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001-レドルゴーグ 潜窟者たち -2-

 まず真っ黒マントが向かったのは都市に数ある潜窟者ギルドのうちの1つだった。


 潜窟者とはディープギアに限らず下方向に伸びる大迷宮に挑む者たちの総称であり、潜窟者ギルドとはその名のごとく、潜窟者達が結成した組合のようなものである。


 ディープギアは広く一般に公開されているため、ギルドへの所属はべつに必須ではない。しかし所属しておくと色々とメリットがある。世の中そうそう美味い話はないもので勿論デメリットもあったが、基本的に新参者にもたらされるメリットはデメリットよりも遥かに大きい。


 そのメリットとデメリットの話を、真っ黒マントは受付のお姉さんから聞いている。昼食時であるせいか、ギルドホールの中には人がほとんどいなかった。


「基本どのギルドでもそうですが、そのギルドに加盟する店ではギルドカードを提示していただくと割引がつきます。中にはギルドメンバーにのみ提供されるサービスなどを行っ下さるお店などもございます」


 まずは基本的なサービス。どのギルドでもそう、と頭におく辺りこの受け付けのお姉さんは良心的である。


「あちらに当ギルドに加盟していただいている店舗のリストがございます」


 受付のお姉さんに見る方向を指され、真っ黒マントがそちらを見ると、先ほどの広場の掲示板にも迫る勢いの大きな掲示板が掲げられている。大きさに驚いたのもつかの間、真っ黒マントはそれを見て露骨に眉をひそめた。


 掲示板の大きさと比べて明らかに数が少ない。片手の指で数えていくと、一本余った。


 そんな真っ黒マントの様子を見ても受付のお姉さんはとくに怒る様子もなく、むしろ申し訳なさそうに眉と目じりを下げた。


「昔はウチも活気があったんだけどね。自慢じゃないけどレドルゴーグで三番目に歴史の長いギルドだったのよ? けど……まあ、色々あったのよ。ごめんなさい、新参さんに話すような事じゃなかったわね。そんなわけだから、ギルドに入りたいなら別のところをお勧めするわ」


 カウンターテーブルに片肘をついて無気力に言うお姉さん。口調も営業の調子から急に砕けた調子になっている。真っ黒マントはひそめていた眉をわざとらしく指でなぞって伸ばすと、スッと背筋を伸ばして胸を張った。


 彼女の言うとおり、この街にはいくつもギルドが存在していた。商業ギルド、工業ギルド、魔法ギルド、そんな別け方をされているだけでなく、同じ商業ギルドにしても区画や取り扱っている品物のジャンルで細かく別れている。


「わかった」


 なんの気負いもなさそうにただ了承の一言を返されると、受付のお姉さんは少しばかり、いや大分に風変わりではあるが不思議な雰囲気を纏うこの男が踵を返し建物から出て行く姿を見送ろうとした。


「んっ?」


 しかし予想に反して真っ黒マントの男は受付のお姉さんと同じようにカウンターテーブルに身を乗り出して肘をつく。次に男の口から出てきた言葉は受付のお姉さんの予想をまったく裏切るものだった。


「ここのギルドに入れてもらおう」


 少しの間、この男が放った言葉の意味を認識できず、逡巡し、反芻する。


「……ハア!?」


 ようやく理解した時、受付のお姉さんは女性としてはかなり野太い声を出して取り乱す。


「ただ」


 お姉さんが完全に取り乱す前に、真っ黒マントはさらに顔を近づけ、指を一本立てた。


「ギルドに入るのにかかる費用を少し待ってほしいんだ。あとしばらくの間タダで寝床を貸してくれる場所があったら教えてほしい」


 遠まわしながらも赤裸々に自らのお財布事情を吐露する真っ黒マント。受付のお姉さんはまた少し動きを止めて考えをめぐらせたが、ふうと一つため息をついてもとの片肘をついた気だるそうな姿勢に戻った。


「だったらなおさらウチはお勧めしないわ。ちゃんと一文無しからのギルド加入コースを設けてるギルドもあるし、超初心者育成コースっていうのを設けてるとこもある。むしろ完全初心者さんなんてウチじゃもう面倒みきれないわよ」


 これで突っぱねられるとは思って居なかったようで、真っ黒マントはスッとカウンターから身を外すと困ったように無精ひげをなでた。


「別に戦いが初心者というわけではないんだ。ただちょっと、説明しづらいんだがまだこっちに来てから日が浅いもので、知識量よりも親身さを重視したいというか」


 どう説明すればいいのか考えあぐねている様子の真っ黒マント。聞いている側としても何を説明したいのかすら察しもつけられない。


「とにかく、俺はココがいい。入れてくれ」

「入れてくれも何も……」


 突っぱねようとする前に、今更ながらお姉さんは真っ黒マントの様相に気づきハッとなる。


 顔と身振り手振りの拍子にときどき現れる手の素肌を除いて、髪の毛やヒゲまでもこの男は全身が真っ黒だ。かなり異様ないでたちであるにもかかわらず、自分はなぜこの男に対して今の今まで不信感を抱かなかったのだろう。ついさっきだって自分はこの男の格好よりもまとわれた不思議な雰囲気を先に気にした。この長いマントの隙間から唐突に剣がぬっと出て不意打ちに切り伏せられて、という事すら考えられるような不審すぎる格好であるにもかかわらずだ。


 そうやって色々と考えをめぐらせていくと、お姉さんは何か色々と面倒くさくなってしまった。もともと考え事は性に合わないのだろう。


「仕方ないわね。これも何かの縁でしょう」


 本当に仕方なく、といった様子である。しかしこれで、ようやく事が進み始めた。

 主人公の名前が出てこない、そもそも主人公らしい主人公像でもない

 だが私は謝らない


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