012-攻略、中断! -2-
美味しく楽しいうずらの唐揚げパーティーも終わりに差し掛かった頃、ディアル潜窟組合に珍しくギルドメンバーの身内以外の客が来る。
「お食事時に失礼する。こちらはディアル潜窟組合でよろしいだろうか」
実に珍しい来客で、しかも二人も来ている。
食事中の六人は一瞬お互いの顔を順に見た。ちょこちょことアイコンタクトが飛び交い、最終的にギルドマスター兼受付嬢が応対に出る。
「はいよ。都市警察の兵士さんがこんな寂れたギルドになんの用だい」
直前の静かなやりとりと、どこか投げやりな態度に面食らいつつも、客人は礼儀正しさを崩さない。
都市警察の兵士、とランナが称したこの客人たちは、その名の通り、レドルゴーグの都市内にて評議会に認められた兵士たちだ。
評議会が定めた法にのっとった犯罪に対しての捜査介入と逮捕の権限、つまりは警察権を持った武装集団であり、一般には正義の兵士、という事になっている。
「どうやらこのギルドに所属するメンバーのどなたかが、数日前に工場街で十人近いの暴漢に襲われて返り討ちにしたようなのだが。心当たりないでしょうか」
その正義の兵士たちは、デザインがそろいのブレストプレートアーマーをはじめとした装備をしており、都市警察に所属さえできれば無償で支給されるわりに高い性能をもっている。ただ、一部ではまるで判子で押して量産したかのような見た目と、無償で手に入れたくせにやたら高性能なそれに対するやっかみから、スタンプスなどと蔑称されている。
「一人は黒髪にヒゲ、もう一人は金髪で若く十八歳くらいの……あなたたちかな?」
その正義の兵士は、自ら特徴を述べながらそれと全く一致する人物を発見してしまう。
「あー、さて。どうだったか」
都市国家の権力とあって、ジョージはとっさに答えを濁した。つい目が泳いでしまったので相手には見抜かれているだろうが、言質を取られなければまだいくらでも言い逃れが効く。
ロックの方も言いよどんだ師匠を見てなんとなく意図を察した。この辺りの呼吸はもうだいぶ合わせられるようになっている。
「工場街ならついこの間行ったが、その時は暴漢などには会わなかった、よな?」
さらにここでアラシが意図せずして援護射撃をした。アラシはそもそも魔動発力舎へ二人がブラスギアーを納品しに行ったなど知らないわけだから、工場街へ行ったと聞いてまず真っ先に頭に浮かんだものが、自社工場へロックのジョブチェンジについて参考になる話を聞きに行った事だったのだ。
「ふむ? あれ、あなたは確か。えっと、失礼だがどこかでお会い……」
二人組みの都市警察のうち、今までしゃべっていた金髪長身の男が何か思い出すように眉間に人差し指をそえると、後ろで控えていたこげ茶の髪の男か女かわからないほど中性的な顔立ちの兵士がそっと耳打ちした。
「ああ! イエート家の。これは失礼しました。イエート家の方がおっしゃるなら確かな話かな……ええ、誤情報だったかもしれません。失礼しました」
そう言い、軽く頭を下げて出て行こうとする兵士二人を、ジョージはつい呼び止めてしまう。
「ああ、待ってください。参考までに聞かせてほしいんだけど」
「はい? なんでしょう」
こちらの対応は出だしからかなりぶしつけなものだったにも関わらず、丁寧な姿勢を崩さなかった時点でジョージは彼らに少し好感を抱いていた。イエート家の発言、という大きな物の威光であっさりと引き下がってしまう所には減点だが、都市警察という組織全体はともかく、少なくとも彼ら二人は善良であるように思えたのだ。
「仮にその暴漢を撃退した人たちを見つけたとして、何をどうするんです?」
金髪の兵士が不思議そうに首をかしげながらも、その瞳が鋭く光ったのをジョージは見逃さなかった。
「話をお伺いしたいんです。その時撃退された暴漢はまだ全員は捕まっていません。何人かは動ける状態ではなかったのでそのまま捕まえました。捕まえた所で、そいつらが最近ちまたを騒がせているヒュールゲン強盗団の構成員であるとわかったんです」
「ほう」
ジョージはまだレドルゴーグに来て自体日が浅いため、ヒュールゲン強盗団など名前も聞いた事はなかったが、ランナとキョーリはその名前に反応した。
「義賊を自称する小童どもだな。確かに騒がしとるが……」
「……そのヒュールゲン強盗団らしき暴漢たちを撃退したのはさっき特徴を言った二人だけなんですか?」
白々しく予防線を張るジョージ。だいぶ慎重になっているが、その二人組みの本人たちがわざわざ二人だけであったかなどと確認してくるだろうかと、兵士は疑問に思ったようだった。
「ええ。目撃者によれば二人組みだと」
「義賊を自称するような強盗団が、ただの二人組みを襲うっておかしくないですか?」
「はい、われわれもそう思って捜査を進めているところですが、今のところ捕まった連中がその構成員である可能性はとても高い」
「ふむ。まあ、そこはいいや。俺が聞きたかったのは、本当にその二人組みを見つけても話を聞くだけで済むのかな、って所でして」
「と、言うと?」
「聞けば、その構成員とやらを捕まえた時に、そいつは動けないほど痛めつけられていたって事だ。過剰防衛とか。もしくは初めからその二人組みの方から喧嘩を売りにいっていたと思われている可能性も、なくはないかな、と」
ああ、とそこで兵士は合点が行った様子だった。
「なるほど。その心配はありませんよ。目撃情報は多数から取れていますので、確かなものです。明らかに、その十人近い暴漢たちがその二人組みを囲って、何かを要求している状態からその二人組みから先制したと。あとその、過剰防衛、というのがよくわかりません。襲われたのに相手を傷つけずに無力化しろなんて、我々にもできませんよ」
「あ、じゃあその二人組み、俺らです」
ずいぶんあっさりとした自供に、その場にいたジョージ以外の全員の「えっ?」という声が重なった。
事情を説明してみれば、ジョージが警戒したような事は全くなく、都市警察は本当に話題の強盗団らしき連中と直接戦って返り討ちにした二人から話を聞きたがっていただけだった。
ついでにアラシの誤解もただし、ブラスギアーの大量発注をとんでもない速さで受注し納品した者がジョージとロックであると伝えておいた。
「そ…いや、いまさら師匠が何をしでかしていても驚かない」
ダンジョン内に出現するモンスターを手なずけようとしたり、ただカニという食材のためだけに時間ギリギリまで同じ場所をぐるぐると周回したりというジョージの破天荒ぶりに加え、見習いとはいえダンジョンマスターという今までに聞いた事もないジョブは、バトルコックのスキルである筈の食材調達、鑑定士のスキルであるはずの鑑定を使いこなすという規格外ぶりだ。まだスキルを隠しもっていますと言われてもなんら不思議はないのでは、と思えるほどだ。
「なるほど、それでいくつか確認したい事があるのですが」
「はい。答えられる事なら答えますよ」
「まずあなた方が襲われた時の正確な人数を。可能ならその時の男女比や、一人一人の特徴も」
「ああ、それなら大体は――」
ジョージとロックはお互いにあの時の事を話し合いながら出来る限りの事を思い出す。
あの場に居た工場街に似つかわしくない顔ぶれは全部で十。男が八人で女が二人だが、女のうち一人はその強盗団に囚われているか、非戦闘員である可能性が高い。
顔についてはよくおぼえていないが、実際に武器同士を勝ち合わせたものと、その場で流用したものは正確に憶えていた。
電気警棒のような電撃を放つ短い棍棒に、三連装式のボウガン、そして女が使っていた鞭だ。
「うん。押収品とも一致しますが……数が合わないな。できれば、一度署まで来て頂いて、あなた方が見て触れた物と同じかどうかを確かめてほしいのですが」
申し訳なさそうにな願い出に、ジョージとロックは顔を見合わせ、そしてギルドホールの外を見た。
すっかり日が落ちて、夜になっている。
「明日でいいかな。その署という所までは、場所さえ教えてもらえれば自分らで行く」
兵士たちも二人とも同時に外を見て納得した。確かに外出するにはもう遅い時間だ。
「そうですね。わかりました。私は都市警察、南区駐在署所属、アッパル・テンタル少尉といいます。受付で私の名前を出してくだされば、対策本部にご案内するようにはからっておきましょう」
いまさらながらの自己紹介のあと、アッパル少尉はギルド名の欄に都市警察と書かれたギルドカードを差し出して見せた。色はオレンジと赤の中間よりややオレンジに近い、といった具合だ。
「同じく、補佐役のケイ曹長です」
後ろに控えていた中性的な兵士も名乗ってカードを出した。声を出してようやく女性とわかったケイ曹長のカードも、やはりギルド名の欄に都市警察と書かれており、色はやや黄色がかったオレンジ。カラーランクと階級は順当であるらしい。
「申し訳ないがお二人のギルドカードもうかがってよろしいだろうか」
「ああ、はいはい。ディアル潜窟組合のジョージ・ワシントンだ」
「同じく、ロック・ディアルっス」
二人の警官はまずその色に目を見開いた。二人ともまだグリーンランクに手が届くかというレベルであり、この程度ならばこのレドルゴーグにごまんと居る。しかしそんな有象無象とも言える連中に、たった二人で一度に十人近い人数を相手にして無傷で勝てというのは無理な話だ。
いかにカラーランクを上げて膂力を鍛えた潜窟者であっても、子供が振るったよく切れる包丁にうっかり切られれば血を流すし、矢を射られれば死にも至る。
暴漢たちが使ったという電気警棒はもともと殺傷能力の低い武器であるからまだしも、連装式のボウガンはしっかり人を殺せるだけの威力をもっていたと都市警察でも確認していた。
さらに、捕縛できた数人はギルドカードこそ持っていなかったが、それなりにダンジョンに潜って素の力を強化していたようで、強いてカラーランクに当てはめるならばグリーンランクはありそうな連中ばかりだった。
つまり、カラーランクだけで見れば同格以上。そんな相手に倍以上の数で囲まれたというのに、このジョージという男はあろう事か相手を圧倒したというのだ。
「あ、ありがとうございます。ジョージ・ワシントンさんに、ロック・ディアルさん、ですね。あと、アラシ・イエートさまもパーティーメンバーでいらっしゃるので?」
「ああ」
「わかりました、ではそのようにしておきます。明日は、よろしく」
謎の実力者と名家の御曹司。よくわからない組み合わせに戸惑いながらも、アッパルは最初から最後まで礼儀正しさを崩さず、そのまま帰っていった。
「都市警察か。明日に備えてちょっと予習しといた方がいいかな」
無精ひげを撫でながらようやく一段落ついたと息をつくジョージが皿に向かいなおすと、とてつもない違和感に襲われた。
「おい、俺の分残ってねえじゃねーか!」
「ふははは! スタンプスなんぞと話し込んでおるのが悪いんじゃ!」
続く高笑い。
とってつけたようなオチと共に、この日の夕飯はお開きとなるのだった。
更新再開




