午前三時の紅茶
あー今日も徹夜だ。
机の上に沢山の本と紙を広げながら、月を眺め、一旦思考を放棄する。
朝昼は慣れていない学園、夕方から礼儀作法の個別練習。
それが終われば、課題と父の仕事のお手伝い、領地の発展の仕方を学ぶ毎日。
土日は学園に入学してから増えた招待状をもらいお茶会や舞踏会。
交流を広く深めるためには大事なこと
私の父は没落しかけた伯爵家を立て直しただけでなく、かつてよりもカルガリア家の地位や権力を高くした。
私はそんな父を尊敬しているし、家の名前に恥じないため、家族のため父のため、完璧なカルガリア家の娘として、努めてきた。
しかし、私はどうにも要領が悪い。だからこそ、人より多く物事をこなさないといけない。
とにかく毎日の怒涛の日々は私が私のためにやっているのだ。
しかし、最近はがんばりすぎた。
体もダルい、頭もズキズキする。
時計をみてから、頭をおさえ少し目をつぶり、ため息をついた。
あと2時間頑張ろう。
3時間も寝れば明日も頑張れるだろう。
ガチャ
部屋のドアが開いた。
伯爵家の家族も使用人のみんなも寝ているはずだ。
私みたいにこんな夜中に起きているのは、ただ1人しかいない。
「……まだ起きていらしたんですか。まったく、体調管理もできない方だ」
そう言いながら、執事のレオンは静かにティーカップを置いた。
この香りは、私の好きなアールグレイ。頼んだ覚えはない。
「もう。いつも先に寝ていいって言っているでしょ。」
ジト目でレオンを見上げる。
「別に、アフィアお嬢様のためじゃありません。今日の茶葉が余っていただけです」
視線を逸らし、きっちり揃えられた手袋が少しだけ震えている。
話をそらしたなと思いながら疑いの目を向ける。
前までいつもレオンは、伯爵家の誰よりも就寝するのが早かった。
なぜなら、レオンは私よりも3つも年下で、伯爵家にいる人の中で一番年下だからだ。
しかし、私が学園に入学後、夜更かしする日は3時になるとチクチク小言を言いながら紅茶を持ってくるようになった。
最近はどっちが年上か分かんなくなってきた。
昔はお嬢様!お嬢様!と後をついてきたのに、今では筆頭執事の教育を受けながら、執事見習いとして雑務をこなし、私の専属執事もしてくれている。
私にもその能力を分けてほしいものだ。
リオンは私が3時間かけていることも1時間で終わる。
しかし、昔みたいに笑顔見せるどころか無表情だ。
少しぐらい喜怒哀楽を見せてもいいじゃないか。
そして、執事志望だからか分からないが、姉弟みたいに距離が近かったのに最近距離が遠くなった。
私が7歳頃は手を繋いで庭を散歩していたのに、今は3歩ほど後ろで歩かれる。
本音を言うと結構寂しい。
そんなことをぼーっと考えながらカップにてを伸ばす。
レオンは慌てて、
「……ほら、熱いので。すぐ飲まないでください」
「いやいや、過保護すぎるでしょ。」
私は湯気が上がる紅茶に手を掛けた。
「だって…俺はアフィアお嬢様が誰よりも大切ですから…」
そう言われた瞬間、彼の手が私の手に触れた。
一瞬だけ、驚いたように目を見開き、パッと手を離す、すぐにいつもの無表情に戻った。
なんとなくレオンの耳が赤い。
寒いのだろうか?
触れた手は紅茶ぐらい熱かった。
「勘違いしないでください。アフィアお嬢様が倒れたら、仕事が増えるだけですから」
駆け足で部屋を出ていく。
けれど去り際、聞こえるか聞こえないかの声で——
「……無理をされると、困るんです」
少しは夜更かしを控えよう
紅茶は、少しだけ甘かった。
良ければ他の作品も読んでください。




