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004-スミス マギカ -4-

 買い物を終え、さっさとマジシャンズギルドを出る。歩きながらジョージは買った参考書を早速開く。


「しっかし、アニキは優しいッスね」

「ん? 何がだ?」


 目をと通しながらも、ある種の尊敬のような視線を受けてジョージは意識をロックの方に向けた。


「さっきのカウンターで寝てた店員さんッス。オイラだけだったら怒鳴り散らしてたと思うッス」

「ああ、その事か」


 なんだ、と軽くうなずくと、話を聞きながらぱらぱらと「実践魔法の手引き」をページ送りしていたジョージは小さく舌打ちした。「こんなもんか」と漏らした小さな声は、相変わらず尊敬の目を向けるロックには届かない。


「俺のフェミニンは真心からのものじゃないからな? 女性ってのは男に対して、何物にも代え難い心の安らぎをくれる一方で、他の追随を一切許さない精神的重圧を加えてくるもんだからな。たいていの女性には下手に出ておいて恩恵にだけあずかるのが得策なんだ、だから真似できるなら真似しろ」


 また小難しい単語を並べてジョージが語るが、今度の言葉は以前のような飢餓や世界や食文化だといったロックにとって一切見当もつかない単語はなく、かといって極端に哲学的な話でもない、むしろ同じ男としてロックにもなんとなくわかる話だった。だからといって、だ。


「真面目な話、オイラがいきなりアニキみたいになっても、たぶん気持ち悪いだけだと思うッス」


 「実践魔法の手引き」に目を通し終わった辺りで、マジシャンズギルドのギルドホールから出た。同じタイミングでジョージは読み終わったそれを当たり前のようにロックへ手渡しながら、さっさと「虹色の魔法学」へと目を移した。「実践魔法の手引き」とは違い分厚い本で、しっかりとした皮の装丁を開くと、文字は小さかったがページごとには図解が多くを占め、半ば絵本のようなとても読みやすい構成になっていた。もっとも、扱っているテーマや文章の堅さにおいては完全に大人向けであるが。


「んんむ、残念だがそうかもしれんなあ。けど今の自分を理解するってのはいい事だ。だからなにも、すぐに完全に真似しろなんて誰も言ってない」

「まあ、そうなんスけどね……」


 ジョージの方は既に新しい本の読書に少しずつ熱が入り始め、どことなく気の無い返し方をする。とくに親身になって相談に乗るつもりはないのだ。こればかりはロック自身がどうにかする問題でもある。ロックの顔は曇り、言葉は濁った。ロックは落ち込んだまま。ジョージは本に集中する。二人は同時に周囲への注意を忘れた。それが、いけなかった。


 ドンとロックが人とぶつかる。


「ああ、すみませんッス」


 すっかり癖になっていた中途半端な敬語が口をついて出る。ぶつかった相手はけっこうな長身で、ゆっくりと顔を見上げてロックは思わず不快さから顔を歪めた。


「ゲッ」


 声まで漏らした。そんなロックを相手は見下ろす。


「おやおや、この私にぶつかるとはどんな不遜な輩かと思えば、ディアルのところのチンチクリンじゃないか」


 ロックと知り合いであるとほのめかすその男は、ロックよりも頭一つ分、ジョージすら目線が唇の辺りまでしかない長身で、実際に見下ろしているのだが、それ以上に態度でみくだしていた。


「アラシ……」


 ロックがその男の名前を呼ぶと、アラシと呼ばれた長身の男は不愉快そうにピクリと片眉を跳ね上げた。


「アラシ、様だろうが!」


 アラシがロックを突き飛ばそうと腕を突き出した。が、ロックはあごを引き上体を後ろにそらしてスイッと避けてしまう。意図したものではない、反射的なものだ。


「……おい、お前はいつからこの俺の張り手を避けていい身分になったんだ?」


 何の臆面も違和感も持たずにそう言って放ったアラシ。横で「虹色の魔法学」を読みながら横目でチラチラと成り行きを見守っていたジョージが思わず吹き出した。


「ブフッ。んううん。ごほごほ」


 咳払いと咳の真似でごまかそうとするが誤魔化しきれるはずもなく、アラシの注意はジョージにも向いてしまう。見下した態度がそのまま変わらず自分にも向けられたのだが、手元の本から視線をはずさないジョージにはアラシにどんな目で見られようがあまり関係なかった。


「なんだおまえは? 見たところ、ロックの連れか? ハッ! 魔法の入門書など持っているからには、どうせ大した手合いではないんだろうな!」

「ああ、やっぱりコレ入門編なんだな」


 相変わらずペラペラとページをめくりながら、なんと会話が成り立った。ジョージとしては無視しているわけではないのだぞ、というどちらかといえば好意的な意思表示をしたつもりだったのだが、ふと周りが静かになって妙な雰囲気が流れ始めた事に気づき、ようやく本から目を離す。


「うん?」


 周りを見ると、アラシを含めて六人の男女がジョージとロックの周りを囲っていた。見た目から察するに、剣士が二人、騎士が一人、魔法使いが二人、執事が一人。アラシ自身はラフな格好でところどころが皮、ところどころが布という合成生地のボトムと布のTシャツの上に金属製のブレストプレートアーマー、腰には剣を下げているので剣士に含まれるのだろう。


「執事?」


 とジョージは思わず明らかに執事らしい格好をしている初老ほどの男性を注視してしまった。目の前の長身の男よりもその数歩後ろで控えめにたたずんでいる執事の方に気をとられた事が、どうやらその長身の男ことアラシは気に食わなかったようだ。


「無視をするな!」


 無視をしていたつもりなどない。ただ目の前の男よりもその後ろの方が珍しかったのだ、と思いつつ、さすがにその一瞬で全てを語る事のできないジョージは、ロックと同じように自分を突き飛ばすべく突き出された腕をすらりと避けた。二度も突っぱねた腕を避けられて、アラシはわなわなと震え始める。


「お坊っちゃま、取り乱しては――」

「うるさい!」


 執事の進言を乱暴に退ける。明らかに気が立っている様子のアラシをジョージは理解できずにいた。


「(なんでこいつこんなに怒ってるんだ)」

「名を名乗れと言っている!」

「言っている、と言われても。訊かれたおぼえはない。第一、人にものを尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だろう」


 内心では頭の悪い奴だなと思いながら、もう一度回りを囲っている者達を見回した。


 アラシというこの長身の男がリーダーである事は間違いなさそうだ。もう一人の剣士は剣士というよりも盗賊という風体で、後ろ腰に短剣を一本差し、たすきがけにしたベルトに投擲用らしきナイフを五本。皮や鉄の鎧は一切身に纏わず、おそらくは男なのだろうが背が低く、若いのか中性的な顔立ちをしている。


 騎士は騎士らしい格好で全身甲冑姿で中身はわからないが、デザインから察するにおそらく男。大きな槍と盾をもって武装している。


 魔法使いの二人は両方女。片方はつばの広い三角帽子と身の丈ほどもある大きな杖以外は周囲を歩く人々と同じように暑そうなかっこうで、布面積は狭くスカートの丈も短かった。


 もう片方は魔法使いというよりは聖職者に近いのだろうか。青い宝石のはまったサークレット、透けている薄手のワンピースの下にもう一枚セパレートタイプの水着のような肌着をまとっている。


 そして何より異色であるのが、やはり執事姿の男だった。この暑さの中で燕尾服を一式纏った彼は涼しい顔に片眼鏡をかけてじっとアラシのほぼ真後ろにつけている。


 つまり、ジョージとロックを囲っているのは四人。アラシは二人と共に囲いの中に居るのだが、彼の気分としてはおそらく獣を閉じ込めた檻の主といったところだろう。しかも閉じ込めた獣はウサギや小鹿など人畜無害な類だと思っているに違いない。


 目の前のアラシも含め、囲っている全員の腕を測り定めてジョージは思う。


「一番強いのは執事の人かね?」


 モノローグがうっかり口からこぼれた。指名された執事は何をするでもなくグッと背筋を伸ばして片眼鏡(モノクル)をギラリと光らせた。一方でその主であろうはずのアラシは何をバカな事を言っているのだと眉間にシワをよせた。


「はあ? 爺が……。そうか、そうか。このオレ様より挑発の上手い奴が居るとは思わなかったよ」

「いや、挑発のつもりはなかったんだが……」

「うるさい!」


 また腕を突き出してきたのでまた避けた。こんどは突き出したというよりも殴ってきたと言った方がいいのだろう。片手に本を持ったまま飛んできた拳の根元を掴むと勢いを上乗せさせるよう手前に引いた。


「ぅぉ」


 ろくな反応もできないままバランスを崩したアラシ。前のめりになった上半身に引っ張られるように傾いた下半身。片方でも足が地面から離れれば更にバランスは崩れる、それはまさしく立っていられないほどに。


「ほいっ。アンタが何者なんか知らんが、誰であろうとダンジョンもぐって命のやり取りをしてる奴を甘く見ない事だ」


 あえて転ばせず、足払いはつま先でくるぶし辺りを叩くにとどめる。これだけで十分に警告の意味は果たしただろう。小さく耳打ちすると、ロックに「もう行くぞ」と目配せしてそのまま四人の囲いを抜けようとする。執事の男性とすれ違う前に小さく会釈を交わしたが、その横をすり抜ける前に呼び止められる。


「待て」


 その執事ではなく、アラシにだ。


「まだなんかある?」


 小さく嘆息しながらジョージは振り返る。いい加減読書に集中したいらしく、片手で本を弄びながら、しかし片時も本を閉じようとはしない。


「まだ……だと? それは、その台詞はこのアラシ・イエート=ロッセ・ガブリエータに言っているのか!?」

「おお、やっと名乗ったな。俺はジョージ・ワシントンだ。」

「このオレ様に言っているのかと聞いている!」

「そうだ、おまえに言ってる。まだなんかあるのか? 俺ぁあいにくとココに来てから日が浅くてな、ご大層な名前を出されても怯む理由がよくわからんのだ」


 と、そこでようやくロックが耳打ちをする。


「イエート家っていうレドルゴーグの名家の、側室の子供っす」


 少しばかり遅い耳打ちであったが、足りない情報を執事が付け加えた。


「側室と言っても、今は正室のお妃様が居られませんので、実質は嫡子であらせられます」

「おおう」


 それはまた面倒くさい奴がいるものだとジョージは唸る。よくよく見ればアラシの装備はいやに豪華できらびやかだ。本人があの程度の実力しかないのに仲間を四人も連れているのは確かにおかしい事だったのかもしれないし、極めつけは執事連れという事だ。


「めんどくせえなあ」


 逃げるかどうか思案するが、ロックの名前が割れている事に気づいた。しかもディアルの所のチンチクリンというからには、ギルドまでしっかりと認識されているのだろう。


「ロック。今更だけど彼とはどういうご関係?」

「えっと、話すと長くなるッスけど――」

「はしょって」

「はしょって言っちゃえば、商売敵、ッスかね」


 間髪容れない要求にロックは苦笑しつつ、その通りに答えた。それでジョージは、大体を察してしまった。


「じゃ、ココで悪目立ちしてもかまわんよな?」

「うス」


 短い了承のもと、ようやくジョージはパタンと本を閉じロックに押しやる。


「持ってろ。ついでに本の内容も実践してみようじゃないか」


 ずっと執事を挟んでロックとやり取りしていたジョージは、再びアラシへ向かって歩くに際してチラリと執事の様子をうかがった。


「どうか手加減願いますよ」


 小さな声で囁かれ内心でジョージは驚いたのだが、返事はせずニッコリと笑う。


「どうれどれ、坊っちゃんの天狗になった鼻っ柱を折って差し上げようかぁ」


 余裕綽綽の態度で不敵な雰囲気を醸しつつツカツカとアラシに歩み寄る。対するアラシは何の迷いもなく剣を抜いた。マジシャンズギルドの授け売りコーナーにあった物と全く同じデザインだが、見た目は性能の参考にならないことをジョージはつい先ほど学習してきたばかりだ。


「今更だけど、街中で潜窟者同士が私闘なんてしていいんだろうか」


 周りを囲んでいるアラシのパーティーメンバーらしき潜窟者達の様子も伺いつつ、喧嘩の騒ぎをかぎつけて集まり始めた野次馬達の様子を見た。特に喧嘩を忌避しようとしている動きは見られず、大半が好奇の目でこちらを見守っている。


「わけわかんねえ事言ってるんじゃねえ!」


 罵倒と共に剣が振るわれる。剣の刃先さから炎が迸り、ジョージの胸の前を通過した。目測を誤ったのではない、ジョージが巧みに歩調を変えたのだ。


「ほっ、炎属性・中に軽量化って所か。価格にして金貨五枚」


 通過していった剣をさらりと眺めてジョージがその剣の値段をおよそで測る。ピタリと言い当てられてアラシがぎょっと身を固めた。その隙を見逃さすわけがない。


「せいっ!」


 右腕を胸の辺りの高さで前に出し、左腕は腰に添えるように半身引く。足は肩幅から大きく開き、前後は上半身と逆。この構えに至るまでに一瞬。さらにその一瞬でアラシの懐まで踏み込んで突き出したままの右腕がそのままアラシの左わき腹に突き刺さる、その直前。


「させないっ!」


 もう一人の剣士が横から割ってはいった。打撃として届く前に抜いた短剣を振り上げてジョージの右腕を切りつけんとする。なかなかの素早さ、そして判断力。だったが、ジョージはさらにそれに合わせて動く。


 自分の右側から右腕めがけて切りあがってきた短剣にあわせるように、右拳で反時計回りに円を描いて剣先をやり過ごすと剣を持つ相手の腕を掴み取るとを同時に行う。そのまま腕を持ち上げ右足を軸にし右に回転しながら回転力を載せた左の掌底を剣士の左脇の下に叩き込んだ。そのまま回転は衰えず左足をアラシの右わき腹に叩き込む。


 ガキィン と金属同士がぶつかったような甲高い音がした。


「ま、間に合いました!」


 聖職者風の魔法使いが両掌を前に突き出してあせった様子で言った。


 ジョージが自分の左足を見ると、キョーリから買った鉄の脛当てとアラシのわき腹の間に青白い光を放つ半透明のガラスのようなものが挟まっており、蹴りの直撃を防いだようだった。こは決まり手にはなっていない。小さく舌打ちして蹴を防がれた反動も利用しながらジョージは即座に飛びのいてアラシと距離をとった。アラシの仲間はまだ二人も即座に行動が可能な人員を残している。


 聖職者の方は腕輪がアラシを守った半透明のガラスと同じ色の青白い光を帯びて回転していて、どうやらその腕輪が何かの効果を現したらしいことまではわかったのだが、まだ魔法について疎いジョージにそれ以上は察せなかった。


「ふぅむ。一対六になるのかねえ」


 執事も含めて相手は六人。後ろでひかえるロックはこの場では戦力に数えない事にした。しかしまず一人思わぬ味方が現れる。


「二対五でございましょうか。今回、街中で躊躇いなく剣を抜くという坊っちゃまの行動は、教育係として目に余るものがございます」


 なんと、執事がモノクルを外してジョージの横に並び立った。それに釣られたように、もう一人前に出る。


「だったら、三対五ッス」


 ジョージは思わず、口元をニヤリとゆがめた。


「ロック、剣は抜くなよ。鞘つきで殴るように戦え」

「うッス」


 指示通りロックはベルトのホルダーから鞘ごと剣を外して構えた。執事は外したモノクルを胸ポケットに入れると手は後ろに回したままただ凛と立っている。ジョージは空手の型の一つで構えたままだ。三人横並びで、真ん中に執事が立っているので、執事が二人を引き連れて戦っているように見えた。


「爺、どういうつもりだ?」

「申し上げたとおりでございます。坊っちゃまの教育係りとして今回ばかりは見過ごせない事態でありましょう。レドルゴーグの民を統べ、守る立場に就こうというお方が、下らない一時の感情でその民に刃を向けるなど言語道断であります」

「違う、そうじゃない。老いぼれがこのオレ様をどうこうできると思っているのか!?」


 アラシがまた吼えた。その気迫ばかりは大したもので、ビリビリと空気を震わせたが、実際のところは情けないもので、護衛の四人がアラシの前に立ちふさがるように立って対する三人の行く手をはばんだ。


「よし、右のお姉さんをロックが。鎧と三角帽子を俺がやる。残り一人はもうしばらく左手が使い物にならんハズだから、執事さんは適当にアレの相手をしたあと坊っちゃんの尻を叩いてくれ」


 ロックにもっとも近接戦闘に向いていなさそうな相手をあてがい、執事には手負いの剣士の相手をしてもらう。自分は残り二人を同時に相手すると言い放つ。アラシの取り巻きの仲ではこの執事が一番強いと感じたジョージだが、やはり壮年を越えた男性に現役の潜窟者の相手をさせるのは気が引けた。


「……恩に着ますぞ」


 何に対しての恩なのか判断がつかなかったが、ジョージは薄く笑う執事の横顔を見て、まあ大丈夫だろうと思った。


「じゃ、俺から行くぜっ!」


 騒ぎがおき始めてから、初めてジョージが武器に手をかけた。機工刀の刃は剝かず鉄の棒のまま、上段に構えて全身甲冑を正面に捉えた。その刹那だ。


 瞬間移動のような踏み込み、甲冑の兜に深々と鉄の棒がめりこんでいる。アラシの取り巻きは四人とも全く対処できなかった。一歩後ろから見ていたアラシ本人に至っては全身甲冑の図体が邪魔で何が起きたのか目視すらできていない。


「さすがッス!」


 反応できなかったのは味方もほぼ同じだったが、神速の踏み込みを何度か見た事があったロックがいち早くそれに続いた。言われた通りに聖職者風の女魔法使いに鞘のまま切りかかる。


「ひっ!」


 ジョージの蹴りを受け止めた時と同じく、咄嗟に青白い魔法のシールドを展開して防ぐ。弾き返さんとシールドが何度も強く点滅したが、ロックは押し負けまいと踏ん張っている。両脇が隙だらけになったロックに剣士が横から切りかかったが、その更に横、ロックから見て後方から執事の援護が入る。


「ゼィア!」

「きゃあっ!」


 否、援護ではなくトドメの一撃だった。


 執事からの二本の掌底が剣士の右の肋骨に叩きつけられ、衝撃は反対側に抜け小柄な剣士の体を叩き飛ばして魔法による防御に集中していた聖職者風の女魔法使いにぶつかった。


 瞬間、ロックの剣撃を防ぐべく展開されていた魔法のシールドから集中が散って消え、鞘が術者の左肩に深々と食い込み鎖骨を折る。


 アラシを守っていた壁に明らかな隙間ができた。執事はジョージの提案どおりに取り巻きの間を抜けて一直線に、ロックはまだかろうじて意識を保っていた相手に容赦なく追撃をかけ気を失わせる。これで一気に二人も使い物にならなくなった。そうして残り二人を相手にしようとしているジョージへ加勢しようと真左へと剣を向かわせ直す。


 ロックが聖職者風の女魔法使いの気を失わせるよりも、瞬き数回分を遡る。ジョージはバケツをひっくり返したようなヘルムを軽くひしゃげさせ中で反響した音で装着者が昏倒しているうちに三角帽子の女魔法使いへと標的を変えていた。


「くっ!」


 ロングスタッフから苦し紛れに放たれた光の玉をスイスイとかいくぐって間合いを縮めると、一瞬で機工刀の刃を剝いてそのロングスタッフを両断する。


「悪いな、高いのかもしれないが」


 光の玉を放っていた杖の先端は地に落ち既に魔法使いの手元にない。ジョージが直前まで読んでいた本の知識によれば、杖や指輪や腕輪などの魔法具を通して魔法を使う者は、たいていその魔法具が失われた時にしばらくの間魔法を使えなくなる。明確にそう記されていたわけではないが、ジョージの解釈からすればそうだった。


 その解釈は間違っていなかったようで、打つ手を失った三角帽子の魔法使いは降参するように両手をあげた。


 と、ジョージの後ろでガシャリと金属が崩れ落ちる音がする。どうやら全身甲冑の騎士は昏倒から立ち直る事なく気を失ったようだった。


 ここで、ロックがもう一人の魔法使いの気を失わせ向き直った。


「アニッ…て、終わってるッス」

「おう。今回は運が良かった」


 それぞれ得物を腰に提げなおすと、ジョージとロックはすっかり見物人と同じ気持ちになって事の元凶とそのお目付け役のやり取りを見守る事にした。

 ウェーイ


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