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002-巨大迷宮ディープギア -1-

 巨大迷宮ディープギアの浅層部は、東西南北の四ブロックからなる。


 四つのブロックをあわせれば一階分の面積でさえレドルゴーグ全体を越えるといわれているほどの広大さと深遠さを兼ね備えるダンジョンであり、東西南北のブロックは浅層部をほぼ四等分している。


「ディープギアが階の構造を変えるのは年に一回。暦の上で年があけてから三十五日経ってからだ。今はもう変化して半年たってるから浅層部の探索はぜんぶ終わってて、大きな脅威がないと複数の大手ギルドが保障してる。だから五階までは全部こんな調子だ」


 ジョージはロックに連れられ、ディープギア浅層部南ブロックに来ていた。現在は三階部分。どこも人でごったがえしているが、全員武器を振るうので各パーティーごとに一定の間隔を保って狩りにいそしんでいる。


「これだけ人が居ると狩場の奪い合いなんてそうそう起きない。そんなヤツらが一組でもいると次の標的になるのは自分たちになりかねないって皆知ってるから、そういうヤツらは袋叩きにあうんだ。だからこうやっておとなしく順番待ちをするか、空いてる所を探して遠くまで行かないといけない」


 ロックは初めてできた自分の後輩に先輩風を吹かせ意気込んでいた。相変わらず横柄な態度は気に入らなかったが、せっかく丁寧に説明してくれているのだからとジョージは甘んじてそれを受けている。それにロックの説明は、ランナよりも幾分か丁寧で、いちいち尋ねなくても色々な事を勝手に喋ってくれる。


「なんで五階までなのかというと、六階からは出現するモンスターが変わるからだ。一階から五階までは、えーっと――いた、あそこのジェリウムっていうプニプニしたモンスターだけが湧く」


 ロックが指差した先には、まさしく「湧く」という表現にふさわしく、ディープギアの床部分にびっしりと敷き詰められた歯車の間から、なめらかで粘度の高そうな液体のようなモノがぷくぷくと現れた。


 液体と固体の中間のようなそれは、床部分からおそらく核の部分であろう正八面体のブロックをぽよんと出すと、現れきった瞬間にどこかのパーティーに袋叩きにされ、核を覆っていた半固体の一部を残し煙を出して消えた。


「今落としたのがジェリウムゲル。単体でも金属接着剤に使われる事があるけど、ほとんどはアレを精製してジェリウムアルファという、より強力な接着剤の材料になる。たまに核の部分も落とす事があるらしくて、そっちはジェリタイトという宝石として取引されるらしい。相当なレアみたいで、オイラもまだ見たことないんだけどな」


 こうしてダンジョンに潜る前、二人を見送ったランナがジョージにだけ耳打ちして注意をした。ロックは無駄口が多い、と。確かに口数は多いが、今のところジョージにとって有益な情報しかなく、無駄ではないのでは? とジョージは思っていた。しかしすぐ考えを改めることになる。


「ちなみに一日にどのくらい――」

「五階からはゴブリンっていうキョー爺さんより背の低いおっさんみたいなモンスターが湧く。こいつらは刃物を持ってるので一気に危険度が上がる。新人講習が終わった後でも自信のないやつはもうしばらくこの辺でウロウロするから、六階からの人の数は一気に半分くらいまで下がる」


「なるほど……」


 ジョージが納得したのはロックの説明ではなく、ランナから受けた注意の内容へのものだった。本人はしっかりと教えているつもりがあるのかもしれないが、実際は単なる独りよがり、一方的に喋っているだけで対話をするつもりはないらしい。


 ちなみにジョージが尋ねようとしたのは、一日にジェリタイトが取引される量と、一日にディープダンジョンの一階から五階までへ訪れる人の数である。おそらく数千人規模は下らないだろうが、それらから逆算してジェリウムがジェリタイトを落とす確率を割り出そうとした。


「(まあ、あとで姐さんか、キョーリさんにでも聞くか。いや、流通の話ならマスターがいいのかな?)」


 適当に、帰ってからの算段を立てながら、まだベラベラとダンジョン喋っているロックの口を手でふさいで強引に黙らせる。


「ちなみに、ロックは何階まで潜った事があるんだ?」

「え? オイラ……?」


 ロックの目が泳ぐ。


「い……二十三階までいったが?」


 どうにも歯切れが悪く、目も泳いだままだ。ンッと違和感を噛み砕き、ロックが動揺している理由に予想を立てた。


「一人で、潜ったのは何階までだ?」

「………七階」


 ジョージは軽く苦笑しながらおおかたを察した。ロックが二十三階までだとりついたのは、誰か手馴れの潜窟者と同行した時の話なのだろう。周りを見る限りでもたった一人で行動している者はほとんど目に付かず、かといってパーティーを組んでいる者達が皆したしげかと言うとそうでもない。一期一会のいきあたりばったりで一時のパーティーを組むなどは、わりと普通の事であるのかもしれない。


 そこから更に踏み込んで考えるといろいろな事がわかる。なぜロックが一人で七階まで潜ったのか。単に挑戦したのなら答えるのは易いものだろうが、ためらいがちに言ったと言うコトはそうせざるを得なかったからだろう。原因も大体察しがついた。ランナが言った無駄口の多さ。戦場で集中力を欠いた者がどうなるかなどわかりきっている。その集中の妨げになる無駄口、また本人も喋る事にばかり気が行って周囲への注意を怠っている。一緒にパーティーを組むに当たって、自分の身も守れないヤツは荷物という。


「じゃあ、まずは六階まで一気に行こう」

「え、あ、うん……」


 ロックの顔が、見る見るうちに曇っていった。

 こんどはダンジョン紹介回ですね



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