プロローグ
まさしく自然が成したであろう不規則な起伏があるのみのただ広いだけの平原に、その真っ黒なロングマントは空気から溶け出すように唐突に現れた。
頭から脚の爪先までスッポリと覆う真っ黒なマントはフードつきで、フードは白地に赤い隈取のある何か獣の顔を模した仮面と一体化している。仮面も含めればそのマントはたった一枚で主の全身を覆っていた。
はじめ風のように軽かった足音も溶け出した色や実体が確と定まればしっかりと重いものになった。完全にその“身体”が定まった時、真っ黒マントはふと足を止めて真っ白仮面を上下左右に振って辺りを見回す。
見渡す限り、平原にあるものは地形そのものと野生動物と思われるそれらの気配のみ。真っ黒マントはそのマントの隙間からそっと片手を出す。
皮膚に覆われた手は五本指で、肌の色は始終そんなマントをまとっているせいかやや青白い。肉付きは薄く男でも女でも通る程度の細さしかなく、手だけで性別はわからない。
真っ黒マントがしばらくの間マントから左手だけを出したままじっとしていると、唐突にその手のひらから火が出た。手そのものが燃えているわけではなく、空に向けられた手のひらから少し上の空中で何かが燃えている。
手品か魔法か。
ともあれ出でた火の手ごたえを確かめるように真っ黒マントは右手もマントからぬっと出して空中で燃えていた火を握り消すと、手そのものの調子も確かめるように何度か握って開いてを繰り返す。
そんななかではたと空を仰いだかと思うと、手から火を出した時よりも唐突に、空へ飛び上がった。
マントがはためく事もなく、はじめからそうできる事が当たり前であるように。
プロローグは文章少なめ