021-それぞれの屈託 -1-
天ぷらパーティーは誰もその途中で起きた技術革新の重要性に気付かないうちに、それなりの好評をもって終わりを迎えた。
久々に故郷の味を思い出せた千紗はもちろん、今までまともな食事を摂った事のなかったワケアリ六人衆も、食べ物を美味しいと感じる事の心地よさに少しだけ目覚めたようで、全員ともまんざらでもない表情でまたそれぞれの部屋に戻っていった。
もちろん、解散する前にこの場に集まっていた全員に《アナライズ》が使われた。
彼らの成長度合いを確かめ今後の成長方針を決めると同時に、ジョージがあっという間に開発してしまった《アナライズ》の表示補正プログラムのブラッシュアップと、ランナがそのプログラムを使うための練習にも利用された。
さて、《アナライズ》された結果、特に成長が目覚しかったのはロックであった。《ソードマスタリー》スキルが赤く表示されるまでに成長していただけでなく、魔法剣士へとジョブチェンジした事で《魔力感知》と《魔力操作》と、さらに普段から使っている《マナスローイング》と《スローイングマスタリー》のスキルも習得してあった。
普通、魔法はスキルにはならない物であるというが、《マナスローイング》は例外的にアクティブスキルとして神々に採用されたようである。
アラシはロックのようにスキルが増えるなどのわかりやすい成長は見られなかったが、腕から肩にかけての骨と筋肉がオレンジに近い表示になっており、さらに背骨から腰骨にかけての骨格が濃いイエローと、肉体的には大きく強化されている事がわかった。《ソードマスタリー》スキルもロックにまでは及ばないもののやや薄いオレンジである。
この二人、対戦戦績は七:三で相変わらずロックの方が勝率が高いが、モンスターを相手にした時の攻撃力、撃破速度ともにアラシが優勢である事も相変わらずである。むしろ、モンスターを相手にした時の火力は差が開く一方であり、ロックはジョージのような完璧超人ではなく、どちらかというと器用貧乏になりかけているきらいがある。
とはいえ、アラシが大振りの剣で主砲をやり、その隙をロックが埋めるという連携は今のところ非常に上手く行っているため、ロックはもっと対応力をあげるためにも、火や風など一般に属性魔法と呼ばれるタイプの魔法を使えるようになる事が当面の目標となった。
アラシはこのまま規定路線だ。
ワケアリ六人衆の中ではヒュールゲンが最も著しい成長を遂げていた。
どちらかといえばアラシに近いタイプの成長で、筋肉全体がバランスよく生気を吸い、骨格もそれなりに強化されている。《ソードマスタリー》スキルもビリジアンまで行っており、ランナによるとこれはかなりハイペースな習熟速度だという。
次に成長著しいとされたのはトゥトゥルノだった。
最年少にして最も地味な訓練と役回りばかりやらされているトゥトゥルノだったが、逆にその地味で地道な訓練がスキルの習熟に効果的であったようで、ロックも持っていた《スローイングマスタリー》スキルをトゥトゥルノはグリーンにまで鍛えていた。ハイペースだと言われたヒュールゲンよりもさらに早いペースでの習熟速度である。
その兄であるスドウドゥも、元団長と弟には及ばないものの、足腰周りを重点的にほどよく強化され、スピードで敵をかく乱するタイプの剣士に育っている。
《ソードマスタリー》スキルの成長も、このメンバーの中で比べるからこそ著しくはないが、平均的な潜窟者と比べれば早いほうであるらしい。
カルサネッタは全体的に上半身が鍛えられていた。特に前腕部と手首の辺りの強化が目覚しく、上腕筋と胸筋も際立って強化されている。それだけに他の部分が残念な事になっていたが、《ウィップマスタリー》スキルも順調に習熟されており、総合的に見ればやはり成長が早いといえる。
モンドだけは、《アナライズ》して一目見ただけでは残念な事になっていた。肉体的にはまったくといっていいほど強化されておらず、頭部、それも頭骨ではなく内部、つまり脳の部分だけが集中的に強化されている。それでもまだ大した強化ではなく、精々でも暗算が速くなった程度の効果しか現れていない。しかしよくよく見ると、魔力量が六人の中で最も成長しており、《魔力感知》と同時に《加速展開》というパッシブスキルを手に入れていた。これは要するに、魔法を使おうとした時に発動が早くなるスキルだ。
そしてマールは、ジョージが開発したという《リバテープ》の魔法しかまだ使う事ができないものの、生傷の耐えない仲間たちのために何度も何度も傷の手当をしてきたためか、《エクストラヒーリングマスタリー》という謎のスキルを習得していた。
エクストラ、とはいかにも凄そうなスキルであるが、ジョージがマールに教えた《リバテープ》の魔法はあくまで傷をふさぐための魔法であって傷口を治癒させる効果はない。これに若干の治癒促進効果を持たせているらしい。
マスタリーとつくからにはおそらくパッシブスキルに含まれるのだろうが、このスキルはカーラもまったく聞いたことが無いという、まさに謎のスキルであり、ヒーラーとしてのカーラはこのスキルを持っているマールにかすかな嫉妬を抱くほどだった。
「そういや負傷者の体液を利用して治癒を早める(値段の)たっかい傷テープがあったなぁ」
千紗の時代にはなかった技術であるため、納得したのはジョージだけである。
こうして前途有望な若者たちの《アナライズ》によってこれまでの訓練の成果が見えた事で、疲れてばかりで理不尽な新人いびりだったのではないかというワケアリ六人の疑念は払拭された。ロックは改善点が見つかったし、アラシもこのままの路線でいいのだという自信を得られた。
しかし、ここで一人だけ仲間はずれのようになってしまった子供が一人いる。
千紗である。
一応は試してみたものの、どうやら《アナライズ》スキルはどこかしらのギルドに所属していなければ効果のないスキルであるらしく、千紗にかけてもなんの反応もしなかった。これはジョージだけではなく、ランナが試してみても同じであった。
千紗は自分がまだディアルに正式所属できない理由を知っているし、このまま行けばあと半月ほどでその理由も解消し彼らへの仲間入りを果たせると知っているため、なんの不評も言わなかった。
しかし、やはり疎外感のようなものは感じてしまい、それを顔に出さない事は、まだ経験が未熟な千紗にはできなかったのだ。
千紗が一人でしょんぼりしているのに皆が気づき始めると、なんとなく気まずい空気が流れはじめる。それを切欠に天ぷらパーティーがお開きになったため、これが大好評でも大盛況でもなく、“それなりの好評”をもって終わりを迎えた所以だった。
さらに、パーティーが終わってから差し当たり解決しなければならない問題が発覚する。
「そういや、カーラは、宿はどこにとってるんだ?」
「え? 宿ですか?」
カーラは大陸南西部にあるルーカランラ教総本山、水神の塔から来てレドルゴーグに着くと神の導きに従ってまっすぐディアル潜窟組合のギルドホールまで来たという。来たのが朝早くだったのは、朝一番で宿を出たわけではなく夜通し移動できるタイプの交通手段を用いたとの事だった。
その交通手段が気になったジョージだったが、まずはカーラが今晩眠る場所を確保しなければならない。
「できればジョージさまと同じ宿が良いのですが」
そういうだろうなと予想はしていたがいざ言われてみると反応に困る。
「悪いが、それはちょっとな……」
ジョージは現在自分が寝床を借りているところが鍛冶屋の一室で、初めは元手がなかったためだが、大金を稼げるようになった現在も家主と意気投合してしまったからそこでの寝泊りを続けている旨を伝えた。
普通の宿屋に泊まっているのならば良いと言ったかもしれないが、自分も家主も男であるため、そこにカーラ一人が女性として泊り込むわけにはいかない。
その辺りはこちらでも避けるべき事として常識になっているらしく、渋々だが了承する。では、どうするかといえば選択肢は多くない。ジョージはとりあえず数少ないギルド同盟店である鯨の泉亭を推して見たが、ランナの方が微妙な顔をした。
「あたしの部屋でいいんじゃないかねぇ。あたしと千紗とあんたで三人だから窮屈だと思うかもしれないけど、千紗は構わないだろ?」
「はい。もちろんです。私も色々聞きたいですし」
どうやら問題はあっさりと解決したようだ。
「んじゃぁまた明日。明日からはお前らまたガシガシひっぱたいていくから、覚悟しとけよー」
「「「はーい」」」
唱和する弟子たちに和みつつ、ジョージはギルドホールをあとにするのだった。
あけましておめでとうございます
本年も、本作品をよろしくお願いします




