020-ジョブ アンド スキル おさらい! -1-
イレギュラーな新メンバーを迎えたディアル潜窟組合だったが、考えてみればジョージの加入から始まって、アラシ、元強盗団の六人に加え千紗もよっぽどイレギュラーな加入であった。いまさら予定になかった僧侶が一人増えたからといっていったいどんな不都合があるのか。
ようやく状況を飲み込んで冷静になったジョージはなんとかカーラの存在を受け入れた。
すると、自分が寝不足であった事を思い出し急に体が脱力するとともに、自分と違ってしっかり寝ている筈のワケアリ新人六人たちの顔色が悪い事に気づく。
「どうしたお前ら」
「あ、いえ」
全員が、なんとも申し訳なさそうな顔をしているなか、六人を代表して返事したのはモンドであるが、結局言いよどんだのであまり意味がない。
そんな六人とはまったく対照的に元気いっぱいのカーラが前に出た。
「さっそくわたくしがお役に立ちましょう!」
何らかの神の奇跡を使い光る手を、順に当てて診察していく。
「なるほど、皆さん過労ですね!」
バン! と効果音でもつきそうなほど派手に胸を張り、カーラが下した診断は実に単純だった。
「成長を伴う疲労には神のご加護でもあまり多用してはいけない事になっています。少なくとも今日は十分に体を休めましょう」
つまり、今日の訓練の中止の進言である。六人にはカーラがまるで天使のように見えた。
「んぁ、そういやここ10日近く、まったく休みなしでダンジョンに潜ってたな」
いまさらながらジョージもこの一週間の間に彼らに課してきた訓練内容を思い出す。
ロックとアラシも文句を言わず、平気な顔でついてきているからまったくきづかなかったが、まだ潜窟者になりたてで、一番年下のトゥトゥルノにいたってはまだ千紗と同じ十三歳。肉体の疲労だけならばまだしも、精神的にも常に緊張を強いられる状況におかれていれば、それは心身ともに相当なストレスだったはずだ。
「俺が居た世界でも、よほどの職場じゃなきゃ七日に一日は休みの日を取ったもんだ。すっかり忘れてた。スマンな。これから日帰り限界線に挑めるくらいになるまでは、ちゃんとスケジュールを組んで訓練するようにしようか」
なにせモンスターから生気を吸って体を頑丈にできる世界だから、その辺りももっと融通が効くようにできていると思っていた。
しかし神託を受けてここに居るというカーラでさえ休めというのだから、きっとそういう事なのだろう。
「だが! ダンジョンに潜らないだけだ、いつものウォームアップだけはやる! 雁澤さんも、さあ鍛練場へ行け!」
それでも、ジョージはやはりジョージだった。
結局完全な休みとまではならなかったものの、この後あの気の休まらないダンジョン探索が待ち受けてはいないのだというだけで、六人のやる気は段違いだった。
いつもの五倍の速さでウォームアップのノルマを終わらせると、さすがにオーバーペースすぎたようでかなり疲れた顔をして、微妙な顔をしているジョージの横をよたよたと歩いてそれぞれの寝室へ戻っていく
ちなみに彼らが寝床として使っているのはギルドホールのエントランスから鍛練場へつながる廊下にある部屋で、以前は物置として使われていた場所だ。
現在でもほとんど物置のようなものだが、ひとまずは各部屋に三人ずつ眠れるだけのスペースが確保されている。
ロックの部屋にヒュールゲンが間借りし、一つ目の倉庫をモンドとスドウドゥとトゥトゥルノの三人が、二つ目の倉庫をマールとカルサネッタが共同で使っている。
ランナの部屋はギルドマスターの私室という事で同居人は居なかったが、現在は千紗が一緒だ。ジョージは千紗の体調が本調子に戻り次第、マールとカルサネッタの部屋に移ってもらうつもりだったが、ランナが現状で良いと言っているので今のところ部屋を移る予定はない。
「うん、まあ、お疲れさん」
ジョージは、今こんなにバテてまで休みたかったのかと思う一方で、いつもの五倍の速さで片付けられたウォームアップのノルマを考え、次からは五倍とまではいかないまでも二倍くらいには増やしてもいいかもな、と考えた。
ちょっとはりきりすぎただけで明日以降の訓練がさらに厳しくなるとはいざしらず、ワケアリ六人は久々の休日を満喫するのだった。
「さて、じゃあ何をするかね」
ジョージもちょうど寝不足だ。急に空いたこれからの予定をどう埋めるか考えると、寝る、というのが妥当である。
しかし急に更に増えてしまった新メンバーである僧侶のカーラの実力も気になる所で、先ほどの診察やジョージの肩こりを取った時のちょとした神の奇跡を見る限り、それなりの使い手であるようではある。
「カーラは、癒しの奇跡が得意みたいだが、戦闘はできるのか?」
「はい! これでも僧侶の端くれ、杖か素手、好きな方をお選びください!」
「え、俺が選ぶの?」
なんだかよくわからないノリにまだ慣れないジョージ。
ひとまず同じギルドに所属するギルドメンバーで、なんだか自分に付き従う事になったというところまでは飲み込めたのだが、呼吸のリズムがまだほとんどつかめない。
「その時々に合わせて指示してくだされば、いくらでもそのように!」
「あぁ、そりゃそうだね。杖ってのは、今は持ってないみたいだけど」
「いえいえ、これです!」
バッ と勢いよく袖がめくられる。そこにあったのはなんと、ジョージがよく知る武器だった。千紗もそれを見て目を丸める。
「トンファー……」
僧服の袖の内側に細工がしてあり、普段はそこにすっぽりと収まるようにできているようだ。まるで暗器である。
「あのな、それ元は石臼の取っ手だから、杖っていうよりは棍棒に近い、器具、だぞ?」
「いしうすー?」
トンファーの起源が何であるかはともかく、杖であるという部分を否定したのだが、都合のいいところでアホの子になるカーラ。きっと杖の扱いが上手くなるようなパッシブのマスタリースキルを持っていて、スキルがトンファーに適応されなくなるのが怖いのだ、などとつい邪推してしまったジョージだったが、ふと気になってしまう。
神々が定めたスキルという加護があとから効かなくなったり、効果範囲が変わったりする事はあるのだろうか。
「そういやスキルの効果ってどうやってみるんだろう。それみたいにどの系統に分類されるのか微妙な武器も、どうやって判断してるんだ?」
「スキルの効果だったら姉さんが見れるっすよ」
「ああ、そういやギルドマスター専用のスキルがあるんだっけか?」
いまさらながら思い出す。
「姉さんは、その、ああいう性格ッスからね。面倒くさがってオイラ一人の時ですらあんまり見てくれなかったけど」
「ふぅむ。俺はどうもまだ、このジョブとかスキルってシステムに慣れてないらしい。上手く使いこなせてる気がしない。この際だから一度勉強しなおすか。神の奇跡を使うプロも来た事だし」
どうやら今日の予定が決まったようだ。
「さっそくでスマンが、教師役、たのめるか?」
「はい! なんでもこのカーラにお任せください!」
頼もしく胸を張るカーラ。しかしジョージは一抹の不安を抱える。
こうして、なんとなくまだ鍛練場に残っていた千紗と、ついでにモンドも呼びつけて、ジョブとスキルをはじめとした神の加護についての勉強会が始まった。




