第10章 — ギャングの誕生(ぎゃんぐのたんじょう)
アリーナはまだ叫びと熱狂で震えていた。
カイトがプラットフォームから引き上げられたのは、
クラブの補助員たちによってだった。
それは保護のためではない。
群衆が新しい首領に触れようと、
舞台に雪崩れ込もうとしていたからだ。
煙と汗と金属の匂いが、まだ肌にこびりついている。
サトウが現れた。
顔には、影のような不安が浮かんでいた。
「……無茶をしたな。」
腕をつかみ、カイトを立たせながら言う。
「だが、勝った。──問題はここからだ。」
「……どういう意味?」
息を整えながらカイトが問う。
サトウは答えず、ただ指をさした。
アリーナの向こう側から、八つの影が近づいてくる。
若者たち。
傷跡を持つ者。
髪を染めた者。
刺青やピアス。
戦闘に耐えうる機能的な服に、
ストリートのスタイルを混ぜ合わせた姿。
彼らは、まるで新たな指揮官の前に立つ兵士のように、
整然とカイトの前で止まった。
最初に口を開いたのは、
赤いバンダナを巻いたドレッドヘアの長身の男。
「首領ショーマンは落ちた。
お前が、みんなの前で奴を倒した。」
拳を上げる。
「だから今、俺たちはお前の部下だ。」
カイトが瞬きをした。
「……俺の?」
痩せた背の低い青年が、苛立ち気味に答える。
「地下のルールだ。
ボスを倒した者が、その部下を継ぐ。伝統だよ。」
青い髪の少女が腕を組む。
顎にマスクを下げ、腕には波の刺青。
「そういうこと、ボス。
あたしたちは今、あんたのチーム。
あんたが落ちたら……一緒に落ちる。」
カイトの肩に、
新しい重みがのしかかる。
八つの命。
八つの過去。
八つのリスク。
「……そんなつもりじゃなかった。」
カイトが呟く。
赤いバンダナの男が笑う。
「誰も“つもり”で動いてねぇよ。
この世界じゃ、踊りがすべてを決める。」
次々と名前が告げられた。
ダンテ ― 赤いバンダナ。爆発的なリズムと近接戦のエキスパート。
ミカ ― 青髪の少女。プラットフォームの罠とトリックの達人。
リョウ ― 小柄で短気。非致死性の飛び道具と機動戦術に長ける。
タリク ― 赤毛の男。柔軟な体でアクロバットのように戦う。
ニア ― 控えめだが、押し技の精度は外科的。
コービー と アユ ― 双子の連携デュエル専門。
ハル ― 無口で冷静。動きは完璧。
彼らは、つい昨日までショーマンの配下。
そして今は──カイトのものになった。
サトウが肩に手を置く。
「お前には“ギャング”ができた。」
その声は、警告と諦めが混じっていた。
「力を持つということは、責任を背負うということだ。」
カイトは彼らを見た。
擦り切れた服。
恐れと希望が入り混じる瞳。
「俺は支配者じゃない。」
カイトは静かに言った。
「俺と共に行くなら歓迎する。
だが、強制はしない。自由だ。」
沈黙。
ミカが首をかしげた。
ダンテが口笛を吹く。
「へぇ……部下いらねぇリーダー? 初耳だ。」
リョウが鼻を鳴らす。
「ショーマンの下にいた時は、選択なんてなかった。
でもお前は“倒した”。──それで十分だ。」
タリクが微笑む。
「それに、お前は誰も殺さずに勝った。」
目が光る。
「それが……俺たちには大事なんだ。」
ニアが一歩、控えめに前へ出る。
「……残りたいです。あなたが望むなら。」
カイトは深く息を吸った。
「分かった。」
手を上げる。
「俺たちはチームだ。軍じゃない。
全員に発言権がある。
誰も置き去りにしない。」
八人の間に視線が交錯する。
それは新しい空気。
新しい秩序。
誰も知らなかった“リーダーシップ”の形。
ダンテが拳を高く掲げた。
「よし、決まりだ!
“ヴォーゼ・ギャング”──ここに誕生だ!」
その名は、すぐにアリーナ全体へ広がった。
誰かが叫ぶ。
誰かが繰り返す。
数秒で、数十の声が一つになった。
「ヴォーゼ・ギャング! ヴォーゼ・ギャング!!」
サトウが深くため息をつく。
「……これで、さらに面倒になったな。」
カイトが片方の口角を上げる。
「いつも通りさ。」
だがその瞬間、
ミカのポケットでスマホが震えた。
画面を見た彼女の目が見開かれる。
「……ボス、見て。」
彼女がスマホをカイトに向ける。
映っていたのは、ショーマンが落ちた瞬間の動画。
だが重要なのはそれではなかった。
固定コメントの名前。
REN_OFFICIAL
そこに書かれていたメッセージ。
> 「見事だ。
トーナメントで会おう、カイト。
それまで生き残れるといいな。
……今や、誰もが“お前の落下”を望んでいる。」
すぐ下に、新しい通知が現れる。
コメント20件:
「カイトを消せ。」
「ショーマンが落ちた。次は奴だ。」
「ヴォーゼのガキを第9区に連れてこい。」
「王座を勘違いした奴に報いを。」
ギャング全員が沈黙した。
カイトは、勝利の“本当の重み”を感じた。
名前を得た。
仲間を得た。
領地を得た。
だが同時に──
より大きな敵をも得た。
レン。
“沈黙の振付師”。
王座を狙う男。
そして、決して負けを許さないライバル。
サトウが肩に手を置き、真剣に言った。
「もう一人じゃ動けない。」
ダンテが続けた。
「……そうだ、ボス。
今の状況じゃ──」
「──大会が始まる前に、
あんたを落としにくる。」
---
次の章へ続く:
翌未明。
倉庫の扉が破られた。
中には──
**カイトを倒すために送られた“非致死の刺客”**が待っていた。




