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その日は、訳のわからない日と言ってもいいほど訳がわからなかった。
たとえば、
「おはようございまーす」
教室に入って挨拶した時。
「………」
完全に無視された。
ちょっとイラっと来たけど、別に気にしなかった。
それから話しかけてもなにも答えてくれないし。
ここまで来ると、一つしか思い浮かばない。
あれだ。なんて言ったっけなー………。
いじめ? だったっけ。
あと、体育の時間。
体育の藤沢先生指導のもと、校庭6周。
藤沢先生はものすごくごつくて怖い顔をしていてサボるものは誰もいない。
当たり前かなぁ…。
「あだっ」
走っている途中、隣を走っていた琴音さんに足をかけられた。
「あら、ごめんなさい」
汐川 琴音―――――。
今にも高笑いをしそうなお嬢様である彼女は、私の嫌いなタイプだった。
ごめんなさいと心から思っているように見えない。
朝の出来事に続いてこれだったから、いらつきまくっている頭でこう言った。
「悪い足ね、琴音さん」
「…なんですって?」
琴音さんの眉が上がる。
ちなみに、この言い方は幼児を叱る時に効果的だったりする。
ふん、私だってイラついてんだよ!
少しぐらい発散させろ!
というわけで。
「悪い足は、くじくのが一番だわ」
それだけ言って、校庭6周の続きをまた走り始める。
「…な、」
琴音さんの言いかけた言葉は、最後まで聞かなかった。
だって発散だもーん。言い返す言葉なんて聞かなくてもいいもーん。
追いつこうと頑張っている琴音さんを見て、私は笑った。
いじめられてそのままでいると思ったか!
へへっ、バーカ!
いじめられているはずなのに、気分は清々しかった。
* * * * * * * * * *
今日も狭山先生と一緒に帰った。
昨日は先生の話を聞いたけれど、今日は愚痴った。一方的に。
先生の反応はというと。
「クラスでそんなこと起こっていたの? 皐月さん、ごめんなさいね…先生、気づけなかったわ…」
かなり落ちこまれてしまった。
話したことを少し後悔する。
「別にいいんですよ。私の発散にもなりましたしー…」
「あんまりキツイ時は言ってね?職員寮の先生達は、みんな味方よ」
その言葉に、じーんとした。
職員寮のみんなが味方かぁ……。
…職員寮に入って、良かったなって思うのはこういう時だと思う。
というか。
職員寮のみんな、と聞くと…。
祐樹さんも、職員寮のみんなにはいるわけで…。
「あ、そうだわ皐月さん。今日の夜ご飯の当番、私なんだけど…何がいい? 食べたいものとかないかしら?」
話変わるの早すぎだと思います狭山先生…。
なんでそんなに切り替え早いの?
ま、いいけど。
「夜ご飯の食べ物ですか…。あっさりしたものが食べたいです」
「…あっさりしたもの?」
「はい。」
あっさりしたものねぇ…と考え始めた狭山先生を横目に、私は空を見上げた。
カラスだかなんだかわからない鳥が飛んでいる。
明日も続くのかねぇ、いじめとかいうやつ。
いじめじゃない気がしたけど。
逆に私がいじめてる気もしたけど。一部分だけね。
風西先生とか、田代先生にも相談してみようかな。
そう思い始めた頃、職員寮に着いた。
外はまだ明るいけれど、夕ご飯の支度は始まる。
さて、今日も手伝って、授業時間か宿題を減らしてもらうぞー!
…違った。職員寮の皆さんのために頑張るぞー!
ちなみに、今日の夜ご飯。
秋刀魚と大根おろしだった。狭山先生のあっさりの基準は、それくらいらしい。
大根おろしは、甘くておいしかったけど。
秋刀魚は、季節はずれだよねぇ……。