020-ジョブ アンド スキル おさらい! -4-
「スキルの習得には大きくわけて四つの種類があります。
一つ目は、新たなジョブに就く事。これが一番多いと思います。
二つ目は、既にあるスキルを習熟する事で新たに得られるもの。一つ目の次に多いでしょうね。
三つ目は、既にそのスキルを習得した相手とスキルコピーの契約を結ぶ事。これは習得する側にとっては一番簡単な方法ですが、習得が可能なスキルでなければそもそも契約ができないようです。
四つ目は、急にスキルが開花する場合。これについては例がとても少なく、共通する点といえばそれまで非常に辛く困難な経験をしてきた方ばかりがこの恩恵を得られているという所です」
一つ目はさもありなんと思ったジョージだったが、二つ目と三つ目にはとても興味をひかれた。特に二つ目である。
「一つずつ説明していきましょう。
一つ目は簡単ですね。ジョブには就くだけで、という言い方も乱暴ですが、ジョブに就いた瞬間からいくつかのスキルを習得できます。
二つ目の、スキルの習熟によって新たに得られるスキルも簡単ですね。先ほども挙げました、《魔力感知》のスキルを習熟する事で《魔力視認》を習得する、などですね。
ほかにも、上位ジョブへのチェンジ条件にはカラーランクとこのマスタリースキルの習熟度が関係しているというのが今の定説になっていますし、上位ジョブに就く事は、一つ目の方法につながります」
ジョージは重剣士だのというジョブを以前にも聞いたことがあったし、他の面々にとってはこの辺りも生まれた時からよく話に聞く当たり前の事。これも千紗にとってだけ新しい情報である。
「三つ目は、ある意味でもっとも簡単ですが、これが行われる機会は少ないものです。
理由は、誰でもいつでも、どんなスキルでも習得できるわけではないらしい、という事。それにあくまでこれは“契約”になりますので、習得したいスキルに見合った対価を払わなければならない事。それがかなわないなら、自力で苦労して習得したスキルを誰かにそのまま渡してしまおうという人は、あまりいません。
スキルコピー、ですので、渡す側がそのスキルを使えなくなってしまうわけではないのですが、やはり自分がそれまで積んできた苦労をせずに他人が目の前で同じ事をできるようになる、というのを快く思わない人は多いのでしょうね」
これも理解できる話だ。世界が変わってもあまり人間の心理は変わらないものであるらしい。
「四つ目は、わかっているというか、わかっていないというか。
経験とスキルの関係性は、こういうものだろうという一定の答えが出ているのですが、どの程度の経験をすればスキルを習得できるのかという基準がわかっていません。
例えば、ある方は、過ってモンスターの酸性の体液を全身に浴びてしまい、仲間の助けにより一命を取りとめました。しかしその時点では何のスキルも得られませんでした。
普通はそのような状態になれば神の奇跡にすがっても身体のどこかに不自由が残るものですので、ほとんどの方が潜窟者など引退してしまいます。その方も一度は引退を考えたといいますが、本人の類い稀な努力によって一線に復帰。その時に、《酸耐性》というパッシブスキルを習得したといいます」
これには異世界組は内心で首を傾げた。千紗は顔にそれが出ている。スキル、という言葉に惑わされているのだろう。耐性は性質であって技術にはなり得ないのではないか。
しかしジョージはいち早く立ち直る。そういう、世界なのだ。
「じゃあ、経験とスキルは直結している、という事か」
「はいその通りです。今まで公にされている例では、一切の例外なくそうなっています」
一切の例外なく、とはまた何者かの作為を感じた。しかし、何者かの作為であるかは明白だ。スキルを授けているのは神なのだから。となれば、よくわかっていないといわれているスキルを得られる基準もなんとなく見えてくる。
おそらくは大きな困難を経験し、一度はつまづくもたゆまぬ努力にてそれを克服した者、その証明としてか、あるいは褒美としてスキルが与えられる。
「ほかの例もあるか?」
「はい。違った例を挙げますと、ですね。
レドルゴーグのディープギアではないどこか遠いダンジョンで、虫ばかりが現れるダンジョンがあるそうで、その方は小さいころに何か悪い事をするたびに躾の一環としてそこへ放り込まれていたそうです。
しかしある時加減を間違えたご両親が、いつもよりダンジョンの奥深い場所にその方を置いて来てしまった。道を見失ったその方は誤って戻る道ではなくさらに奥へ進む道を進んでしまったのです。
仕置きの時間を終えてわが子を迎えにダンジョンに入った親は、置いてきたはずの場所に子供がいない事に驚き、探し回り、無事にその方を見つけ出すのですが、発見された時その方は、膝を抱えて座った状態で大量の小さな虫型モンスターにまとわりつかれていたそうです」
「ひっ……」
「そいつは、キツいッスね」
想像するだけでも実におぞましい話である。
「幸い、そのダンジョンに子供といえど人間を殺めるだけの力をもったモンスターは出現しないそうで、幼いころにそのような目に逢ったというその方も、その時の傷だと言われてもわかるような傷跡は残されていませんでした。けれども」
「心の傷か」
「はい」
トラウマ、という言葉が使われるようになってジョージの世界、ジョージの時代では久しかった。本来のトラウマの用途では小児期に受けた心的外傷に絞られる場合が多いので、この話ではまさにトラウマである。
「それからその方は成人してしばらく経つまで、モンスターではない虫ですら少し見ただけで半狂乱になっていたそうです。
しかし潜窟者になる道を選ばれ、嫌が応でも虫型モンスターと戦うようになって、これは倒せる相手なのだと認識を改め始めてから少しずつ症状も改善し、ある時ふと
《ビートルキラー》というアクティブスキルを習得しました」
先ほどの《酸耐性》はパッシブスキル。こんどはアクティブスキルである。なるほど面白い違いだとジョージは思った。ほかの面々も似たような表情である。
「この、四つ目の方法でのスキルの習得は、神託が降りるように習得した瞬間がハッキリ自分でわかるそうです。他の場合だと、なとなく使えるようになったかな? というくらいにしかわからないものなのですけどね」
「特にパッシブ系のスキルはそうなるなぁ。気づかないうちに使えてたって場合もあったし」
ジョージはまた自分の《ダンジョンマスタリー》のスキルを思い出した。今思い返しても、いつのまにか使えるようになっていた、という感覚しかわかない。
「オイラが魔法剣士になった時もそんな感じだったッス。順当に上位ジョブになるときは、一息ついた時になんとなく自分のギルドカードを確認してはじめて上位ジョブになったってわかる事も多いもんスけど、オイラの時は自分でハッキリと、ああ変わったな、ってのがわかったッス」
逆のパターンにロックが共感していると、カーラが少し驚いた。
「あら、ロックさんは魔法剣士なのですね?」
「ん、そっちではギルカ交換はやってないのか」
つい名刺交換とおなじニュアンスで言ってしまい、千紗以外に変な顔をされてしまう。が、言いたい事は伝わったらしく、ひとまず千紗を除いてここにいる面々だけでもお互いのギルドカードを見せ合おうという事になる。
ジョージ・ワシントン 25歳 見習いダンジョンマスター
グリーン
ロック・ディアル 18歳 魔法剣士
グリーン
アラシ・イエート=ロッセ・ガブリエータ 18歳 剣士
ライムグリーン
モンド・ディアル 16歳 見習い魔法使い
ダークパープル
カーラ・マーリア 18歳 僧侶
ライムグリーン
ギルドカードに記されている情報は、これに加えて所属するギルド名くらいなものだ。カーラもついさっき移籍したため、ここにいる全員ともディアル潜窟組合である。
カラーランクに関しても暫定的に名前をつけたが、グラデーションで少しずつ変化していくため、同じグリーンでもロックの方がジョージよりも明るかったり、同じライムグリーンでもカーラの方が黄色に近かったりと、近づけてじっくり比べると微妙な違いがわかる。
「ジョブとスキルの関係については、今日はひとまずこの辺でいいか。いろいろと順番をすっ飛ばしちゃってたな。こういう時はまず歓迎会からやるもんだろう」
ちゃんとした自己紹介も済んだところで、一人だけギルドカードを持っていない千紗の微妙な顔はあえて無視したジョージが実にいまさらな事を言い出した。いや、カーラが来てからまだ半日も経っていないのだから、タイミングとしては適切なのかもしれない。
「歓迎会、ですか?」
「ああ。あとはちょっと無理させてたみたいだし、あいつらへの慰労会も兼ねる形になるのか」
歓迎会だの慰労会だのと聞いているうちに、ジョージの一番弟子と二番弟子の背筋がだんだんと伸びていく。
「アニキ」
「師匠」
異句で同時にジョージを呼ぶ弟子二人。
「「それはひょっとして」」
「ああ。必要だろう」
今となってはさすがに最も付き合いの長いこの三人。これが師弟関係であるがゆえの物なのかは謎だが、実に見事に通じ合っていた。




