表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦の舞  作者: 闇の獣性
5/26

第5章 — ライバル、現る

カイトは封筒を開く前に、しばらくの間それを握りしめていた。

通りは空っぽ。壊れた街灯が断続的に点滅し、まるで何かを警告しているかのようだった。

メッセージは短すぎた。偶然の言葉ではない。

黒いインク、鋭い筆跡──急いで書かれたが、意志だけは確かに刻まれていた。


「大会に出るな。」


署名はない。

印もない。

ただ、むき出しの命令だけがあった。


カイトは紙を握りつぶした。

胸の奥に薄い怒りが湧いた。

それはディストーションの炎ではなく──

彼自身のものだった。


誰が彼に退くよう命じた?

誰がこの一枚の紙切れで、“ヴォーゼ”の血統をステージから遠ざけられると思った?


彼は紙をポケットにしまい、歩き出した。

夜明け前の街灯が、まるで好奇心を持つ瞳のように彼を追った──

もしかしたら、本当に誰かが見ているのかもしれない。


この地下サーキットでは、

誰かが消えれば誰かが気づく。

誰かが昇れば、誰かがその足を切ろうとする。


角を曲がり、メインアベニューに出た瞬間、空気が変わった。

濡れたコンクリートの上、青いネオンの下に一つの影が立っていた。

中くらいの身長。完璧な姿勢。黒い無地のパーカー。

犯罪者のようでもなく、普通の人間にも見えなかった。


カイトが近づくと、その影が顔を上げた。

淡い灰色──ほとんど銀のような瞳。

青年は、まるで自ら動くチェスの駒を眺めるような笑みを浮かべた。


「カイト、だよな?」

低く、しかし確かな声。


カイトは足を止めた。警戒を崩さず。


「誰だ?」


青年は電柱から体を離した。

その動きには不自然な隙がなく、まるで舞台の振付のようだった。

その歩き方には精密さがあり、肩には規律、足にはリズムがあった。


「レンだ。」

軽く頭を下げる。

「君のことは聞いてる。特に、“落下寸前からの奇跡的な回復”について。」


カイトの背筋が固くなる。


「……尾けてるのか?」


レンは肩をすくめた。


「いや。運命、ってやつだろ。」

再び笑う。その笑みに挑発の色が混ざる。

「このローカルトーナメントは狭すぎる。同じものを求める二人にはな。」


「同じもの?」

カイトが問い返す。


レンは片手を上げ、拳を握り、そして指を広げて前方を押すような仕草をした。


「最強になること。そして──君が壊れる寸前まで、どこまで耐えられるか見てみたい。」


その言葉は、重いビートのように二人の間に落ちた。


カイトは眉をひそめる。


「脅しのつもりか?」


「脅し?」

レンは小さく笑った。

「いや、招待だ。」


「……招待?」


レンが一歩近づく。

その瞬間、光が彼の首元を照らした。

そこにはリーグ本部の認定ホイッスルがぶら下がっていた。

ただのダンサーではない。

彼は正式なシステムで訓練された者だった。


「大会前の親善試合だ。」

レンが言う。

「明日。第9区のプラットフォームで、7時。」


カイトは半歩後退した。

第9区──あの区域は悪名高い。

不安定な可動床、故障したセンサー、そして“戦場環境”を模した危険な訓練施設。

多くの者が避ける場所。


「なんで俺が受けなきゃいけない?」

カイトが問う。


レンは肩をすくめた。まるで答えは当然だと言わんばかりに。


「君は自分の限界を知りたい。

 俺は、それを壊したい。」


その言葉の鋭さが、カイトの鼓動を速めた。

恐怖ではなく──共鳴だった。

その気配、その目の光──

それは“奈落の縁で踊る者”の目。


「もし行かなかったら?」

カイトの声は低く、挑むように。


レンは苛立つほど穏やかな笑みを浮かべた。


「君は来るさ。俺たちみたいな人間は、挑戦を拒まない。」

彼は背を向ける。

「それと──気をつけろ、カイト。匿名の手紙にな。」


カイトの身体が固まる。


レンは振り返らないまま、片手を軽く上げて別れの挨拶をした。


「脅してるとは限らない。

 ──時々、それは“守ろうとしている”んだ。」


そして街の光の中へと溶け、消えた。


カイトはその場に立ち尽くした。

ポケットの中の封筒が、異様に重く感じた。


レンは自分を知っているのか?

ディストーションのことを?

“ヴォーゼ”の血のことを?

それともただ──危険な賭けを楽しんでいるだけなのか?


ひとつだけ確かなことがあった。

明日の決闘は、すべてを変える。


そしてこの地下世界では──

二人の若き才能が“戦のリズム”で出会いを約束したとき、

プラットフォームは起動前から震え始めるのだ。



---


次の章へ続く:


家に戻ったカイトが見たのは、開いたままの窓。

そしてベッドの上に置かれた、二枚目の手紙。


そこには黒いインクで書かれていた。


「レンはお前の味方じゃない。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ