カフェ
近くにお洒落なカフェがある。
煉瓦の壁と落ち着いた色の木製ドア、真っ白に塗られた自転車のかごにいつも沢山の花が飾られている。
何かの記念日なのか、サドルにはもう随分前の日付が書かれているのが印象的だった。
何度か、行ってみようと思ったことがある。
実際にお店のドアノブに手をかけたこともあったが、その時は店休日だったのか、押しても引いてもドアが開くことはなかったのだ。
「アレ、開いてる?」
閉じたドアしか見たことなかった里子は足を止めた。ドアは半開きにされており、エプロンを付けた若い男が店の前を箒ではわいていた。
「いらっしゃいませ」
男が里子に気づいて笑顔でいう。爽やかな好青年と言った風貌で、落ち着いた雰囲気の店構えからは少し予想外だ。
「…あれ? もしてして、お客さんじゃなかったですか?」
「えっと…今日は通りかかっただけなんですけど、せっかくなので入っていいですか?」
「もちろんですよ! いらっしゃいませ!」
店内は外装と同じように落ち着いた雰囲気だった。店員は男の一人だけのようで、すぐにおしぼりとメニューが出てきた。
「今日はってことは、もしかしたら以前にも着たことがありました?」
「いえ…、お店の前まで来たことはあったんですけど、お休みだったみたいで」
「そうだったんですね、すみません。
先日までお店を閉めてることが多かったので」
頼んだオムライスは美味しかった。最近はとろふわのオムライスのお店が多いが、ちゃんと卵でケチャップライスを巻いていて、とても懐かしい味だった。
また、オムライスを食べている途中に無遠慮にお店のドアが開き、「誠治!じいちゃん、まだなのか?」と老人が訪ねて来たりして里子を驚かせたりもした。
「元々、僕の祖父がやってたカフェなんですけど、腰を痛めて入院してしまっていて…」
誠治(という名前らしい)が、困ったように説明した。
来たのは近所の常連で、お店が開いていると決まっておじいさんの様態を聞きに来るらしい。
ビックリさせたからと、デザートをサービスしてもらった。