012-攻略、中断! -6-
「というわけなので特定ギルド法とやらによる特別依頼を受けようと思う」
受注したクエストシートを見せながら駐在署に戻ると、こんどは受付にことわらずに会議室まで行くことができた。よくできた伝達網である。あるいは単純に受付が優秀なのだろうか。
「助かります。さっそくですが案がありまして」
「ほほう」
依頼を受ける旨を伝えると、アッパルはさっそく予定されている作戦を持ちかけてきた。
ジョージとしてはまず、今都市警察が集めている対象の情報をまとめて見せてもらうつもりだったのだが、請われてなったとはいえ所詮は臨時の雇われがいきなり現場のイニシアチブを取ることはできない。
「これは今はここにいない隊員の案なのですが……」
残念そうに、自分の発案ではないとことわりながらアッパルは作戦の概要を説明する。
大雑把に言えば偽の情報を流した上での囮作戦だ。
現在この駐在署内で拘留している三人のヒュールゲン強盗団構成員を三日後に裁判所へ護送するという誤情報を流す。
しかし三日後に護送するのは全くの別件で逮捕された詐欺師とその協力者の三人組で、護衛は通常通り行うが途中でわざと隙を作って護送中に襲撃するタイミングを与える。
「囮に本件とは無関係とはいえ実際の犯罪者を使う事も含め、危険ではありますが、返り討ちにできればヒュールゲン強盗団を一網打尽にできるかもしれない。と発案者は考えているようです。
私は、まあそこまで上手く行く事はまずないだろうなとは思っていますが、あと2~3人捕らえられれば御の字でしょう。そうでなくともいくらか手傷を負わせられれば今後の活動を抑制できるとも考えています。
こちらと違って、あちらは物資に余裕などないでしょうし、治癒の奇跡を扱える者がいるとは考えられません」
ジョージは、やはりここでも治癒の“奇跡”なのだな、と思いながら一通りの説明をひとまず飲み込んだ上で、疑問を述べる。
「いくつか質問と、場合によっては要求が」
「どうぞ」
「強盗団の構成員は13人、いまは3人捕まってるから10人のはず。都市で活動している強盗団のわりには人数は多い方だ。なのについこのあいだまで一人も捕まらなかったのはなぜ?」
グサリと核心を突くジョージに、今まで丁寧な態度を崩さず接してきたアッパルも渋い顔をする。
「それがその、奴らは現場からの逃走が非常に巧妙でして……」
会議室内の空気も若干張り詰めたものになるが、ジョージはさらに質問と要求を一つずつ追加する。
「そういう時は、逃がしてしまった隊員に報告書とか書かせてますか?」
「ええ、まあ、始末書という形ですが」
「状況を詳しく知りたいので、それを読ませていただきたい」
ジョージが決して都市警察の隊員を無能だなどと言いたいわけではないとわかったのだろう、空気は若干緩んだが隊員たちのジョージを見る目は、ついでにロックとアラシを見る目も少し変わってしまった。何人かは真面目に取り組もうとしてくれているのだなと好意的に捉えたが、ほとんどは剣呑さが加わったものである。
「ええと確かヒュールゲン関係の書類は……始末書も含めて対策本部内に保管しておいたと思うけど、どこだったかな」
と、どうやら書類の整理が上手くいっていないらしい。重ねられた紙の山を少し焦った様子でひっくり返しはじめたアッパルを、何人かの隊員が手伝いはじめる。
「あっ。ひとまずこれが三枚、いや四枚か」
ジョージはまさか彼らの手際がこれほど悪いとは思っていなかった。これでは彼らに本来の仕事をさせているうちに、自分たちでこの書類の山を漁った方が効率的だと思った。
「ああいや、やっぱりあとでいいです。それより今この会議室の中に直接連中とかちあって、なんだったら逃げる場面も見たという人は?」
意外な事に全員が手を上げる。
これは思ったよりも、手間がかかりそうだ。曖昧な愛想笑いを浮かべながらジョージはそう思った。
直接話しをして記憶を引き出す作業をジョージが担当し、ロックはその横でなるべく一言一句間違わないように紙に書き写す作業。
アラシは二人より一歩後ろでジョージとは違う視点で隊員の話を聞くように言いつけられたが、実際にはただ突っ立っているだけだった。
結局、ジョージが欲しいと思った詳しい状況をまとめるには日が落ちても続き、都市警察の勤務時間が過ぎたから、という理由で今日のところは打ち切りになる。
それでも、聞けば今日まとめられたまだ全体の半分ほどである。
いざ強盗団が事件を起こせばその対策に駆り出されるのはこの対策本部に所属する者たちだけではなく、場合によってはこの南区工場街第一駐在署だけでなく、他の地区の駐在署からも警官隊が送られて来るためだ。
「ま、でも、これ以上警察から話しを聞く必要はなさそうだな……」
ロックが書きまとめた紙を改めて読み直しながらジョージはつぶやく。文字を追う目には明らかに落胆があった。
それは彼らの証言が一律してほとんど役に立たなかったためだ。
「急に大量の煙を炊かれた。あるいは急に強い光が出てしばらく目が利かなかった。その間に連中は忽然と姿を消していた」
場所や、相手にしていた人数、囲んでいた人数などに違いはあるが、簡単にまとめると結局はそういう事になる。
「……では申し訳ないが、今日のわれわれの勤務時間は終わったので、先に帰らせてきただきます」
自分たちは仕事の時間が終わったというのに、一向に帰るそぶりを見せないジョージたちを見て、どこか申し訳なさそうな顔をしている警察官たち。彼らを代表してアッパルが帰宅間際の挨拶を述べたようだ。
「ああはい。えっと、アッパルさんたちが帰ったあと、俺らはどのくらいここに居てもいいんです?」
「いらっしゃりたければいくらでも。ただこれから夜勤の者たちが参りますが、彼らとは……いや、今日くらいは私が取り次ぎましょうか。
皆は先に帰っていい。私もどうせ居るだけで出動するような事にはならないだろうから」
アッパルがそう言うと他の警官たちはあっさりとうなずいてぞろぞろと帰って行ってしまった。
「え? 夜勤が居るんですか」
「はい、数は半分ほどになりますが」
今のやり取りから察するに、夜勤が到着する前に昼勤の者が全員帰ってしまうらしい。これは明らかに問題だろうとジョージは思った。
「引継ぎがちゃんとできてないから書類があっちこっちに行くわけだな……
この対策本部の総責任者は誰になってるんです?」
「総責任者ですか? 一応、ここの署長が責任者となっていますが」
「……署長が現場とか、この会議室まで来る事はあるんですか?」
「いやあ、めったにありませんが。なんでそんな事聞くんです?」
「……はあ」
認識の違いにジョージはめまいを覚えた。
一日中この場に詰める者を用意しろ、とまではいえないが、せめて昼勤と夜勤が交換する時間帯で、両方が同時にこの場に集まる時間を設けるべきである。でなければ、その日に起きた事を説明できず、高い確率で情報の伝えもらしが起きる。
その辺りをなんとか調整するのが現場責任者の役割だが、わざわざこの駐在署の最高責任者が現場責任者も兼任しているうえ、その責任者はめったに現れない。
これで現場が上手くまわるわけがない。むしろ現状を作り出せただけでも凄いと思ってしまうほどだ。少なくとも組織立った行動はできているわけだから。
また、どれほどの量の煙や光であったのかを直接見ていないために断言こそできないが、ちょっと目くらましをくらっただけで対象の姿を完全に見失うというのは、兵士としてあまりにも練度が低い。
こんな組織がレドルゴーグという都市ひとつの治安を守るための一大組織であるらしい。
「なんか、いろいろやる事が増えた気がする……」
ジョージはいっそう疲れた顔になった。
「あの? こちらからの依頼に熱心になっていただけるのはありがたいのですが、お疲れならば無理はしない方が……。お弟子さんたちも」
「いやいや」
疲れさせているのはお前たちなのだ、とはさすがに言えない。それに弟子二人も警察の捜査活動に協力するなど貴重な体験だとわかっているので帰りが遅くなる事は納得済み、むしろノリノリでここに居る。
「これは精神的な疲れでね。肉体的には全く元気なんでお気になさらず――」
弟子たちの事についても触れようとしたところで、何人かの警官が会議室に入ってきた。
「おや、アッパル殿、と、どなたですかな?」
まず問いかけてきたのは目つきの鋭いやせぎすの男だった。
「ローガス少尉。こんばんは。こちらは例のヒュールゲン強盗団を返り討ちにした方々です。ジョージ・ワシントンさん、ロック・ディアルさん、アラシ・イエートさん。彼らには特定ギルド法にのっとって捜査協力の依頼を発注し、受注していただきました」
「ああ、例の。ジョージさん、ロックさん、アラシさん、ですか。イエート…? まあ、よろしく」
こちらも語調こそ丁寧だが、抑揚の端々にジョージを見下しているような意識が見えた。といってもこれを感じ取れたのはジョージだけだっただろう。他は皆、イエートで引っかかった所に注目している。
「はい。ええと、それでこちらは私の同僚のローガス・ジェロル少尉。夜勤組みの中で陣頭指揮を取っている方です。ジョージさん、クエストシートとギルドカードを見せてあげてください」
「ほいほい」
ジョージが言われた通りクエストシートとギルドカードを重ねて提示すると、ローガスはそれをまず目で確認し、失礼、と一言断ってから指を突っ込んだ。
するとギルドカードと同じく、クエストシートもローガスの指を素通りさせる。
「間違いなく本物のようですね。しかし、ヴィリディアンとは」
ローガスは小さくだが、明らかに鼻で笑った。これにはロックとアラシも気づいた。アッパルだけはよほど早く帰りたかったのか、笑顔で言う。
「では、私はこれで」
「ああ、お疲れ様でした」
「紹介役でしたか。雑用までご苦労な事で」
「いえいえ、また明日」
「はい。それでは皆さん。……オツカレサマ?」
夜勤の警官たちにもそれぞれ一言ずつ挨拶を交わしたあと、ジョージの一言に小首をかしげながらアッパルは帰路についてゆく。それを見送ったあと、ジョージも改めて夜勤の警官たちの顔ぶれを見回した。
ローガスと同じようにジョージたち三人を侮るような表情を浮かべているのは、さすがに一部の者だけで、それも全員がローガスの腰ぎんちゃくのような事をしているようだった。
他の警官たちは好意的とも恣意的ともとれない微妙な様子で、ちらちらとジョージたちの顔をうかがってくる。値踏みされている、ととるべきだろう。
「(はあ、やれやれ。ほんとに大丈夫なのかこの警察は……)」
ジョージは軽い頭痛を覚えながら、弟子二人に指示を出しながら書類の山を整理しはじめたのだった。




