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020-ジョブ アンド スキル おさらい! -2-

 鍛練場の真ん中に縦一メートル、横一メートル五十センチほどのホワイトボードが置かれている。


 ジョージが部品ごとにポーチから取り出してあっという間に組み立ててしまったのだ。


 見た目にそぐわない容量を持つポーチに千紗がいまさらながら驚いているが、驚いたのは彼女だけで、弟子二人にはいまさらの事であるし、モンドもさもありなんといった様子、カーラは素の性格なのか神託があった時点である程度予想していたのか全く動じた様子を見せなかった。


「そっか、そういう世界なんですね」


 勉強会が始まる直前には千紗もそうやって自分を納得させた。だいぶこちらの世界に馴染んできた証拠である。


「それでは! 神のご加護がどういったものであるか、から説明しますねっ」


 カーラは講義のときまで語尾に感嘆符をつけるようなしゃべり方をするのだろうかというジョージの心配は杞憂に終わり、教師モードに入った彼女はやはり少しばかり元気すぎる部分は出てしまっているが、内容が頭に入る程度には抑えられている。


 序盤の講義は、神々の存在と、今の人間たちが使っているほとんどの戦う力は神々が加護として与えている力だという説明だった。


 この点はジョージの解釈ともズレがなく、千紗もつい昨日学んだばかりの事柄であったため復習としてすんなりと受け入れる。


 弟子二人はなぜいまさらこんな基礎中の基礎からやり直すのだと退屈そうな顔をしていたが、今まで神々からの恩恵という物に与った実感がなかったモンドは少しだけ疑わしげな表情でカーラの講義を聞いている。


 モンドの場合は、見習いながらも魔法使いというジョブにより、虹色の魔法学というあまり神の加護に頼らない方法で神の加護の再現に近い現象を起こすため、余計に神に頼るという感覚が理解できないのだろう。


「光の神カー様、闇の神シン様。このお二柱から生まれたのが、大地と契約の神ウッポラ様、風と職の神イェイラ様、炎と鍛冶の神スミノース様、そしてわたくしが特に敬愛を奉げます水と命の神ルーカランラ様の四柱の神々です。

 いつもでしたら、ここからそれぞれの神々がつかさどられる役割について説明するのですけど、今回はジョブとスキルの関係についての講義をご所望との事ですので大幅に割愛しまして」


 カーラはさっそく、ホワイトボードと渡されたマーカーを使いこなしていた。


「ジョブの種類はさまざまありますが、どんなジョブに就いても得られるスキルの種類は大きく分けて二つだけです。つまり、アクティブスキルと、パッシブスキル。

 アクティブスキルは使い手が使いたいタイミングでさまざまな効果を得られるスキル。代わりに少しだけ魔力を神に捧げなければなりません。

 パッシブスキルは使い手の意思には影響されませんが、常に効果があります。これも、中には常に魔力を捧げ続けなければならないものがあるそうですが、基本的には何もしなくともスキルの恩恵にあずかれます」


 この辺り、ジョージのテキストにアクティブなどパッシブだのと書かれていなかったため千紗にとってだけははじめて聞く情報だったが、他には復習に過ぎない。


「先ほどからわたくしも何度かお見せしている《癒しの水》という奇跡などはアクティブスキルに、そしてわたくしの、というか、僧侶のパッシブスキルは、グラップルマスタリーです」

「グラップル!?」


 格闘、である。つまり先ほどのトンファーは杖と称しながらもあくまで格闘技の補助具として使うものであるらしい。ジョージには予想外のパッシブスキルだったが、逆に納得してしまう話でもあった。


 僧侶、あるいは僧兵が素手で戦う。似合う話ではないか。


「はい。グラップルです。

 それで、僧侶は就いた瞬間からいくつかのアクティブスキルを習得できます。剣士の方や槍使いの方は、オーラシリーズと呼ばれる、武器の特性を増幅させるスキルを一つだけ習得されるそうですが、我々僧侶は前線に出て戦う仲間を癒し、補助するためのジョブだといわれていますので、先ほども言いました《癒しの光》の他に、《水の飛礫》という、このくらいの大きさの水の塊を飛ばすスキルを使えます」


 カーラは親指と人差し指で丸を作って大体の大きさを示した。


「実際に見せてもらう事は?」

「できますが、的がありませんと……」

「じゃ、アレで」


 どうやら攻撃対象が居なければ発動させられないという条件があるようだ。ジョージが、いつもトゥトゥルノが投擲練習に使っている的を指し示す。


「あっ、はい。では、《水の飛礫》!」


 水の塊の出現に半秒ほど、弾速は矢と同じくらいだろうか。慣れれば目視で避ける事も出来そうだ。


「威力は、今のが?」

「いえ、今回は加減しました。けど、全力を出してもあの的を壊す事はできないでしょうね。なのでわたくしがこのスキルで倒せるモンスターは多くありません」

「なるほどな。他にも僧侶が使えるスキルはあるのか?」

「いえ。ちょうどそこを説明しようとおもっていました」


 そう言われたところで、ジョージは自分が頼んだのが彼女のスキルについての説明ではなく、あくまでジョブとスキルに関する全般の講義であった事を思い出す。


 質問タイムが来るまで余計な口出しはするまいと反省しながら、頷いて続きを促した。


「前衛で戦われるジョブの方々と違い、僧侶のジョブは特に信奉します神によって大きく特色が変わります。わたくしが敬愛しますルーカランラ様ですと、癒しに特化しますし、ウッポラ様ですと守り、スミノース様ですとその通り炎に特化されるようです」


 宗派、という言い方で正しいのかはわからないが、それによって得意分野が変わってくるようだ。炎に特化という辺りには解釈がわかれそうだが、いかにも火力の強そうなスキルが揃って居そうではある。


「もっと複雑なのは魔法使い系のジョブの方々です」


 系、と括るからにはおそらく種類があるのだろう。また詳しく聞きたくなったが、さきほどの反省からジョージは黙って聞きに徹する。


「魔法使い系のジョブでは、就いただけではアクティブスキルを習得する事ができません。魔法は魔法として習得の段階から自らの意思で努力しなければ使う事ができないもののようですが、パッシブスキルの恩恵はいくつかあります。

 《魔力感知》と《魔力操作》のふたつが、今ある大きな魔法使いギルドが公開している魔法使いジョブに就く事ではじめから習得できるスキルでして、《魔力感知》を意識して習熟すると《魔力視認》というパッシブスキルが新たに習得できるそうです」


 自身の専門でないところで伝聞調が多くなるのは彼女の誠実さの表れなのだろう。今は教師役をつとめているので、必要な部分は言い切ってしまった方が聞いている側も不安がなくていいものだが。


「魔法を独自に編み出す方法は、おそらくわたくしよりもジョージさまの方がお詳しいかと存じますが、これら二つ、ないし三つのスキルがその習得に際し大きな助けになる事は間違いないでしょう

 魔力の動き、というものは神の奇跡をスキルとして使わせていただいているわたくしたち僧侶にとっても重要なものですから」


 先ほどの《水の飛礫》の威力を加減したというのも、独自に魔力の操作を行ってした事だろう。ロックも《オーラスラッシュ》使用時にさらに魔力を追加する事でそれまでにない威力を出せるようになったし、同様の事をアラシも練習中で、少しだけ効果をあげている。


「それで、確かジョージさまがお聞きになりたいのは、スキルの効果範囲、でしたね?」

「そうだ。切欠になった、カーラの持ってるそれを杖と言っていいのかというのは置いといて、たとえば《ソードマスタリー》のスキルならばどこまでを剣として扱い支援するのか、そういう所が知りたい」


 アラシの説得(物理)のためにロックとアラシがスタンドライトで決闘まがいの試合をした時は、両者ともにマスタリースキルは適用されていなかったようにジョージには見えた。実際に戦っていた二人も同様で、いつも使っている剣の武器と違って扱いづらく、腕力で強引に振るうしかなかったと言っている。


 しかし、いつも訓練中に使っている木剣もほとんど鈍器という点では同じはずだが、しっかりと《ソードマスタリー》スキルは適用され、場合によっては《オーラスラッシュ》も使う事ができる。木の剣に切れ味などはないというのにだ。


「この辺り、じつはスキル学者の間でも意見が割れていまして、確かな事はわかっていないのですが。使い手がこれは剣だと思えれば剣、それ以外だと思ってしまえばそれ以外にしかならない。というのが今の定説になっています」

「んん。んー?」


 そんなにアバウトでいいのだろうか。と思った一方でジョージは違うのだと直感する。


 以前に、ジョージは自力で少しだけ自分のジョブの特性について知った事があった。


 知った、というよりも自然に頭の中にわいて出た、あるいは一度も見聞きした事のない知らなかった筈の情報を思い出したと言ってもいい。


 本来のダンジョンマスターというジョブの特性と、《ダンジョンマスタリー》というパッシブスキルの事。そういったスキルへの知識が、はじめからそこにあったのだ、と頭が認識したのである。


 この捉え方の違いこそがジョージの直感の根拠となった。


 つまり、スキルの効力はスキルの持ち主の無意識のうちに効力を発揮するものである。ジョージが認識できたのはほとんど偶然に近い。ジョージの性格からずっと気づかないまま使い続けるという事は考えづらいが、産まれた時からジョブやスキルが当たり前に存在していたこの世界の人々は、深く考えずに使い続けるだろう。


 無意識に働きかけ、ジョブに就いた瞬間からその効果は現れる。


「(これは、逆に、スキルが人間の行動を決めているとは考えられないか?)」


 ジョージはそれを口から出すのを寸で堪えた。


「どうかなされましたか?」

「いや、なんでもない。続けてくれ」


 ついさっき出会ったばかりだというのにカーラはジョージの表情の微妙な変化を読み取ってきた。だが講義を進めさせる。もし直感が正しければ、神への信仰を根底から揺るがしかねないからだ。


 神が人間にダンジョンを攻略させたがっている、というのはまだジョージがレドルゴーグの法律を学んで感じた事だった。それは、神がなぜ人間にジョブとスキルを与えたのかという疑問にも通じる答えである。


 神は人間にダンジョンを攻略させるための力としてジョブやスキルの加護を与えている。そう考えられる。


 では、ダンジョンと神の関係は?


 一つ、答えを見つけたような気がして、同時に湧き上がる新たな疑問。


「それでは、もう少し具体的に、パッシブスキルの効果範囲を探って見ましょうか」


 自分で勝手に疑問を作っているジョージの顔をみて、カーラは自分の講義が説明不十分なのだと解釈した。


「ジョージさん、一つお手合わせ願えますか?」

「ん? 手合わせ、って。なるほど」


 いったん、自分の疑問に没頭するのをやめてカーラを見直すと、手に木剣が握られていた。


 カーラは、ジョージを巻き込んでスキルについて実演をするつもりであるようだ。

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