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朝起きると、職員寮の一階にある洗面所に向かう。顔を洗うためにとタオルを持参して。
私の部屋は二階。階段の段差に気をつけて降りつつ、昨日、風西先生、田代先生と話したことをふっと思い出した。
実をいうと昨日の夜に田代先生が作った卵焼きが意外においしく、そのことを今の今まで忘れていたのである。
ダメじゃん、自分!
自分につっこみを入れつつ、例の三年生について考える。
魔術師…マジックでもするのかね? ポーカーフェイスっても言ってたけど、ババ抜きとか得意なんだろうな…。…あれ?
寝ぼけてるんだ。そうに違いない。
思考が変な風に傾いてきているのをそう決めつけ、さらに深く考えているうちに、洗面所に着いた。
「おっはようございまーす」
誰もいないだろうけど、と思いながら、挨拶をかけて中に入ると。
「…っ!」
ひって言うのを必死にこらえた。
そこには、たぶん昨日言ってた三年生。
魔術師。ポーカーフェイスの人が、眠そうな顔で立っていた。
「…おはよ」
…なんか普通に挨拶が返ってきた!?
その場に硬直していると、歯磨きをしていたその人は鏡に映った私を見て少し、目を細めた。
「使えば?」
そう言ってその人は、自分の隣の洗面所を指す。
「う、あ…はい」
なんか私は混乱していて、指されたところまでロボットのように進んだ。
「何もしないって」
なんかされそうで固まってた訳じゃないけどね?
びっくりしただけ!
よくわからない言い訳を自分にやって、今度は洗面所の前で硬直。
「…………」
で、どうすればいいの?
硬直の理由はそれだ。
その迷いが顔に出ていたのか、その人はくすくすと笑い始める。
「君、何をしに来たのさ?」
「え、と、顔を洗いに」
「やればいいじゃん。そんなに俺のこと気になる?」
「…はい?」
顔を上げると、鏡の中の彼と目があった。
漆黒の瞳。
目が合うと同時に、離せなくなった。
ほんとに、どうすればいいわけ?
「あーもう、意味わからないし…!」
小声で呟く。顔が引きつった。
その顔を隠すように、顔を洗う…というより、こすった。
「皮むけるぞー」
…彼はこんなに楽しそうなのに。
未だにパニック状態から抜け出していない私は何。
もう、しゃきっとしろ!
自分に命令して、顔を拭いて、鏡の中の彼を見る。
「教えてください」
「…は?」
その人は、歯ブラシをくわえた状態で静止した。
さっきの私と同じ感じ。
「名前です!」
「あ、俺?」
「…それ以外に誰がいるんですか?」
「…いや、鏡の中の自分に話してんのかなーと」
「…じゃ、こうで」
なんか悔しくて、その人の方を見るために横を向いた。
足から。首だけなんておかしいと思うし。また何か言われそうだし。
「祐樹。横内 祐樹」
「…ゆうき」
「お前は?」
うっかり呼び捨てにしたのを、祐樹さんは咎めなかった。
「上川 皐月」
「皐月ね…ツキか」
「…ツキ?」
祐樹さんは歯ブラシを洗ってから口をすすぎ、出口に向かって歩き出す。
「お前のこと、ツキって呼ぶから」
「……。」
ねこみたいと思ったことは言わないでおこう。私が悔しくなるから。
「んじゃ、また会おうな」
それだけ言って、祐樹さんは部屋に戻っていった。
…なんだったんだろう。なんか狐に化かされたみたい。
廊下を見てみたけど、もういないし。
ていうか、また会おうな…って。
「また、会えるんだ」
そう自分で言って、慌てた。
これじゃあまるで、私がまた会いたがっているみたいじゃん。
…朝からなんなんだろう。
私は少しだけ洗面所の掃除をして、朝ご飯を作っている田代先生の手伝いに行った。
それに、伝えなきゃいけないし。
先生、確かに魔術師っぽかったです! って。
まぁ、ポーカーフェイスじゃなかった気はするけど。
あけましておめでとうございます!
今年も投稿頑張ります! ………それなりに。
よろしくお願いしまーす。