srorry:3~[マルドラ先生]~
校舎は三階建ての木造だ。
校門から見て右側の校舎にだけ入口があり、左側の校舎へ行くには、右側の校舎と繋がった二階にある渡り廊下から出入りしなければならない。
生徒の教室はすべて右側の方にしかなかった。
少年は自分のクラスがある二階へと足を運んだ。教室は、階段を上がってすぐのところにあり、生徒が姿勢良く着席しているのが見える。先生は黒板に何かを書いていた。
【ガラ…ッ】
少年は黒板があるところと逆の扉から教室に静かに入った。生徒は微動だにしない。まるで少年に気付いていないようだ。
先生もとくに気にとめず、黙々と何かを書いていた。
少年の席はその入口の近くにあるため、黒板から離れており、廊下や教室を見渡すことができる位置にあった。
少年は椅子に腰掛け、机の引き出しから朝持ってきたタオルを取り出し、濡れた頭を拭った。それと同時にボロボロな数学の教科書とノート、短くなった鉛筆を取り出し、少年はノートを開いた。
黄ばんだノートにはぎっしりと文字や図がかかれていた。数学の式だけではない。英語の文章や動物の絵なども多数見られる。少年が開いたノートのページは残り少なく、左ページの犬のような図の下に文字がこう書いてあった。
『教P245、図21、コウモリ』
教室は相変わらず静かだった。息もしづらい。
聞こえるのは、こちらに背をむけた先生が黒板にチョークを打ったつける
【カッカカッガズッガッ】という音だけだ。
外はまだ曇っている。
少年は頭を拭いていた。ただなんとなく、黒板をみたくなかった。
自分の名前が何個か、書かれてあるのを見てしまったからだ…。
[ろくな事じゃない…]
そう思った。
すると先生が、こちらをまったく見ることがないまま
「チャーリー・ケイム!!!!」
と黒板に叫んだ。
少年はゆっくりと顔をあげ、先生の背をみつめた。
「はい」と少年が返事をするが早いか、先生の声が少年の言葉を遮った。
「黒板の文字を読め!!大きな声でゆっくりと!!…さぁ!早く立つんだ!!」
先生はまだ黒板の方を向いている。
少年は一言、
「先生。文字が見えません」と応えた。
「ならば前に来い。」
「…いえ…先生が少し左側へ移動をしてくれれば…」
一瞬、なぜか動きが止まった先生は、次にゆっくり窓の方へと移動をした。ここでようやく先生がクラスを眺めた。
体はガッチリしているが顔色は悪く頬骨が出ていて、髪は癖っ毛の上にボサボサだった。
左手はチョークまみれだ。上着にも白い粉がかかっている。
少年は立って、ナメクジがはった後のようなその文字を見渡した。黒板にぎっしりと何かが書かれている。
「さぁ!!読むのだチャーリー・ケイム!!」
だが、次の瞬間
少年は読むのをためらった。そこにはとんでもない事が書いてあったのだ。
「…そんな……まさか…っ。何で父さんが…!?」
黒板の内容をすぐには理解出来なかった。…理解したくなかった。
「さあ!さあ!!さあ!!!さあ!!!!早く読んでみろ!!」
先生が腕を組んで少年に叫ぶ。どこか楽しんでいるようにも見えた。
少年はそれでもためらった。が、少年は静かに口を動かし始めた。訳も分からぬまま…。
「茶色の髪をした男と女が、しょぼくれた姿の子供を我が学園、センチュリーア・ケイメスに…」
「声が小さい!!もっと大きく!!」
先生が怒鳴る。
「茶色の髪をした…」
「他の生徒はこれをノートに刻み込むのだ!しっかりと記せよ!!」
そのとたん、今まで身動き一つしなかった生徒達は、一斉にノートを開き、鉛筆を握り、黒板をノートに書き写し始めた。
その様子をみた少年は慌てふためいた。
「マルドラ先生!何でこれをノートに……。みんなには必要無い話ですっ!!」
そもそも、なぜ黒板に…。少年は先生の行動が許せなかった。
「さぁ!!最初から読め!!読むのだ!!」
先生は少年の言葉を無視し、早く読むように命令を続けた。
生徒達は音もなく黒板の内容を写している。
少年は嫌がったが、しだいに拒むのを止め、再び文章を読み始めた。