取れる。

私達が近づくと屈んで拙い騎士の礼をとった。


「お、お初にお目にかかります、オリヴィア様。バーニー・クレメントの息子、バーニー・クレメント・Jrです」


「オリヴィア・グレースです。堅苦しいの止めましょ。さ、立ってくださいな」


立ち上がらせて改めて近くで見ると本当に小さい。一つ年下と聞いていたけど、私より頭一個くらい低いんじゃなかろうか。ちなみにアル様は同い年で身長もほぼ一緒だけど若干私の方が高い。仕方ないよね、この年の女の子は成長早いし。


「バーニー、前に言っただろ。オリヴィアは雪を投げつけたり裸足で木登りするような女だ。そんなに畏まらなくていい」


「アル様!それは皆には内緒って言いましたのに!」


なんでよりにもよってそういう話をしているんだ!そんな簡単に秘密を言ってしまうんならアル様が泣いた話もバラしてやる。あ、でもそれ言ったら没落させられちゃうんだった。


「で、でも、そんな風にはとても、見えないです」


チラチラと遠慮気味に私の顔を見ながらそう言うバーニー。そうでしょ、そうでしょ。これでも黙っていればお淑やかなお嬢様なんだから。機嫌を良くして微笑みかければバーニーは頬を赤くして目を逸らした。ふふ、可愛いー。


「バーニー、剣を持って来ているか?」


「あ、はい」


「ではせっかくだから手合わせしよう」


アル様はそう言って腰に差していた練習用の剣を抜いた。バーニーも慌てて端に置いていた剣を取りに行く。


「え、アル様、私は何をしていれば?」


「そこで見ていればいいだろ」


えー、そりゃないよ。わざわざ王宮まで呼び出しておいて稽古の見学って。いや、今までにも何度かこんな事あったけどさ、アル様いくらなんでも私に気を使わなすぎじゃないかなぁ。

アル様に憤りを感じつつ仕方なく剣の手合わせを始める二人から少し距離を取った。剣のぶつかり合う音が中庭に響く。剣なんて興味ないから上手いのか下手なのかよくわかんない。アル様が優勢っぽいけど、あの体格でほぼ互角に渡り合ってるバーニーの方が実は凄いのかなぁ。

さっきと打って変わって真剣な表情のバーニーを眺める。それにしても、なんか予想と違ってたな。勇敢な騎士ってゆうからもっと精悍な少年をイメージしていたんだけど、実物は小さくて常におどおどしててなんか小動物っぽい。あの子が英雄になんてなれるのかしら。


「あっ」


ぼーっと考え事をしていたら突然アル様の声と剣が落ちる音が聞こえた。急いで意識を向けるとそこには剣を落としたアル様と目をおっきくしてアル様の手元を見ているバーニー。一体何事?不自然な二人に近づきアル様の手元を覗くと手の甲に一筋の赤い線が出来ていた。


「あら、血が」


練習用の剣だから切れてはいないけどみみず腫れのようになったところから血が滲んでいた。大した怪我ではなさそうだ。


「痛いですか?」


「全然」


そりゃそうだろうな。こんなの子供だったらしょっちゅう作る怪我だ。でも相手は王子様なのでとりあえずポケットに入れていたハンカチで傷口を抑えてやる。

すると今度はバーニーの剣が落ちる音が聞こえた。その顔はまるで死に直面したかのような絶望的な顔だ。


「お、王子様に、け、怪我を…」


「バーニー、気にするな。たいした怪我じゃない」


「も、申し訳ございません!僕が、下手くそな、ヒック、ば、ばかりにぃ」


「あ、泣いた」


バーニーは謝ったかと思えばしゃがみこんで泣き出した。これって泣くほどのこと?アル様に目を向けると呆れたようにため息を吐いた。その様子じゃよくある事のようだ。なんだか勇敢な騎士像がどんどん崩れていく。


「このくらいの事で泣くなバーニー。クレメント先生にまた怒られるぞ」


「ヒック、ウッ、で、でもぉ」


体育座りで泣き続けるバーニーを見ていたら妹がいた身としては放っておけなくなった。ハンカチをそのままアル様に渡しバーニーに近づく。膝をついて頭を撫でてやればビクリと震えた。


「ほら、もう泣かないの。あなたは勇敢な騎士になるのだから、これくらいで泣いてはダメよ」


「ゆ、ゆうかんな、きしなんて、な、なれないよぉ」


「そんなことないわ。その泣き虫を治せばきっとなれる!私を信じて」


恐る恐る私と目を合わせるバーニーににっこりと微笑む。ハンカチはアル様に貸してるから指で涙を拭ってやる。ああ、なんかデジャブ。前にも誰かさんの涙を拭ってあげた気がする。

なんとか涙を止めたバーニーはしゃくりを上げながら立ち上がった。


「泣いてしまって、すみませんでした」


「まったく。傷なんて気にしていたら剣の練習が出来ないだろ。オリヴィアの言うとおり、その泣き癖を早く治してくれ」


「はい」


ただでさえも小さいのに赤くなりさらに縮こまるバーニー。まだまだ騎士様より小動物だな。


「頑張ってね、ウサちゃん」


「「は?」」


だって、バニーちゃんだしね。ぴったりのあだ名。アル様の「クレメント先生もバーニーなんだから止めてくれ…」なんて声が聞こえたけど無視無視。親子で同じ名前にするのが悪い。

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