少女は召喚されて、逃亡しました。
別に、世界が全てうまくいくだなんて思ってもなければ、死にたいと思うほど絶望してるわけではない。
ただたんに、愛憎劇なんて見せられてもバカじゃないのかって呆れるだけだ。
歪んでるのかもしれない。
だけれども、結局世界には絶対なんて言葉はないし、何が起こるかわからないものだ。幸せが永遠に続くなんて事はありえない。
たとえ、思い合って一緒に過ごしたとしてもいつか訪れる死で離ればなれになる。
冷めてるって言われた事は多い。だけど、それは別にいいのだ。冷めていようとなんだかんだで仲良くしている友人は居たし、充実してると言えるかはわからないけれど、ありふれた普通な日常を送っていた。大切だと思える人だっている。
思うように暮らして、働いて、結婚して、そして死ねればそれでいいと思ってた。
一生に一度の恋なんて夢見てもいないし、平凡に暮らせればそれでよかった。
それなのに、私は異世界に召喚された。
王の花嫁として。
それは高校からの帰り道だった。普通にただ友達とカラオケにいった帰り道。明日もいつも通りの日常が続くと信じて疑わなかった。
それがだ。いきなり足元に穴が開いたと思ったら落ちた。おかしいでしょ。明らかに非現実的すぎる
何が何だかわからないうちに、私は――、神殿のような場所にいた。
周りにいるのは、何の仮装かって聞きたくなってくるような面々。現代ではありえなさそうな、神官服に身を包んだ連中に、偉そうにしているきらびやかな服を着た男たち。
極めつけは私の足元にある魔法陣。
何これ、である。一言感想を言うなれば。拉致か。拉致なのか。しかもこれって仮装とかじゃなければ俗にいう異世界召喚ってやつと考えてうんざりした。
「……おお、成功した!」
「見事な黒髪黒目ですね」
関心するより、先にさ。謝るでもなんでもしてくれないかなと思った私は正常だと思いたい。だって人を拉致っておいてさ。謝罪もないってどういうこと?
ただの誘拐犯だよね。この人たち。と思いながらも私は冷めた目だ。
異世界召喚ものの小説が好きな友人がいて、読んでといわれて結構読んでたからなんだか向こうの思考わかるけれどさ。召喚成功喜ぶより先に謝るのが常識じゃない? ってぶっちゃけ思う。
というか、これ帰れるのか。帰れないとかいったら本気で拉致だし、最悪すぎる。
「あの…」
とりあえず、なぜか言葉は通じているらしいので(私が向こうの言葉わかるから)、声をかける。
そうすれば周りが一斉に私を見た。
「よくぞ参られました、王妃様」
喜んでいたうちの一人が、私の声を聞いた後いった。
それは上品だけれども高そうな服装を身に着けた文官っぽい感じの人だ。
「はい?」
というか、なんていった。王妃? 何、拉致した挙句に結婚を強要されなければならないってこと?
「わけがわからないでしょうから、一から説明させていただきます。まず、この方が陛下であるディーク・カサドラであり、あなたはこの方の王妃として呼ばれたのです」
「余がソル・カサドラである。美しい娘よ。そなたは余の花嫁として此度、この場に召喚された。運命の糸で結ばれて――」
なんか言い出してしまっている陛下…要するに王様の言葉なんて私の耳に入ってすぐ出ていく。
いや、だって、運命って何? 要約すると異世界からの花嫁召喚で呼び寄せられた女は運命の花嫁と呼ばれて、国に繁栄をもたらし、王と恋をし幸せになるものらしい。
目の前の男も、私と幸せになれるはずだと信じて疑わない様子。いやー、ない。拉致しといて謝りもせずにふざけたこと抜かしているとかさ。しかも私運命とかんなもの信じてないし、むしろ白ける。王様がいくら美形だろうと、私って現実主義者だもの。
そんな甘くて聞いてるだけで「何いってんのこいつ」と思うようなこと言われてもさ。ときめかないっつーの。これはあれね。友人にやらせられた乙女ゲーの攻略キャラ的な感じね。歯が浮くようなセリフをよく言えるものだわ。
「永遠の愛を誓おう。だから、余の手を取ってくれないか」
長々としゃべっていた王様は突然そういって手を差し伸べてきた。何その決め顔、とあきれた私は悪くない! 鳥肌が立つ。永遠の愛って何。初対面の女にそんな風に言えるとかないわー、これ、この人ない。絶対無理。
いずれ結婚したいとは思っていたけれどさ。ない。この王様と結婚とかない。むしろ萎える。
というより、ただの一般市民に王妃なんて大役任せようとするなんて正気じゃないだろ、この国。私は高校生である。王妃としての仕事なんて知りもしない。そういうのはどこに嫁いでもいいように教育されているお嬢様とかがやるべきだろうと正直に思う。
政治・経済の教科も苦手だった私にそんな大役を求めないでほしい。社交的でもないし、陰謀とかありそうだし、無理無理。いやー、漫画とか小説なら身分差恋愛もいいかもしれないし、一部では現実でもオッケーかもしれないけど、私的に現実では駄目。他人のことならいいと思えるかもだけど、当事者とかない。
「………帰れないんですよね? でしたら、とりあえず謝罪を要求します」
私は冷ややかな目で手を差し伸べてくる、なんていうかキラキラオーラ的なものを放ってる王様に言い放った。
その途端、空気が固まった。
王妃とか言ってるから、おそらく帰れないんだろうと予想できた。だって結婚でしょ? 普通に定住ってことでしょ? ふざけんなって感じしかしない。
「…謝罪とは、なぜ?」
「王妃よ、何か怒っているのか?」
私に話しかけた上品な人と、王さまがそんなことを問いかけてくる。
「私にも生活があり、家族がいて、友人もいるんです。無理やりここに連れてこられたも同然です。平たく言えば拉致されたも同然なのですよ? まさか、拉致されて結婚を強要されて、私が喜ぶとでもお思いでしたか?」
そうだとしたらあきれる。思わずはっとバカにしたように笑ってしまったのは、周りの面々が信じられないものを見るかのように私を見ていたからだ。
呆れる。都合の良いように行動してくれるとでも信じていたのか。
これで逆上して殺されるかもしれないけど、それならそれでこれまでの人生だったってだけだ。どうせなら自分の意思を貫いて生きたいから、嫌なのに言いなりになって生きていくなんて嫌だ。
「な、余とそなたは運命で結ばれているのだ。なぜそんなことを」
ぞわってくる。思わず悪寒が走る。さっきから運命だの言われても、正直引く。初対面に向かって運命がどうたら言ってる時点で頭おかしいんじゃないのこいつって思うの当たり前だと思う。
考えてみてほしい。いくら美形だろうと、初対面で結婚を強要され、運命だのいってるって最悪すぎる。
そもそも運命なんて信じていない私にそんなこと言われても冷めた気分になるだけだ。むしろこの王様頭大丈夫とか、頭いってんじゃないかとか思ってしまう。
「そ、そうですよ。あなたは召喚された花嫁なのですから、陛下に惹かれる運命にあるのです。今は召喚されてすぐだから混乱しているのでしょう。お休みになられてください」
なんかふざけたことを言っている男になんだろう、この人たちと思う。惹かれる運命って、初対面で最悪で頭おかしい、かかわりたくない、王妃とか一般市民に無理すぎる、運命とか信じてない、この人と結婚とか絶対ないと思っているのに惹かれるの。
何それ。精神に作用する洗脳とかでもあんの? 無理やりじゃない限り王様への印象最悪なんだけど。
謝りもしない時点で最低最悪…。誘拐犯の癖に。
あーあ、いつも通りの日常が待ってると思ったのにな。
何度否定しても「惹かれる運命」だの「混乱しているだけ」だの「余はそなたを愛しているのだ。手を取ってくれ」だの戯言を言う彼らに疲れた。
話が通じないとはこういうことだろう。
いや、本当に頭おかしいでしょう。幾ら好きではありません、と口にしても運命なのだとかいってくるし。謝ってくださいといっても、あなた様はこの国に来られる運命だったのですなどとほざく。いや、本気で私が混乱しているだけと思っているあたり引く。
本気で拒絶しているのに、嫌なのに。最悪。本当最悪。あんなのと無理やり結婚とかありえない。絶対嫌。幾ら美形だろうとやって許されることと許されないことがある。
そう思った私は、部屋に案内されてすぐに紹介された侍女を泣き落とした。
****************
ちょっと大げさに泣きわめいて、「結婚したくない」、「いきなりこの場所に拉致された」、「家族も友人もいたのに」、「拉致されて結婚強要されるなんて」と口ぐちに言い続けて侍女たちの同情をかった。
侍女達も私と同じ女である。
拉致されて、結婚を強要となれば思うことがあったのだろう。
きちんと皆さん同情してくれた。計算通り! ついでに侍女達以外の人たちも同情してくれた。侍女の子達に聞いたんだけど、この国の貴族って割と自己中というか、割と権力使いまくって酷い事しているらしい。
例えば平民で気に入った女がいた。家族がいようと関係なし、拉致。
いきなり結婚を強要、断っても無理やり結婚させられる。
気に食わない人間がいた。その場で死刑。
身分社会こわっと聞いて思った。ついでに言うと権力者達は、自分が求婚して断るのはありえないと思っているらしい。権力があって、金もあって、顔もいいあの王様は自分が声をかけて嫌がる女はいないと思っているちょっとダメな人らしい。
まぁ、私に運命がどうたらほざいてるけど。この国って色々大丈夫なのだろうか。絶対王政的なものっていつか崩れてしまうと思うし。
とりあえず、貴族の中でもまともな人たちもいるらしいけど。ちゃんと民衆の事考えて行動している貴族が。もちろんそういう貴族は評判がよくて、慕われている。
あの王様の評判は頗る悪いらしい。いや、有能なところもあるらしいけどね? でも基本的にこの国の王家って好き勝手やる人種らしい。
まぁ、王族だったら誰も逆らえないだろうし好き勝手に出来るからそういう風に育ってるのかもしれない。
私以外に結構強要するなら、わー可哀相って他人事で終わるけど、私に求婚されても非常に嫌すぎる。
というわけで私、しばらく具合悪いふりして話の通じない王様達は放置して侍女達にこの世界の常識やら色々教わりました。だって何も知らないのに逃げ出すっておかしいでしょう?
夜這いとか来られても困るので、しっかり侍女達に「来たら起こして。演技して、はぐらかすから!」と言い張ってました。だってヤられるとか嫌じゃない? 王様って話通じないちょっと駄目な人なんだよ? 経験ないわけじゃないけどさ。嫌な奴にヤられるとか、もうね、考えるだけで死にたくなるぐらい嫌なのよね。
この国本当に好き勝手やってたら国民達が反乱おこしそうだよね。滅亡しようがどうでもいいけど。ただ逃亡する前だったら周りが私を王妃扱いするから困りそう。だからその前にさっさと逃げなきゃね。
で、早速逃走経路を確認次第逃げようと思ったんだけど、
「え、あなたついてくるの?」
一人の侍女が私についてくるって言って聞かなかった。
その子は割とおとなしめの子で、この王宮に結構な年数勤めていたと聞く。子供のころに出稼ぎに出されたとかで。
「はい、行きます」
綺麗な銀色の髪に、茶色の瞳を持つ、美しいって言葉の似合う子だ。
何て言うんだろう、どんな服でも着こなしそうというか、どんなにみすぼらしい服でもその美しさを隠すことは出来ないというか…。そういう風に思ってしまうような子。
ラミアという名のその子は不思議な子で、私が泣きわめいた時に一番最初に賛同してくれた子だった。他の子達は戸惑って、色々と葛藤があるのかすぐには賛同してくれなかった。けれど、ラミアは真っ先に同情してくれた。
ラミアは不思議な子だ。
ついてきてくれる事を了承すれば美しく笑って、本当に綺麗だなと同性でも惚けてしまいそうだった。
それからラミアと共に逃亡生活が始まった。
逃亡生活が始まったのはいいんだけど、
「…えっと、ラミア?」
何故か私はラミアに押し倒されていた。何をやってるのこの子。
ちなみに野営中だったんだけどさ。え、何ラミアって同性愛者とかそんな感じだったの!? と私の中では何とも言えない気持ちが充満している。
いや、本当にわけがわからない。そんな私に、ラミアはいつもと違った顔でにやりと笑った。
「なぁ、瑠璃」
「えーと、とりあえず同性愛者なのかとか色々聞きたい事あるけどどいてくれる?」
「いーや、そんなもんじゃない。俺は――男だからな」
「はい?」
私はまじまじとラミアを見た。
月の光に反射する銀の輝きを持つ艶やかな髪は見ているだけで感嘆の息を吐いてしまいそうなほどに美しい。意志の強い茶色の瞳も、その真っ白な肌も、全てが美しさを持っている。
私の知るどんな女性よりも美しい女性とも言えるラミアが、男? そしてなぜ私は押し倒されているんだ。
「俺ね、あそこに密偵って入ってたんだけどさ。瑠璃の事気にいってんだ」
「……それは性的な意味で?」
押し倒しているってことはそういう感情でもあるのかと冷静になりながら、私は問いかける。
「うん。実家にはもう連絡してあるから、結婚してくんない?」
にっこりと笑ったまま、私の上に居るラミア。
何だか月の光に照らされているラミアは何処か幻想的だ。何でこんな綺麗なのに男なんだろうか。というか、私冷静すぎる気がする。押し倒されてるのに。
「……うん。まずは付き合う事からはじめよう。それからよ。結婚していいって思ったら結婚してあげる」
とりあえず、そういっておいた。元々地球に居た頃から告白されれば、絶対にこの人は無理だと思わない限り付き合っていた。あの王様はあれだ。何てうか、本能でこれは無理だなって一瞬で判断できるレベルだったから即却下だったのだ。
だって私永遠の愛とか言われるとなんか呆れる。そんなもの信じていないし。
私が言った言葉に、ラミアはどうしようもないほど嬉しそうな笑みを浮かべて可愛いなぁとドキッとしてしまったのは本人には内緒だ。押し倒されはしたけど、その後どいてくれたから、既成事実はない。大体此処外だし。
その後、ラミアの祖国にいってラミアが王の隠し子で隠密部隊で働いている事を知ったり、
そのままラミアと結婚にまで持っていかれて夫婦になったり、
私を召喚した国が滅んだりとしたけど…、
まぁ、なんだかんだでラミアの事気にいってはいたから、終わりよければすべてよしとしよう。
―――少女は逃げて、逃亡しました。
(そして、結婚して異世界で平穏に暮らしていくのです)
瑠璃。
永遠とか聞くと冷める。割とどんな状況でも冷静。
異世界召喚。花嫁として召喚されて全力で拒否して、逃げた。
ラミア
王の隠し子。侍女として情報集めてた。
なんだかんだで主人公を気にいって、惚れちゃう子。凄く綺麗。
うまく書けなかった気がします…。ちょっと寝ぼけながら公開ですので、あとからちょっと編集作業します。