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フェアリーパレス  作者: 梨奈
第1章:ジェファニー・クリスター
6/7

storry6~[ヤー酒]~





少年は、さっき頭をこすった時に使った、たわしとバケツの水を使い、コンクリートにある乾いた血を洗い始めた。



入口からは次々と生徒達が外へと出て行く。

ダズエル先生に挨拶をする声も微かに聞こえる。



少年は入口の近くをしゃがんで作業をしていたのだが、

少年を見て、馬鹿にする生徒は誰一人もいない。


と、いうより、まるで少年がいないかのような振る舞いだった。

生徒の目に入るところに少年はいるのに。


少年は特に気にしてはいなかった。それがいつものことだから。


赤いシミは簡単に落ちるので、すぐにその作業は終わるはずだったのだが、少年はシミが取れたところを無意識に磨き続けている。

さっきの声が不思議でならないのだ。



誰が?一体どこから…?


…分からない。




しかし奇妙な事に、少年はあの声を聞いたことがあった。いつ聞いたのかは分からないが、耳にしたことがあると、初めてあの声を聞いた時からそう感じていた。両親ではないことは確かなのだが。




ふと、少年は我にかえると違うポジションにうつり、作業を続けた。

血の後処理を終えた時には夕日が沈みかけていた。

少年以外の人影は無い。

少年の、学校入口へと向かう足音だけが静かに響いていた。




向かった先は近く、玄関から二階へと上がる階段の横にある掃除棚へと足を運ばせた。

そこから箒を取り出し玄関をはわき始めた。


ここから学校掃除を始める。



玄関掃除が終われば、箒をもとに戻して次の掃除場へと向かう。


一階にある6つの教室と2つのトイレ、二階にある4つの教室と3つのトイレ、そして最後に反対側にある校舎へと続く渡り廊下を箒ではわき、ゴミを、近くにある教室のゴミ箱に捨て、作業は終了。



左側の校舎は少年も含め、全生徒は立ち入り禁止なのだ。理由は分からない。

そのため掃除は右側の、教室のある校舎だけでいいのだ。



サボリは禁物。少年は一度もサボったことは無かったが、掃除をすっぽかして良いことがあれば何回でもするつもりだ。しかし、そうはいかないことぐらい少年にだって分かる。







少年が自分の部屋がある寮に戻ったころには真っ暗で月の光がぼんやりと浮いていた。曇り空だ。



いつもなら、寮の入口から二メートルほど離れたところにある平たい石の上に、食パンと水、またはみかんと水のどちらかが置いてあるが、やはり無かった。



少年は真っ暗な中、足元は全く見えていないまま階段をあがり部屋へと入った。例え目隠しをしていても、余裕で部屋に上がれる程、少年はその寮に慣れていた。




少年は固いベッドに横たわり、すぐに眠りについた。まだ濡れている制服を脱ぐことさえ忘れて。



夢を見ることもなく朝がきた。


少年はゆっくりと体をおこし、しばらくボーっと床を眺めていた。


「お腹すいた…」


そう呟き、ゆっくりとベッドから降り、部屋を出た。


まだ薄明るい外を歩いて

いつもの水道場へ行き、蛇口の水で顔を洗い、水をたらふく飲んだ。

ダズエル先生をはじめ、こんな光景を先生に見られていたら顔のアザが増えていただろう。

しかし、今は誰もいない。





少年は、その場から曇り空を見上げ、また水道の水を飲んだ。

すると次の瞬間、何やら重たいものが後頭部に激突した。拳骨のようだ。


少年はそのまま倒れた。

頭に激痛がはしる…

気絶する間もなく、髪を引っ張られ、少年は力の入らぬまま上半身を無理やり地から離された。



「朝から豪勢だなチャーリー・ケイム。綺麗な水は美味しいだろう。バケツの水は嫌だったかな?」


静かに重々しく少年に語りかけるその声の主は担任のマルドラ先生だった。

昨日の、黒板の件が少年の脳裏に浮かんだ。



「すみません…先生。…っでも、僕、凄くのどが渇いてたんです…」

髪を鷲掴みにされたまま少年が言った。

「バケツの水は嫌なんだな?」

「…はい」

「飲んだことはあるか?」

「あります…」

「美味しかったか?」

「…いいえ」

少年が答えていくウチにマルドラの表情が怪しくニヤけ始める。

「…そうか。お前は美味しい水が飲みたいのか。ならば私が取って置きの飲み物をのませてやろう」

そう言い、少年を地に叩きつけ「待っていろ」と言い残し学校の中へと入っていった。



「待っていろ」と言うマルドラのその表情は確かに不気味に笑っていた。少年はそれを見逃さなかった。



逃げる気もない。

逃げても無駄だという気持ちから、少年はそこを一歩も動かなかった。



処罰は受けた。

ガラスビンに入った赤紫色の液体を飲まされた少年は喉が焼ける痛みにさいなまれ、呼吸困難を引き起こした。マルドラ先生は笑っている。

症状は数秒で治まったが、声が出ない。そこで先生はこんなことを言う。

「五秒以内で謝れば処罰は終了だ」



合計三回飲まされた少年の喉は赤く腫れ上がっていた。

「さて。そろそろ生徒達が来る頃だ。鐘がなる前に教室にこなければ処罰を与える。これはお前だけではないぞ?他の生徒もだ」


マルドラは液体の入ったビンを持ち、自分でそれを飲みながら入口に入って行った。

そこからマルドラ先生が嘔吐したような声が聞こえた。それもかなり苦しんでいる。ただし「ヤー酒最高!!」と叫びながら。





授業が始まった。少年の喉や声はすっかり戻っていて、マルドラ先生も調子良く授業をしている。


ヤー酒が教卓に置いてあるのは不自然だが。




昼の12時まで二時間授業があった。その後生徒達は外に出て遊ぶ。

少年もその中に入り遊ぶことが出来る。


とくに「一緒に遊ぼう」などのかけ言葉は必要なく、ボールを蹴って遊ぶ生徒達の中に無断で入れば、それでゲームが楽しめる。



そして10分後干物が少年だけを呼び戻し、寮へと監禁する。その2時間後授業があり生徒は下校。少年は学校内の掃除。

そして寮に戻る。



昨日はダズエル先生の水道場の件とマルドラ先生の黒板の件。



今日はマルドラ先生に水道の件で処罰を受けて、昼頃干物の先生にゴム手袋をつけた手でひっぱたかれた。


明日はなにが起こるのかな…


薄れゆく意識の中、少年は今夜も夢を見ることなく静かに眠りついた。

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