(10)700年前の写真
櫛がハナちゃんの元に来た理由は釈然としないままだったけど、オレたちはじー様に礼を言い、寺を後にしようとしたら、お主ら二人はカラスに従うがよかろう、とじー様が正孝と源太に言った。すると、どこからともなく例のヤタガラスが姿を現した。
「一件落着かのう」
とお館様の声でカラスが言う。もはや驚きもないが、このじー様はなぜカラスに従えと言ったんだろう、とオレは思ったので、
「和尚、今なぜカラスに…」
と言い掛けたら、千種さんが、
「一年と千姫の祝言の準備じゃ。帝までおいでになるというから護衛やら何やらで人手がいるんじゃ。戻ってまいれ」
と、正孝と源太に言った。
「これから祝言! 私も見てみたいなぁ」
とハナちゃんが言う。
「そうですね。ハナ殿と八瀬殿もお越しになれれば、二人もきっと喜びましょうに」
と正孝が言ってくれたので、では、お前たちも一緒に来るか、という千種さんの声を期待したが、残念じゃが、それはできんのじゃ、とでも言うようにカラスは首をくるくる回した。
雲母坂で、一年に返してくれ、と預かっていた矢筒を正孝に渡した。こくりとうなづき、矢筒を受けとって、正孝と源太はカラスを追って山に入っていった。
オレとハナちゃんは言葉もなく見守るだけだった。
「また会えそうな気がします」
振り返って、正孝が言う。
「できれば戦とか謎解きとかじゃなく、フツーに会いたいね」
とオレは応じた。二人は何度か振り返って手を振ってくれたが、やがて姿が見えなくなった。
二人の姿見えなくなってもオレとハナちゃんはしばらく登山道を見つめていたが、思い直して、事の顛末を報告しようと河合神社に向かった。玉依姫命が祀られる社殿の前に立ち、一連の出来事と「礼子・千早・一年」と彫られた櫛をいただいたことを伝えた。
ふと見上げればいつものカラスがくるくると旋回していた。
「さっき正孝たちと山に入っていったのに…。カラスは何羽いるのかな?」
と誰に言うとでもなく俺が呟くと、櫛の入っていた箱の底を見てみろ、とババ様の声がした。
ハナちゃんが改めて箱を開け、櫛がくるまれていた絹布をどかしてみれば、そこにはみんなで写った写真! 既にカラーではなく、薄茶色に変色していたが、間違いなく昨日渡した写真! それが700年の時を超え、今日に戻ってくるとか! 裏を見れば「我らが友 ハナ殿、健太郎殿へ」とある! あぁ、何と言うことか…!
「結局今回のタイムスリップは誰が何をしたかったんだろう…。てっきり千姫に櫛を戻すお助けミッションかと思ってたけど。でも終わってみればハナちゃんが持ってるわけだしね」
「確かに、あの人たちが来なかったら私が櫛を手にすることはなかったでしょうけど、それにしても何のためだろう?」
きっと、誰もタイムスリップしなくても一年と千姫は結ばれることになったかもしれない。でも、それだと自分が帝の孫だと知らない千姫は、帝を元気づけることもできなかったろうから、櫛は千丘時に行き、千姫が手にすることはなかったろう。櫛の由来を聞き、千姫が礼子様に渡し、帝の元気を回復させたからこそ、再び千姫の手に戻ってきたのだ。そう考えると、やっぱり「礼子」と彫られた櫛を千姫に渡すためのタイムスリップだったのかな。
そんなことをオレが考えていると、ハナちゃんが、
「でもそうまでしてやっと渡すことができた大切な櫛なのに、巡り巡って私なんかのところに来ちゃってよかったのかな」
と言った。
「あれじゃん? 去年、一年たちが自分たちの無事を知らせるために岩に彫ったのと同じで、700年後のオレたちに今回も無事だったぜ、と言うことを伝えようとしてくれたんじゃないの? あるいは世話になったお礼とか。ハナちゃん、姫の髪をといたり、トリートメントしてあげたりしてたから、そのお礼。それか、祝言を上げたって言ってから、その引き出物とか」
オレは続ける。
「…ババ様が言ってたよね。この櫛は玉依姫命の加護が念じ込められているから、子々孫々まで幸せになれるって。ってことは、ハナちゃんはやっぱり千姫の子孫ってことになるんじゃないの?」
ハナちゃんは、それはさすがにないでしょうという表情で、
「案外、次のタイムスリップへの布石かもね」
と空を見上げながら呟いた。




