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風邪を引いてみたい

二時間も待ち合わせ場所で待たされたくせに、全く気にしたようすもないルナ姉。

「水飲む?」とか、心配そうな顔で訊いてきちゃう。

俺は小さく頷くことしかできなかったよ。

トコトコと台所のほうに駆けてゆくルナ姉の背中を見送りながら、申し訳なくて泣きそうになる。

たしかに、昨日から予兆はあったんだ。

夜、ちょっと喉が痛いと思ったけど、無視して遅くまで起きてたのがいけなかった。

朝になってみると、咳は止まらないし、すごい寒気もする。

目覚まし時計を見てみると十時半。

すでにルナ姉との待ち合わせに三十分の遅刻だよ。

慌てて飛び起きようとしたけど、頭が重くて起き上がれないでやんの。

連絡のしようもなくて、ただ天井を眺めるしかできなかった。

今頃ぷんすこ怒って帰っちゃってるかもしれないね。

心の中でルナ姉に謝りながら、俺は目を閉じたんだ。

ときどき寝返りを打つと、体のあちこちが何となく痛い。

頭はもやがかかったみたいにぼんやりして、それでいてキンキンと歪むような感覚がある。

俺はいつの間にか眠っていたみたいで、目が覚めたらそこにルナ姉が座ってるわけ。

最初、俺は死んじゃったのかと思ったよ。

天使と見間違えるくらいルナ姉は神々しかったんだ。

やさしく「大丈夫?」とか声をかけてくれるルナ姉。

俺はどうしてルナ姉がここにいるのか訊こうとしたけど、声が出なかった。

喉をやられちゃったみたい。

それを察したルナ姉は「声、出ないの?」って尋ねてくる。

こくこくうなずくと、「ちょっと待ってて」って言って、ルナ姉はどこかに行っちゃった。

しばらくして戻ってくると、布団の横に紙とペンを置くわけ。

「用事があったら何でも言って」だってさ。

元気だったら、ルナ姉の髪を触らせてほしいとか、ルナ姉のふくらはぎをつっつきたいとか書いたけどさ、今日はそんな気力もない。

健康の大切さを痛感したね。

俺はとりあえず、デート中止ごめん、って書いたんだ。

もう文法的にめちゃくちゃだけど、これが限界だった。

ルナ姉は「気にしないで。それより今はゆっくり休んで」だって。

よくできた騒霊だよね。

お言葉に甘えて眠ることにするよ。

おやすみ、って口パクで言ってみたら、「うん、おやすみ」って返ってきた。

ちゃんと伝わってるんだと思ったら、すごく安心して眠れたよ。

きっとルナ姉のことだから、寝てる間にいろいろしてくれてたんだよね。

おでこを冷やすタオルを替えてくれたり、ずれた布団を掛け直してくれたりしたんだと思う。

そしてずっと、そばにいてくれたんだ。

ずっと隣で、見守っていてくれた。

だからこんなに、おだやかに寝ていられたんだね。

俺が次に目を覚ましたとき、横に座ってるルナ姉がウトウトしてたんだ。

あのときの油断しきった顔は忘れられないよ。

ルナ姉の寝顔を見たら、とても元気が出た。

しばらく見つめていると、目が開いて「あ、起きたの?」だって。

同じことを言ってやろうかと思ったよ。

ルナ姉は「ちょっとよくなったの?」ってほほえむ。

たぶん俺がニヤニヤしてたからそう思ったんだね。

でも俺が笑ってたのは、ルナ姉の寝顔がかわいかったからなんだ。

口に出しては言わないけどね。

「何か食べられそうなものある?」って尋ねられたから、紙に、ルナ姉、って書いた。

そしたら「もっと元気になったらね」だってさ。

俺はこの言葉を忘れないよ。

具合がよくなったあかつきにはルナ姉をおいしくいただくことにしようか。

こう見えても約束は守る男なんだ。

デートの約束は守れなかったけどね。

いつの間にかいなくなってたルナ姉が、茶碗とスプーンを手に台所から戻ってきた。

「おかゆ作ったんだけど、食べられる?」って、いつ作ったのかわからないけど、さすが用意周到なルナ姉だね。

俺がうなずくと、ルナ姉はスプーン一杯のおかゆをすくう。

それをフーフーしてくれたんだけど、ルナ姉の息がこっちまで吹いてきてくすぐったかったよ。

そんでもって「あーん」とか言ってきちゃうルナ姉。

意外とルナ姉もこの状況を満喫してるのかもね。

俺が口を開けると、スプーンを口元まで運んでくれる。

ルナ姉に食べさせてもらって、夢心地がどういうものかを学んだよ。

「おいしい?」とか尋ねてくるルナ姉に、こくりと頷くと、「よかった」だって。

いまさらだけどルナ姉の笑顔を見ると落ち着くね。

なんだか少しだけ、心も体もあったまった気がするよ。

口をぱくぱくしておかゆを催促すると、ルナ姉はまた口まで持ってきてくれる。

はふはふしながら食べていると、あっという間に完食しちゃって、「もうないよ」って言われた。

ルナ姉に食べさせてもらうと何杯でも食べられそうだね。

そういえば俺はおかゆがキライだった気もするけど、すっかり忘れてた。

ルナ姉に食べさせてもらうおかゆは本当においしくて、おかげで好き嫌いがひとつ減ってしまったよ。

今日はおかゆ記念日だね。

ルナ姉が食器を片付けに行ってる間に、俺はその喜びを表現しようと思ったんだ。

ペンを持って紙としばらくにらめっこしたけど、何も思い浮かばない。

こういうときにアホな脳みそは不便だよね。

急がないとルナ姉が戻ってきちゃう。

いっしょうけんめい考えたあげく書いたのは、ルナ姉大好き。

でも事実だからしかたないね。

書き終えると同時に戻ってきたルナ姉に紙を渡す。

やっぱりちょっと照れくさいね。

それは受け取ったルナ姉も同じみたいで、「どうしたの、急に」とか言われたよ。

そんなふうに言いながらも、ルナ姉は返事を書いてくれるみたいで、紙を持ったまま悩みはじめたんだ。

なんて返ってくるかドキドキだね。

思った通りルナ姉もなかなか決められないらしくて、真剣に考えてるルナ姉の顔はやっぱりたまらなくうるわしいよ。

でも俺はそんなときに気づいたら寝ちゃってて、熱があるときはいくらでも寝られるんだって痛感した。

まあ、普段からいくらでも寝てるけどね。

起きたら枕もとに紙がおいてあって、見てみたら「買い物に行ってきます」ってさ。

まさか返事がこれじゃないよね。

そう思ったけど紙にはこれしか書いてないの。

帰ってきたらまた書いてくれるのかな、と思って何気なく紙を裏返してみた。

そしたらそこには、端っこに相合い傘が書いてあるの。

もはや懐かしいよね。

これを見るのはたぶん小学校以来。

ルナ姉の不思議な発想に思わずニヤニヤしていると、玄関の方から「ただいま」って声が聞こえた。

ここは俺の家なんだけどね、と思いながら、傘の下、ルナ姉の横に俺の名前を書き込む。

ルナ姉が部屋に戻ってくると、また「ただいま」って言いながらほほえみかけてくれる。

こんなふうにしてもらえるなら、たまには風邪を引くのも悪くないね。

そのときはまた看病してくれるよね、ルナ姉!

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