storry:4~[黒板の文字]~
「茶色の髪をした男と女が、しょぼくれた姿の子供を我が学園、センチュリーア・ケイメスに連れてきた。男の名はトーマス・ケイム、女の名はリリア・ケイム、そして子供の名をチャーリー・ケイムだと男は言った。それに付け足し、息子を頼むと一礼した後、子供を置いて2人は消え去った。ちょうど十年前の話だ。」
少年の脳裏に、当時自分が二歳だったころみた両親の面影がぼんやりと浮かんだ。顔は分からないが声はかすかにだけ覚えていた。
『必ず迎えに行く』という父親の声を。
黒板の字は続く…。
「子供は薄汚いネズミよりも汚かった。生ゴミから生まれた“もの”に違いない。私はそう確信した。他の先生方も同じことを思っただろう。私達はすぐにそれを湯船につけ殺菌消毒をしたうえにすぐにあの寮へと…」
少年は読むのを止め、窓側に立っている先生の方を見た。
「どうした?チャーリー。」「先生。これはすべて嘘です。僕は最初からこんな仕打ちを受けてはいません!みんな優しかったです。すごくっすごく!!」
「それはお前の勘違いだ。妄想だ!!」
「いいえ!!違います!!妄想なんかじゃありません!!」
「お前のその記憶は、すべて私がかけた幻術だ!!」
少年は、真顔でそう言う先生をじっと見て何言ってんだこいつと呆れた。ホッとした。
これで黒板に書いてある内容がすべて嘘だと分かったのだ。少年は安心した。
「さぁ!!読め!続きを読むのだ!!」
先生はまだ言っている。
少年はさっきとうって変わって、上々に文字を読み上げた。
気分が晴れた。
内容を全て読み終えた少年は着席した。少しの間、沈黙が流れたが、マルドラ先生の奇妙な笑い声によってそれはかき消された。
「ぐふぁっ!!ぐふぁっ!!ぐふぁあっ!!…良い読みっぷりだった…。気持ちが悪いぐらい最高だったぞチャーリー・ケイム!!…さぁて…他の生徒諸君。これをノートにしっかりと刻んだかな?ふむ。よろしい。」
そう言ってまた笑い出した先生は、教卓にあった手帳を片手に教室から出ていった。授業終わりのチャイムはまだ鳴らない。
廊下に先生の姿が見えなくなってもまだ微かにあの不思議な笑い声は聴こえた。
教室は静かだ。みんな前を向いて姿勢良く座っている。
少年は少し眠たかったがぐっとこらえ、この空気の薄い中、皆と同じく静かにし、あの黒板に書いてある文章を眺めた。
少年の目線の先にはこんな文字が打ったつけてあった。
【男は女を殺したあと行方不明となっている】