日付
それから、何度か平日やカフェに通うようになった。
通うようになってから、ないと思っていたお店の看板が煉瓦の壁に生えた蔦植物で隠れていたこたとに気づいた。お店の名前が清月であることもその時知った。
大きな通りから一本外れた、裏道にある清月は、満員になるということはなかったが、閑古鳥が鳴いてるというほどでもなかった。
まるで真夏のように暑いゴールデンウイーク前の四月の後半になると、お店の前に行くと白いペンキが置いてあった。
それを見て、里子は最近忘れていた白い自転車を思い出した。
一度も欠かすことなくカゴは花で埋められており、中にはフラワーアレンジメントに適してるとも思えない菊やたんぽぽまで刺さっていて、嵐の日でも店内に仕舞われることはなかった。
「そういえば、お店の前の自転車のサドルに日付が書いてありますけど、開店記念日か何かですか?」
一度気づくと気になるもので、里子はよくカゴをのぞき込むことが増えた。
いつも色々な花が差してあり、時には大人から子供までに人気のある有名な猫のキャラクターの縫いぐるみが置いてあることもあった。
そのことが気になって、里子は注文したケーキとコーヒーのセットを待っている間に店主に聞いてみた。
「開店記念日ではないですけど、大切な日なんですよ。
忘れないようにね」
店主が嬉しそうな、でも困ったような顔をした。
聞かない方が良かったかもしれないと里子は思って、それからは目の前でコーヒーが抽出されていくサイフォンへと話題を移した。
アパートの集合ポストを開けるとハガキが入っていた。
「げっ」
ハガキを見て里子が嫌な顔をした。
「免許の更新かぁ…」
警察署に赴いて、興味もない交通安全のビデオを見せられるのかと思うと憂鬱になる。
免許証の写真もなぜかいつも悪人顔に写ってしまうので、それも憂鬱さに拍車をかけていた。
圧着式のハガキを開くと、二回目の講習なので最寄りの警察署でも更新免許の即日発行が可能になっているとのことだったが、講習の日程は平日だった。
「半休取らないとなぁ…」
定時で帰れて残業も滅多にない事務員の里子だ、半休を取ることに支障はなかった。
半休だと中途半端だから有給にして一日休めば?という総務部のお局様の一言で、丸一日休みを取ることができた。
講習で渡された資料の中には、市内で起きた死亡交通事故の紹介もあり、会社の近くでの事故も紹介されていた。黄色信号を見てアクセルを踏み込んだ車が、交叉点を曲がりきれず歩行者を轢いたらしい。
(こんな事故に巻き込まれたら一溜まりもないよね、会社の近くだし気を付けよう。)
講習が終わり、暫く待っていると新しい免許証が渡された。古いものはそのまま回収されて戻って来ないらしい。
今回からゴールドになって、少し嬉かったが写真写りは相変わらずイマイチだった。