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020-ジョブ アンド スキル おさらい! -5-

 彼らがやってきたのはディープギア東区、浅層部の四十一階。目的の品は当然、バルーンクエールである。


 メンバーはジョージを筆頭に、弟子二人と新人のカーラだけだ。


 千紗はまだ体力もつききっておらず、ジョブにも就いていないため戦力外としていつものようにランナとお勉強会。モンドも一応は休日とした手前、興味はある風だったが他の五人と一緒に休ませている。


 本当ならばカーラの歓迎会の準備なのだから、カーラもギルドホールで待っていてほしかったのだが、神託によって「ジョージに侍り、よく助け、よく観察せよ」という目的を持ってディアルにやってきているため、寝る時や風呂トイレ以外は本当に常にジョージのそばにいるつもりのようだった。


「ふむ。やっぱり近接でもそれなりに戦えるみたいだが、できればなるべく後衛で誰かが怪我すんのを待っててほしいかなぁ」


 ついてくるならば仕方ない。ついでにモンスター相手にどの程度戦えるのかを見てやろうという事で新人達にも行った毒蛇の洗礼をやろうとしたが、東区の毒担当は蛇ではなく蛙の方だった。


 女性相手ならば蛙でも洗礼になるかも、と思ったジョージだったが、さすがに体表の粘液が毒であるブルフロッグを掴んで投げるという事はしたくない。どうしようかと悩んでいるとカーラは、


「まあ、蛙さん」


 などと嬉しそうにそれらを見て、毒持ちだと気づくと残念そうに、しかし容赦なく水弾を打ち込んで鎮圧した。


 もともとジョージどころか、今まで最も高かったアラシよりも更に少し上カラーランクを誇るカーラある。いまさら手荒なまねで試すやら鍛えるやらをしなくても構わないだろうとの判断で、洗礼は取りやめとなった。


 いずれあの六人を伴って九人でディープギアにもぐる事もあるだろうから、その時にはカーラにも平等に蛇を投げつけるつもりだが、きっとその時もそつなくこなすのだろう。


 そこから、鷹に鳩に珠に風船ときて、ようやく本命のウズラが現れはじめる。


 普通に倒してしまうと通常のドロップアイテムしか残らないために、ジョージだけがトドメを刺すように調整して戦っていく。ここでもカーラは余計な手出しをせず、僧侶として後衛の立ち位置で連携の邪魔をすることなく静かにしていた。


 今回ははじめから食材確保の目的で潜っているため、問題もおきずに十羽分ほどの肉を確保するとすぐに地上へ戻った。


 その足で市場に寄って小麦と油を買い、他にも揚げ物の素材になりそうな物を買いあさっていくのだが、相変わらずのその品揃えの悪さにジョージの顔色は曇るばかりだ。


「小麦はいっぱいあるが、野菜が少ない。砂糖が高級品じゃサーターアンダギーすら気軽に作れない」


 餓死が存在しないせいで、食文化の発展が非常に遅い。


 食文化の発展が遅い、とは単に美味しいものが少ないというだけにはとどまらない。


 食材の精製も発展しないため、香味や色味をつけるための香辛料はもちろん、塩や砂糖など基本的な調味料の大量精製も必要性を感じないということだ。必要性がなければそれに関する技術の発展は無く、そこから派生する技術も存在しない。


 そのあたりを補うのがダンジョンから産出される様々な資源であり、そこにも食材は含まれているのだが、今のところジョージはたんぱく質としか出会っていない。千紗に病人食として与えたトレントパパヤーノの実、ロポポでさえ植物性のたんぱく質であった。


 栄養が偏ればさまざまな不都合が発生するはずなのだが、この世界の人々は基本的に腹が満たされればそのままエネルギーとなって動き続ける事ができる。特に、理想的な肉体に成長するためにも重要なものであるはずだが、その辺りはダンジョンに潜ってモンスターを倒した生気を吸う事で補えてしまうという。


 全てを、世界が違うから、で片付けてしまうのはあまりに乱暴な気がしたが、ここで悩んでいても正解が見つかるわけがない。気持ちを切り替えなおす。



 市場には圧倒的に実用品が多い。


 ダンジョン攻略に使うのだろう、消耗品のロープや矢、タイマツなどが束で売られていたり、砥石、はたまた何らかの金属の鉱石や精錬済みのインゴット。


 食べ物もほとんどが実用性重視のものばかりで、なおかつ何かの干し肉や、押し麦、硬く焼いたパンなど潜窟者向けの品揃えばかりだ。


「ううむ。蟹鍋の時の麦雑炊は本当に幸運だったな」


 米が無い事は仕方ないとしても、高価ではないとはいえ小麦粉すら少ない。しかもジョージの予想ではこの小麦粉もダンジョン産だ。周りの他の食材と比べて製粉の精度が段違いに高い。そんな中で、粉ではない状態の麦があった事は幸運といえるだろう。


 そして今回も、ジョージが持つ食への運はなかなかのものを引き当てた。


「あ、シイタケ。それにこれは、ニンジンの原種かな?」


 ジョージが発見したその場所はどう見ても食品を売っている店ではない。同じスペースに怪しげな小動物の干物や鹿か何かの角なども一緒に売られていて、おそらくは薬品の材料である。


「ほう、お客さんそんなのに興味があるのかい。どっちも大した薬効もないクズ素材って言われてるモノだが」


 思わず手に取ったジョージに店主が声をかけてくる。


「こいつら、こっちではなんて呼ばれてるんだ?」

「キノコの方はブランクマッシュルーム。根っこはスタミールートっていう。スタミールートは絞り汁を煮詰めて凝縮すれば精力剤の材料になるが、ブランクマッシュルームはたまに変な体質の奴が幻覚を見るくらいで、ほとんどの連中にはなんの効果も及ぼさないただのキノコだよ」


 スタミナの(スタミールート)はともかく、空白のキノコ(ブランクマッシュルーム)とはひどい名前だ。


「ためしに、バラで買えるか?」

「ほとんど全く売れん品でな。買ってくれるならどんな形でも売るさ」


 見た目はほぼ完全だけで地球の物と同一である確証は持てないので、ジョージは試しにひとつずつ買って欠片を口に含んだ。売った方も、ついでにジョージの連れであるカーラと弟子二人までもその行為に面食らったが、ジョージは力強くうなずいた。


「うむ。さすがに完全に同じとはいかないが、代替品としてこれ以上のものはなかなか見つからんだろうな。在庫はどんだけある?」

「え? あ、ああ。マッシュルームは倉庫に二箱、ルートはそれの四分の一ってところか」

「箱の大きさは?」


 クイッ と店主に後ろにあった高さ十センチ、縦五十センチの横二十センチほどの木箱に指差されると、ジョージは即決した。


「ある分全部くれ」


 薬効の無い品であるため値は安い、これはジョージにとってはかなり良い買い物だった。


 それに、この世界ではまだ食品として認識されていない物であっても、何か他の物の材料として売りに出されている可能性があるとわかったのだ。


 それからジョージは時間ギリギリまで市場を見て周り、着々と食材を見つけ出していく。


 最終的に集まった食材は、ウズラ肉に、蟹、シイタケ、ニンジン、ホウレンソウ、菊の葉、オオバ、パセリ。これら八種に及んだ。


 ちなみに、蟹はすでにストックしてあったものからの持ち出しで、ホウレンソウと菊の葉は花屋で、オオバとパセリは先ほどとは別の、どちらかといえば香水の原料を扱う薬品の屋で見つけたものだ。


 カーラは、花や香りの元を本当に食べるのかと訝しげな顔をしているが、ジョージが作った物に不味い物などあるわけがない、と完全に信頼しきっている弟子二人は出される物がどんな味になるのかを今からワクワクしている様子である。

 かくしてギルドホールへ帰り着くと、休んでいた新人六人も伴って鍛錬場に揚げ場を作る。


 今日も揚げ担当はジョージだったが、意外にも揚げ物料理を手伝った経験があった千紗と、強盗団をやっていた時は料理担当でもあったマールまで手伝いに入ると、準備は前回の三倍の早さで進んだ。


 食材の下ごしらえを終えてから、油鍋を火にかけ、小麦粉と謎の卵を混ぜて簡単に天ぷらの生地を作る。ジョージが火力を強める魔法を使うとあっという間に油が適温に達した。


 料理担当三人で交代しながら具材を揚げていると、料理の様子を見ていたカーラと、どういう心境の変化かカルサネッタも途中から参加して、更に効率よいローテーションで、代わる代わる食べ、代わる代わる揚げる、という非常にストレスの無い図式が出来上がっていた。


 因みに、もう一人の女手であるランナは、まあ、言うまでも無いだろう。


 飲み物も市場で適当に買った少しだけ疲労回復の薬効があるといううたい文句で買ってきたレビリンという茶だったが、風味はやたらと苦いものの味わいは渋みと共にほのかに甘いという不思議な味わいで、ディアルの面々はすぐに気に入った。


 ジョージが用意した天ぷらの具材で最も好評だったのは、やはりというかなんというか蟹の身をほぐしたもので、次点はニンジンとホウレンソウの掻き揚げ、そしてシイタケだ。


 香味野菜はほぼ地球にあるものと同じ風味、同じ味だったが、オオバ、こちらではレイチナの葉と呼ばれる葉野菜は完全に香水の原料として認識されているらしく、香水を食っているような感じがする、としてすこぶる不評だった。弟子二人でさえ微妙な顔をした程だ。


 こんなに美味しいのに、という千紗と、こんなに臭いのに、というランナの顔が対照的であった。


 そんな一幕もありつつ、食事の手も落ち着いてきたころ、ジョージは今日の総括に入る。


「姐さん、いい機会だからここで全員のステータスチェックをしてほしいんだ」

「ぁん? 全員分だぁ?」


 珍しい、かつ美味しい食事をとって上機嫌だったランナが急に険しい顔になった。

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