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(5)寺伝の櫛

ヤタガラスに導かれて、オレたちはかつての修学院村周辺であると思われる修学院離宮に到着した。カラスはさらに飛び、離宮近くの千丘寺境内に止まった。


「ここに何かあるのですか」

と千姫がカラスに聞くと、カラスは「カー」と返事をしただけだった。


「え? 千種さん?」

とオレが呼びかけると、カラスはまたも「カー」と鳴き、そのままどこかに飛び去ってしまった。オレたちは、愕然として顔を見合わせたが、その時、中から一人の尼僧が出てきた。


質素だが、上品な金色こんじきの絹衣を羽織ったその尼僧は、千姫を見るなり足を止め、

「そなたは、もしや…千姫様か」

と目を見開いて、声を上げた。


「なぜにわたくしをご存じなのですか」

と千姫が聞けば、尼僧が言うには、我が寺には言い伝えがある、と。


語るところによれば、

「今をさかのぼること、1680年、玉依光子たまよりのてるこ内親王が本寺を起こしたのじゃ。内親王は後水尾天皇の第9皇女であり、その、後水尾天皇の実父の系譜をたどれば、その11代前は光明天皇。そなたのおじい様じゃ」

「帝がおじい様!」

と驚く千姫。オレたちも思わず、

「えッ」

と声をあげ、一年たち三人衆は、千姫から一、二歩、後ずさったほどだった。


「そして、この寺の古くからの言い伝えとは、その者 三ツ足の烏に導かれ 強き射手を伴のうて いつの世にか現れん。さすれば 寺宝を伝授せよ、というものじゃ」


そう言って、尼僧は千姫に小箱を渡した。

寺宝と言って渡された箱は桐箱で、中には櫛が入っていた。千姫が手に取ってみれば、「礼子」と彫ってある。


「そなたの母じゃ」

と尼僧が言う。

「光明天皇が即位される前にお生まれになったご息女である礼子様は、政変の争いに巻き込まれるのを避けるため、帝が下賀茂神社の摂社である河合神社にお隠まいになったそうじゃ。その後成長され、ご立派な巫女となられた礼子が出会ったのが、そなたの父、陰陽師である安倍有世じゃ。礼子はそなたが物心がつく前に病で亡くなったが、その櫛を娘に、とお残しになった」


尼僧は続ける。

「有世は、いずれ育ったそなたに母の形見として手渡すつもりでおったようだが、溺愛した娘、礼子を亡くした悲しみで亡骸のようになってしまわれた光明天皇を不憫に思い、その櫛を娘と思って下され、と帝にお渡しになったそうだ。娘である千早が大きくなった暁には返してもらうつもりであったのであろうが、どうしたことか、その櫛は、光明天皇ご息女の形見として、代々の天皇に引き継がれ、後水尾天皇のご息女が本寺を起こしたとき、一緒にご持参され、今日まで寺宝として、先ほどの寺伝とともに受け継がれてきたのじゃ」

と説明してくれた。


「かつて我が息子である神武天皇をお導きになったヤタガラスが当寺に飛んできたので、もしやと思い表に出てみれば、弓矢を担いだ偉丈夫に伴われた姫。まさに寺伝の通りと、このババも久しぶりに震えましたぞ」

と、興奮気味に話された。


千姫はずっと驚いたような表情のままだった。

そりゃそうだよね、母である礼子様が帝の娘で、つまり自分は孫ってことなんだから。こんな気軽に接しちゃいけないやんごとなきお方だったんじゃないの~、とばかりに一年たちの方向を見たら、彼らも同じことを考えているような表情だった。


「だから帝は千早さんのことを姫と呼んだんだね」

「帝のお孫さんですものね」

ハナちゃんのこの言葉にハッとしたのか、一年が千姫に膝まづき首を垂れると、他の二人もそれに従った。


千姫は櫛を握りしめたまま、三人衆に向き返り、

「そのようにかしこまらず、昨日と同じように接してください、一年様、正孝様、源太様」


そう言われ、一年たちがもじもじしているのが見て取れたが、まだ頭を上げないでいると、

「ずっとそんな格好してたら、もしもの時姫様を守れないわよ! 昨日のように、と姫様が言ってくれてるんだから、三人とも立ち上がって!」

とハナちゃんにも言われ、ようやく三人とも立ち上がった。

「ありがとうございます、みなさん。昨日と同じようにお願いしますね」

と千姫が改めて言うと、一年が、

「はっ!」

と返事をした。


しばらくこの堅苦しさは続きそうだけど、身分制度の厳しかった時代だもの、仕方ないか、てなことを考えていたら、ハナちゃんが言った。

「でも、これで進展があったわね!」


全員がハナちゃんの方を見ると、

「つまり、この櫛を受取るために姫様はこの時代に飛んできた、ってことじゃない?」

と言ってハナちゃんがオレの顔を見た。


「そうかもしれない。それなら説明がつくかも」

とオレが同調すると、一年と源太もうんうんと頷いている。でもその時、正孝が妙に冷静に、

「しかし妙でござるな。我らの時代に戻れば、その櫛は帝が持っておられるはずなのでしょう? さすれば姫が持ち帰った櫛はどういうことになるのでしょうか…」

と言った。


確かにその通りだ…。

ババ様の言うことが正しければ、千姫の父上が慰みにと、櫛を帝に渡している。だとしたら千姫がこの櫛を持ち帰ったらどうなるのだろう…。


千姫が来たことといい、この櫛といい、謎は、解決はおろか、深まるばかりであったが、とにかく、オレたちはババ様に礼を言い、千丘寺を後にした。


カラスがいなくなってしまっては、今日はもう進展はないだろうと、オレたちは叡電に乗って部屋に帰ることにした。


途中、夕飯でも買おうと通りがかりのスーパーに寄ったら、一年も正孝も源太も、そして千姫までも子供のように大はしゃぎで、またしても質問攻めタイムが始まってしまい、これは鶏を油で揚げたものだとか、これは豚肉を炒めたもの、などと説明するのが大変だった。


結局みなでお総菜や弁当を買い、部屋に着いたのは午後7時を回っていた。ハナちゃんは、何でも家から取ってきたいものがあるからといったん自分の部屋に帰り、後からオレの部屋にやってきた。


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