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004-スミス マギカ -2-

 一つ、武器は自らの体にみあった物を使うべし。未だモンスターの一頭も倒さない子供が自らの身の丈ほどもある大剣を使うなどもっての他である。


 一つ、武器は自らの戦闘法に適した物を使うべし。魔法使いが自らの身の丈ほどもある大剣を使うなど愚の骨頂である。


 一つ、武器にもたらされし神のご加護に感謝し、武器を振るうべし。見た目に派手で大きいから一撃も大きいだろうと決め付け身の丈ほどもある大剣を振るうなど神への冒涜である。


 書籍「正しい武器の選び方」は、自らの体にあった武器の目安と、武器そのものの善し悪しの判別法、そして何よりも著者の大剣へのコンプレックスが切々と綴られている本だった。


 要約すれば「神の御業が最強である」の一言に尽きるのだが、神の御業を小さく小さくして武器や防具に込めた神の加護には、数多の種類が存在し、本にはその一例も紹介されている。


 ただし、どの武器にどの加護を揃えても、使い手の体に合っていなかったり使い手そのものがヘボであったりすれば武器の力に意味は全く無いとも書かれていた。


「あとは天の神ではなく煉獄を統べる邪神の力を封じて作った伝説の剣なんて話もありましたか」

「おお? なんだ昨晩のうちに一冊読みきっとったのか」


 次は「神代より紡ぐ物」という本に書かれている知識だった。「正しい武器の選び方」が概ね誰でも手に入れる可能性がある庶民向けの武器を解説した本であるのに対し、「神代より紡ぐ物」は一部の選ばれた者や、特別な使命を与えられた者が振るった武器や今までそれらを振るってきた者達の共通性などを詳しく考察した本である。


「いえ。お借りした本には全部目を通しましたよ。伊達であの仮面をつけてるわけじゃないんで」


 キョーリが言葉を失った、鑑定を進める手も止まってしまう。キョーリがジョージに貸した本は全部で十五冊。八十ページほどの半日もあれば読めるものから、一巻五百ページを越える読み応えたっぷりのものが上中下巻の三部作であるものもあったりと、総合して四千ページほどあった。一晩はおろか、一日でも読める量ではない。


「神々の御名の列記が一番面白かったです。ああ、面白いとかいったら失礼にあたるのかな?」


 ジョージがちらりと上を見たが、天罰が下るような気配はない。伊達に神として君臨しているわけではないのだから、そこまで度量が低いわけもない。


「ウッカリで地上の生命を根絶やしにしかけたり、闇の神がえらく幼かったり。でもこれらが全て過去に実際に起きた事だと考えると、さすが神だなと」

「……スミノース様は鍛冶と何を司る神であらせられるか?」

「火の神ですね。むしろ鍛冶の神になられる前から火の神であらせられた」


 キョーリの唐突な質問。まさしく抜き打ちテストであったが、ジョージはさらっと答えて得意げな顔になった。


 同時にジョージは一つ確認する事ができた。人々の神への敬愛と畏怖の強さである。初めに天啓を受けた時のランナの反応、神に対しては必ず敬語を使うキョーリ。神と人との距離が近い事は、神への畏敬の念を薄れさせる事はなく、むしろ身近に神の奇跡が存在する故に人々は神々を敬い続ける。


「ジェリタイトの本来の用途とは」

「武器の製作時に埋め込んでブレススロットそのものとして使う」


 二問目もさらりとかわす。キョーリがピンと片眉を吊り上げた。


「大迷宮とは?」


 三問目にして漠然とした問題だった。しかし、


「上に伸びる塔のダンジョンは天の神々への探求のために神々が天より下ろしたものであるが、逆に下へ伸びる洞窟のダンジョンには、遥か古代に大地深くに封じられた邪神やそれに眷属する者達が地上へ這い出る為に伸ばしたものと、そのダンジョン自体が巨大な封印装置であるものとの二種類の由来があると考えられている」


 ジョージはすんなりと答えられた。キョーリが唸る。本に書いてあった通りの答え。本当に全て読んだのかを確かめる抜き打ちテストなのだから、これ以上の答えはない。


「まったくおンしは信じられん奴だな。ワシが見終わった他のも鑑定してみ、間違っていそうならちゃんと教えてやる」


 抜き打ちテストは三問で終わりだったようだ。キョーリは再び仕事にとりかかりつつ、既に鑑定と手直しを終えた武器の山を指差す。ジョージは頷いてそれらに取り掛かった。


「このワンドは、羽飾りが多めだから風の魔法を強化するものか。ブレススロットに空きはないけど、緑色のジェムが埋まってる。緑は癒しの色だから、風と回復の魔法を強化するための呪具かな」

「ホッホ。なんだ、虹色の魔法学はまだ読んでないのか」

「へ? そんな本借りた物の中に入ってませんでしたよ?」

「うん?」


 いきなり話が食い違った。


「そうだったか?」


 キョーリは鑑定の手を休めずに思案をめぐらせていたようだったが、ハッと何かを思い出し同時に手も止まる。余談だが、隣人は工房から聞こえて来るリョーキの作業音を聞きながら、今日はよく作業が止まる日だな、と思っていた。


「そうだった、前の弟子とケンカした拍子に燃えたんだったわ。新しく買ってこにゃならんな」


 鑑定中だったひし形の盾を放り出すと一度奥に引っ込み、ジャラジャラと鳴る巾着をもって出てくる。


「東ブロック入り口の近くのアラカンドラ広場という所にマギルド、あいや、マジシャンズギルドのギルドホールがある。そこに今いった虹色の魔法学って本が売っとるから、コレで買って来い。他にもなんか目に付いた参考書があったら買ってきていいぞ」

「わかりました」


 巾着を広げて中を見ると、銀貨と銅貨がまぜこぜで入っている。内訳はわからないが、合計すれば二百枚は下らない量だ。落とさないように、と大事にポーチにしまったところで威勢の良い声が鍛冶屋の中に響く。


「おはようッス! アニキ、今日も潜るッス!」


 ちょうどいい所に道案内が来た。

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