表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦の舞  作者: 闇の獣性
9/26

第9章 — 残酷な報酬(ざんこくなしゅうほう)

アリーナ7-B──

それは鋸歯状のケーブルに吊るされた金属の巨像だった。

下には油と錆の匂いが立ちこめる暗い奈落。

浮遊する可動式プラットフォームを囲むように、

ネオンの光が同心円を描き、まるで儀式の陣のように輝いていた。


観客席には犯罪者、ダンサー、賭博師──

あらゆる人間が詰めかけ、

その熱気が床そのものを震わせていた。


カイトは深く息を吸い込む。

靴の底がプラットフォームの端に触れる。

金属が震え、まるで「夜の最初のビート」を待っているようだった。


中央にはショーマン。

これまで以上に芝居がかっていた。

銀色のコートが閃光を返し、

紫のマスクが光を反射する。

手に握るのは非致死性の武器──

衝撃を放つ伸縮式バトン。

その先端には赤いマイクロライトが点滅していた。

フルチャージの証。


観客が吠える。


「ショーマン! ショーマン! ショーマン!」

「ガキをぶっ壊せぇぇ!!」


カイトは視線を逸らさなかった。

ただ、首領だけを見据える。


群衆の中、サトウは身を隠していた。

手を出すことはできない。

ただ見守り、分析していた。


ショーマンが軽く二歩、踊るように前へ出る。

バトンを振り回し、まるで混沌の交響曲を指揮する指揮者のように。


「ようこそ、我がステージへ──カイト・ヴォーゼ!」

金属的なエフェクトのかかった声が響く。

「舞踏は始まる……“恐怖”が足を動かすその瞬間にな。」


カイトは拳を上げた。

呼吸を、アリーナのリズムと合わせる。


「俺は恐怖で来たんじゃない。」

「リズムで来た。」


観客がどよめく。


ショーマンがバトンで床を叩いた。

──BOOM。

審判AIが作動する。


試合開始

ルール発動:落下=敗北。非致死武器使用許可。


床が動き始めた。


プラットフォームが傾き、小さな隙間が開く。

偽りの段差が現れる。


ショーマンはすぐには攻めなかった。

踊った。

大きなステップ、誇張された回転、

美しさを優先した計算された跳躍。


全ては“罠”。──サトウが言っていた通り。


カイトは冷静に構える。

わずかに動くだけで、傾斜に合わせてバランスを取る。


マスクの下、ショーマンが微笑んだ。


「さて、踊るか……それとも落ちるか。」


攻撃が来た。


バトンが光の弧を描き、空気を裂く。

カイトは低く身を沈め、ステップロールで回避。

そのまま回転蹴りを放つ。

狙いは押し返すこと。


だが、ショーマンは速かった。

恐ろしく速い。


まるで熟練のバレエダンサー。

バトンを床に叩きつけると──

足元のパネルが沈んだ。


カイトの右足が沈む。

重心が崩れた。


観客が爆発する。


「終わりだぁ!」

「落ちた、落ちたぞ!」


だがカイトは、

最後の一瞬で隣のパネルを踏み、腰をひねり、

バランスを取り戻す。


ショーマンが快楽的に笑う。


「美しい!」

「そう、それだ! 観客は“生き残る者”が大好きだ!」


再び攻撃。今度は速く、重く。


カイトはブロック、スライド、後退──

だがバトンが肩を打った。

激しい衝撃。

骨は折れないが、確実に押し込まれる。


カイトの体がぐらつく。

床が彼に逆らうように傾く。

口を開いた“奈落”のように。


観客総立ち。


「落ちろ! 落ちろォ!!」


その瞬間だった。


赤い本能が、心の奥から這い上がる。


視界が狭まる。

周囲の音が消える。

呼吸が軍のリズムになる。


──ディストーションが、表面を引っかいた。

 “目覚め”を求めて。


耳飾りが熱を帯び、緑が暗く染まる。


だがサトウの言葉が脳裏に響く。

「ディストーションを早く出すな。奴に“見せ場”を与えるな。」


カイトは唇を噛む。

目の色を橙のまま保つ。

怒りを喉で押し殺す。


「……まだだ。」


サイドステップ。

フリーズ。

ドロップ。


ショーマンが高速で詰める。


「自分自身と戦う! それが最高だ!」

まるで歌うように。


カイトはバトンの下を滑り抜け、背後に回り込む。

そして、ついに“隙”を見つけた。


ステップに偽装したローキック。

速く、正確。


ショーマンが初めてよろけた。


観客が一斉に叫ぶ。


「オオオッ!!」


カイトは逃さない。

銀のコートをつかみ、柔道の要領で引き倒そうとする。


だが──滑った。

コートには防滑処理が施されていた。


ショーマンが笑う。

くるりと回転し、バトンで床を叩く。


新たなパネルが作動。

カイトの膝が崩れ落ちる。


そして床が激しく傾いた。

彼の身体を、まっすぐ縁へと押し出す。


観客が狂乱する。

サトウの叫びも、喧騒に飲まれた。


足が、宙を切る。

奈落の風が頬を打つ。


落下は──避けられない。


内側で、ディストーションが咆哮した。

目が燃え、記憶が明滅する。


「まだだって言ってるだろ……!」

カイトが震える声で吐き出す。


手で縁を掴もうとした。

だが表面は滑る。


ショーマンがゆっくりと近づく。

勝者の歩き方で。


「高く飛びすぎた者は、必ず落ちる。」


バトンを構える。

落とすだけの一撃。

それで大会前にカイトを潰すつもりだった。


──だが。


カイトが予想外の動きを見せた。


手を離したのだ。


自ら落下を“利用”する。


体が空中で回転。

プラットフォームの側面を蹴り、

その反動で跳ね上がる。


まるで流星が舞台へ舞い戻るかのように。


ショーマンの目が見開かれる。

次の瞬間、カイトが突っ込んだ。

バトンを弾き飛ばし、首領の重心を崩す。


シンプルで、クリーンで、完璧な一押し。


──ショーマンが、落ちた。


静寂。

たった二秒。

永遠のような沈黙。


そして爆発。


「うおおおおおおおおおっ!!!」

「ガキが首領を落としたぞ!!」

「なんだこれぇ!!!」

「ショーマン敗北!!」


サトウが息を吐く。

目を見開いたまま。


カイトは膝をつき、肩が脈打ち、胸が焼ける。


審判AIが表示する。



---


勝者:カイト・ヴォーゼ

新ランク:第7地区 下位首領

獲得報酬:配下8名/領地1つ/債務者2名/直接の敵1名



---


信じられなかった。


自分が──首領になった?


奈落の底から笑い声。


「す、すばらしい……すばらしいぃぃ!!!」

ショーマンの狂気の拍手。

「君の運命は……最高のショーだ、カイト・ヴォーゼ!!」


観客が名を叫ぶ。


「カイト! カイト! カイト!」


初めての“勝利”。

だが、それは同時に

初めての“重荷”でもあった。


サトウの言葉が蘇る。


膝をついたまま、カイトはパネルを見た。

新しい表示が浮かぶ。



---


新規敵対者:4

潜在的脅威:6

ステータス:狩る者/狩られる者



---


地下世界は、彼の光を見た。


──そして今、

その光が燃え尽きる瞬間を

見たがっていた。



---


次の章へ続く:


カイトが息を整えている間、

観客の中の誰かがその戦いを撮影していた。

動画はすぐに“レン”へ送られる。


そこには、たった一行。


「お前の玉座に、新たな候補が現れた。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ