(6)若者たち
「ちょっと狭いけど、我慢してね」
とオレは申し訳なさそうに千姫に言うと、
「とんでもございません。父からも質素倹約を常として、母のように巫女として玉依姫様に仕えるよう言われておりますので、雨風がしのげるだけで大変ありがたく思っております」
ときたもんだ! オレが涙をぬぐうしぐさをしながら、
「かぁ~」
っとハナちゃんをみると、
「何よ。何で私を見るのよ!」
「い、いや、別に…」
とオレは慌ててお茶を濁した。
「ところで、寝る場所は私と姫様がロフトで、男四人はリビングでいいわよね」
「ま、それしかないだろうね」
オレの部屋は、10畳のワンルームに3畳ほどのロフトが付いたアパートだ。普段、狭いと感じたことはないが、さすがに六人も入ると手狭感は否めない。
夕飯を食べながら、オレたちは今日の出来事を整理してみた。
千丘寺で尼僧のババ様から寺伝と言われ、礼子様の形見の櫛を千姫が受け取った。
でも正孝の説によれば、櫛を持ったままだと元の時代には戻れない。
ではどうすれば戻れるのか、櫛はどうすればいいのか…
あれやこれや色々なことを考え、可能性を話し合ったけど、もっともらしい回答は見いだせなかった。
「ところで…」
ハナちゃんが言った。
「今更だけど、あのババ様、姫様のことを光明天皇の孫だって言ってたわよね。何で現代にいる姫様を見て700年前の帝の孫だって、わかったのかしら?」
「そりゃだから、その者強き射手を伴ってとか何とか言ってた言い伝えがあったからじゃないの?」
とオレが答える。
「にしても、にしてもよ、姫を見るなり疑いもせずに700年前の帝の孫だって言ったのよ? だいたい700年前の人間が現代にいることに疑いとか持たなかったのかしら?」
「うーん、確かに、言われてみれば…」
千姫だけはオレとハナちゃんの会話を、不思議ですね、という表情で聞いていたが、三人衆は晩飯に夢中のようだった。とにかく、色々な謎の解明には明日、また関係のありそうな場所を巡ってみるしかなさそうだ。
四人とも食事は気に入ってくれたようで、唐揚げやら、焼き肉やらを美味しそうに頬張っていた。
食事もひと段落したところで、
「一日歩き回って、汗もかいたろうから、女子チームからシャワー行っちゃえば?」
とオレが言うと、チーム? シャワー? チームとは何でしょうと源太が唐揚げを頬張りながら口をはさんできたが、オレとハナちゃんに華麗にスルーされた。
「そうね。じゃあたし姫様と一緒に入る」
「えっ!」
と声を上げる男四人。
「だって、姫様、髪の毛とかぼさぼさになっちゃったし、トリートメントしてあげようかと思って」
「と、トリー…?」
眉間にしわを寄せ見つめ合う正孝と源太だった。
ハナちゃんと千早がシャワーに行ってる間、残った三人衆のために、オレはTVをつけてやった。
ちょうど時代劇の映画をやっていたので、そのチャンネルにしたら、食い入るように見ていた。自分たちだって、元の世界に戻れば、同じような生活なのに。
風呂からは、ハナちゃんがトリートメントをしてあげてるのだろうか、千姫のいい香り~とか、気持ちいい~とかの声が聞こえてくる。
しばらくすると、何をしているのか、今度はきゃっきゃきゃっきゃと大はしゃぎの様子だ。オレは極めて平和な夜だと感じたのだが、三人衆にはそれが悲鳴に聞こえたのか、時代劇に集中していた一年と源太が、はっとばかりに刀を持って風呂に駆け込んだ!
こりゃまずい!と思った瞬間、
「何開けとんじゃ~っ!!」
とハナちゃんの怒鳴り声がして、投げた洗面器が、パコーンと見事源太に命中した。
まるでドリフだ、と思ったけど、オレはちょっと心強く、嬉しくもあった。昼間の学生救助の件もそうだけど、悲鳴を聞いたり、弱いものをいじめる輩を見つけた時に、見て見ぬふりをせずに立ち向かう、そんな侍たちをオレはちょっと羨ましく眺めていた。
源太は、頭を擦りながら、何も風呂くらいであんなに騒がなくても、と言っていたが、その後、一年、正孝、源太、いずれもシャンプーとか石鹸とかのいい香りと泡立ちに姫以上に大絶叫していたことは、いつか千種さんに報告せねばなるまい。
ちなみにさっきハナちゃんが帰ったのは、千姫の着替えや部屋着を取ってくるためだったらしい。サイズもデザインも、なかなかに似合っていた。男どもには…オレのパンツでも貸してやるか。
風呂から出てきた一年たちに、去年五人で撮った写真と、昼間デルタで六人で撮った写真を渡してあげたら、みんなたいそう喜んでくれた。
源太など、家宝にしますと言って、素襖のポケットのようなところに大事そうにしまっていた。
千姫は、リビングにちょこんと座り、ハナちゃんにドライヤーしてもらいながら、嬉しそうに写真を眺めていた。
若者六人。生きてきた時代や背景は違うけど、普通の青春のような夜だった。
さて、明日はどんな青春が待っているやら!




