003-ジョブ アンド スキル, アンド コイン -2-
「で、そのスキルってのをもっと詳しく教えて欲しいんだが」
キョーリの鍛冶屋の炉を遠火で借りて、ジョージとロックは豚肉の焼肉としゃれ込んでいた。
「そッスねぇ。えーと、スキルってのは大きくわけてユーズスキルとパッシブスキルってのにわけられるッス」
「ああ、なんとなくわかるぞ。任意で使うタイミングを決めるものと、持っているだけで効果を示すものだな?」
「そッス。けどスキルってのは基本は誰でも、どのジョブでもほとんど全てのスキルをゲットできるチャンスがあるって話ッス」
「ほとんど全て?」
「たまーに例外があるって話しッスけど、アニキがさっき使った食材取得のスキルはそれに入らないハズ…ッス」
「ははぁ。じゃあ俺がオークの死体を残したのも、それを捌けたのも不思議はない、と」
「それがそうでもないッス」
神聖な炉の火を焼肉なんぞに使われているにも関わらず、キョーリは奥から塩をとってきて自分も焼肉に参加しようとしていた。
「おっと、焦げとるぞ。鍛冶用の炉なんだからもっと遠火にせい」
それどころか焼き加減に口をだして、焼けた鉄を掴むためのトングで金網を動かす。
「あ、スマンです。でどういう事なの?」
「誰でもどれでもなんでも、になるんなら、わざわざ神様に誓いを立てて契約のもとギルドカードを取得してジョブを割り振られる意味が無いッス」
「それもそうだな」
相槌を打ちながら、ジョージがポーチから何か小瓶を取り出して、自分の手元の豚肉にかけた。何か調味料らしいそれは瓶の中ではほぼ真っ黒だったが、皿に広がった瞬間に赤くなる。
「お? なんじゃそりゃ」
「ウチの故郷の調味料だよ。ちょっと試す? ロックも試す?」
「あ、頂くッス。続けるッスよ?」
キョーリの皿にもそれを少したらしたあと、もぐもぐと咀嚼しながらジョージはうなずいて返した。ロックからみるとジョージの後ろで、キョーリが何か衝撃を受けた様子で硬直する。
「どうやら各ジョブによって、最初から与えられるスキルとゲットし易いスキルが分類されるッス。例えばオイラの剣士だったら、ソードマスタリーっていうパッシブが最初からゲットされてるみたいッス」
ここでジョージは、ロックの説明に「らしい」だとか「みたい」など曖昧な表現が合間合間に挟まっている事に気づいた。
「ロックが実際に見て確かめたわけでは、ないのか」
「あぁ、そッス。これはあとで説明しようと思ってたッスけど、ジョブじゃなくてギルドマスター用の特殊スキル、スキル鑑定っていうのを使わないといけないッス」
「それがさっき言った例外か」
「うス」
ポンポンと話が進んでいくが、キョーリだけ話の外で、ようやく味覚に受けた衝撃から立ち直った所だった。
「なんじゃこりゃ! 初めての味だぞ!」
「え、オーク肉って普通に取引されてるんじゃないの?」
「キョー爺さんまだ説明の途中なんだから後にしてくれよ!」
取り乱すキョーリを退けて、ロックが強引に説明を再開した。
「だから、オイラはランナ姉さんとジャンクフードのマスターに成長度を逐一チェックしてもらってたッス」
「なるほど、他のギルドのマスターでもステータスを見てもらう事は可能なわけだな」
「うス。あれ、どこまで話してたんだっけ? もうキョー爺さんのせいで!」
「なんだ、ワシのせいか!?」
軽く八つ当たり。ジョージが口の中のオーク肉を咀嚼しながらまあまあと両手で制する。そこでキョーリはジョージが手に持っていた食器を見てまたおかしな顔をする。キョーリとロックが持っているのはフォークとナイフ。ジョージの手には細長い棒切れ、いや、しっかりと同じ形に成型された木製の細長い棒が二本。ペンを持つような形でたたずんでいる。
「???」
なぜこれで食事ができるのだと疑問にとらわれ、キョーリはロックの言いがかりへの反論も忘れてしまう。
「あ、そうだ。スキルをゲットするって話だ。剣士ならパッシブが一つ最初からと、あともう少し成長するとオーラスラッシュっていう斬撃を強化するスキルをゲットできるッス」
「斬撃の強化。強力な斬撃を手に入れるわけじゃないんだな?」
「え? 同じコトじゃないッスか?」
「いいや、違う事だが。まあ続けてくれ」
ロックはジョージの細かな質問を不思議には思ったようだが、要求の通りに説明を続ける。
「? うス。ここまではオイラがただ剣士として戦い続けるだけでスキルをゲットできるって話ッス。オイラがアニキみたいにダンジョンマスターなのにバトルコックのスキルをゲットしようとしたら、ジョブチェンジするか、他の潜窟者のバトルコックに依頼して、スキルを教えてもらう”契約”をしないといけないッス」
「”契約”か……」
契約と聞いて、ジョージは感慨深げに呟いた。昨晩の酔いの内での理不尽な苦悩を一部思い出してしまったのだ。
「そッス。剣士とか戦士とか、まあバトルコックも、チェンジし易いジョブならあっさり一度そのジョブになっちゃうか、教えてくれる方も貴重じゃないってわかってるから安いカネかちょっとしたアイテムで契約してくれるッスけど、アニキみたいに珍しいジョブの人とか、騎士とかアサシンとかアドバンスドジョブについてる人たちは、そこに至るまでの苦労とかを考えたり、そのジョブとしてのアイデンテティーを簡単に失いたくないとかなんで、高いカネを吹っかけて来るッス」
「ほうほう……モグモグ。じゃあカネさえ払えば、騎士のスキルを使える剣士、なんてのも存在しえるわけだな?」
「そッスけど、それはちょっとありえないッスね。剣士ってのは自分でいうのもなんだけどオイラみたいなペーペーがつくジョブっす。騎士のスキルを買えるくらいのカネかコネを持ってたら、とっくに次のジョブに移ってる筈ッス」
「ははぁ、なるほど。理論的には可能だが現実的には不可解って事か」
「うん? まあタブンそういう事ッス」
ジョージが使う言葉は時折ロックには難かしかったが、ニュアンスで理解してうなずいた。一通りの説明を終えたところでロックは重大な事実に気づく。
「あっ! オイラの分の肉が無い! ちょっと二人とも! ひでえよ!」
金網の上の肉も、切り分けられていた肉もいつのまにか全てなくなっていた。思わず文句を言ったが、ニッコリ笑顔のジョージが焼き肉が小山になった皿を差し出した。
「説明しっぱなしで食う暇がなかったみたいだからな、ちゃんと、取り分けといたぞ」
「あ……アニキ………ちょうどいい焼き加減ッス」
ロックのジョージへの懐き度が上がった。
ジョージがどんな存在であるか、というのを読者さまに隠すつもりはまったくございません。
ただ、作中ではあえて触れる事もいたしませんし、たぶんご感想などにいただいてもはっきり答える事は避けるようにすると思います
そんなわけで、誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想をお待ちしております




