表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦の舞  作者: 闇の獣性
17/26

第17章 — 領土の戦い(りょうどのたたかい)

床から響く音が、違っていた。

それはただの足音ではない。

レイザーの体内で鳴る金属のうなり──

歯車、ピストン、機械の律動が皮膚の下で震えていた。


黒のサーキットの観客たちは、不規則な拍で手を叩き、

名前と金と血の約束を叫んでいた。

円形のアリーナ。

赤い照明が音のビートに合わせて脈打つ。

金属の床は分割され、まるで呼吸するように動いていた。


レイザーが両腕を広げた。

瞳は電気のような青光を帯びていた。

「ようこそ、地獄へ、ヴォーゼの坊や。ここじゃ誰も“偶然”には落ちない。」


カイトは姿勢を崩さず、静かに答える。

「……じゃあ、どっちが先に“床まで踊る”か、確かめよう。」


顔のない影の審判が腕を上げ、叫ぶ。

「──開始ッ!」



---


レイザーが稲妻のように動いた。

最初の一撃は、人の目では追えない速さ。

青い軌跡を残す回し蹴り。

カイトは反射で受け止める。

衝撃が体を二メートル後方へ押しやった。


体内の歯車が悲鳴を上げるように鳴り響く。

──完全な人間ではない。

サイバネティック。

地下の戦場で戦うために“改造された躯”。


カイトは体勢を整える。

橙の瞳で、リズムを読む。


レイザーは攻撃の前に必ず肩を回す。

衝撃の前に、わずかな遅れ。

──パターン、捕捉。


敵が再び踏み込む。

カイトは膝を軸に回転し、横蹴りでカウンター。

完璧な拍で放たれたその一撃が、レイザーを後退させた。


観客が爆発した。

「当たったぞ!」

「ヴォーゼの坊や、ホンモノだ!!」


レイザーは口の端から流れる血を手の甲で拭った。

「いいな……痛ぇのが好きなんだよ。」

笑う。


首筋の横を押すと、腕の赤いライトが強く輝き、

歯車の音が倍に跳ね上がる。

動きが“飛びフレーム”のように断続的になる。

──加速。


カイトは目で追おうとするが、

視界が追いつかない。


四発。わずか一秒。

一撃が肩を打ち、

次が腹部を貫く。

三撃目が床を割り、

四撃目の衝撃波が空気を押し返す。


プラットフォームが傾く。

観客が叫ぶ。

カイトがよろめく。


その瞬間──“歪み”が、勝手に起動した。

危険が引き金を引いたかのように。


瞳が赤に染まり、

イヤリングが脈動する。

逆転した鼓動のように。


レイザーが嗤う。

「それを待ってたんだよ。“ヴォーゼ”の本気を見せろ!」


速度が変わった。

今や二つの残光。

異なるリズムが、同じ舞台でぶつかる。


拳と足が音になる。

衝突が旋律となり、

金属と肉が、

静寂と騒音が、

拍と混沌が──交錯する。


カイトは“歪み”の奥にある原始のリズムを使っていた。

三拍の長調、一拍の短調。

伝説に語られた祖の構成。

身体が生きた機械のように動く。


レイザーのストレート。

カイトが避け、腕を掴んで回転、

そのまま投げる。

だが、レイザーの靴底が床に吸いつく。


磁石。

「簡単に落とせると思うな!」


床が震える。

磁場が金属を裂く。


カイトは気づいた。

──磁場は、逆に利用できる。


後方に跳び、三歩。

足で床を三度叩く。

その音は、磁場の周波数と“同じ拍”だった。


レイザーの脚が閃光を放つ。

「な──!?」


短絡。


カイトが体をひねり、

完璧なフリーズ・スロー。

戦闘と舞踏が交わる瞬間。


レイザーの体が、磁石ごと外へ弾き飛ばされる。


──落下。


アリーナが狂った。

ライトが点滅。

歓声と悲鳴が溶け合う。


審判が腕を上げた。


> 勝者:カイト・ヴォーゼ

報酬:黒のサーキット領土 — 西区支配権





---


カイトは肩で息をする。

体が震え、歪みの残響が皮膚を這う。

瞳がゆっくりと橙に戻る。


仲間たちが駆け寄る。

ミカとダンテが先頭だ。


「ボス! やったじゃない!」

「西セクター、全部うちのもんだ!」


だが、サトウは喜ばない。

血の染みた床を見つめ、

レイザーの手にある“何か”に目を留めた。


倒れた男が笑っていた。

血を吐きながら。


「……勝ったつもりか、ヴォーゼ?」

咳き込みながら嗤う。

「これは……テストだよ。」


サトウが詰め寄る。

「どういう意味だ。」


レイザーが腕を上げた。

手の中の装置が、赤く点滅する。

そこには──レンの紋章。


「……あいつの命令だ。

 “地獄の新しい悪役”がどこまで耐えられるか、試せってさ。」

血にまみれた笑み。

「それと──もう一つ言ってた。」


「なんだ?」

カイトの声が低く響く。


レイザーは血混じりの息で言葉を吐いた。


> 「“やつが歪みを支配したとき──俺が、やつを支配する。”」




言葉が、空気を切り裂いた。


観客の声が止む。

床の振動が止む。

沈黙が、鉛のように落ちる。


カイトが一歩前に出る。

「……レン。まだ俺を操ってるのか。」


レイザーは、息が尽きるまで笑っていた。

「お前は、ステージを降りちゃいない……

 ただ、場所が変わっただけさ。」


そして──意識を失った。


サトウがカイトを見る。

「……奴ら、分かってる。

 歪みは“トリガー”だ。

 お前の体、戦い、リズム──全部、観察されてる。」


ミカが震える声で言う。

「つまり……全部、レンの振付の一部ってこと?」


カイトは自分の手を見る。

まだ震えている。


「違う。」

深く息を吸い、目を閉じる。

「……これからは、俺が“拍”を書く。」


サトウは頷いた。

だが胸の奥では悟っていた。


──次の“踊り”はもう違う。

それは、戦争だった。



---


次の章へ続く:


アリーナを出た瞬間、

黒のサーキットのスピーカーから新しい声が流れた。


冷たく、遠い声。

レンのものだった。


> 「第一の堕落──肉体。

第二の堕落──精神。

残るはひとつだ、ヴォーゼ。

第三の堕落──心だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ